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アンドレ

 「いやぁ、大したものだ。 まさか俺のゴーレムがやられるなんて思ってもみなかった。 いや、想定はしていたがね。」


 暗闇から出てきたのは一人の青年。クリードだ。パチパチと手を叩きながらゆっくりとアンドレの前に姿を現す。


 「お前は一体何者だ?」


 一見、ただのみすぼらしいガキ。体はやせ細り、魔術師特有の魔力も感じられない。だが、兵士としての感はこのガキを危険だと警戒している。


 それも最大限に。


 アンドレの問に対し、グリードは小馬鹿にした回答をする。


 「何者かって、お前らに拉致られたかわいそうな非魔術師。自分の意思に反してここで働かされている労働者……だろ? お前らが一番よく知っていることじゃないか。」


 「このゴーレムを操っていたのはお前か?」


 「だったら?」


 「今すぐ動きを止めろ。」


 「拒否する。」


 「てめぇ…… ノーザンバーグを敵に回す気か? こんなことしてただで済むと思ってんじゃねぇぞ?」


 アンドレは怒り心頭だ。言葉に怒気が加わり、剣呑な表情をグリードに向ける。普通の男だったらそれだけで小便を漏らすかもしれない。


 「そのノーザンバーグを敵に回さないとここから出られないだろうが。それとも何か? ここから出してくださいって言えば追わずに出してくれるのかよ?」


 「…… 出すわけねぇだろうが」


 「ハハハ、全くもって傲慢なことだ。つまり、俺たちは死ぬまでここで働け、抵抗は許さん、ということだよな。 当然ながら答えはノーだ。 さぁ、さっさとかかって来いよ。」


 すると、グリードの後ろの暗闇から姿を表す二つの巨体。


 ガシン、ガシン と重量感のある金属音を響かせてグリードの前に姿を現したのは、金属製と思われる屈強そうなゴーレムだ。それも2体。


 手には巨大な剣と盾を持っており、恐らくあんな重量感のある武器を扱えるものはこの国にもそう多くないだろうとアンドレは考えた。


 あの剣…… 一撃喰らえばそれで終わる。


 ゴクリ


 アンドレの喉が鳴る。


 もし、先ほどのゴーレムと同じようなスピードで攻めてくるのなら、それが2体もいる時点で恐らく勝ち目はないだろうととっさに判断できた。


 ならば、初手で、そして一撃でゴーレムを操るあの青年を殺す。


 それが恐らくアンドレの唯一の生存できる道だろうと思った。であればやることは一つ。アンドレはブーストを発動しようとした、が――――


 「させると思うか?」


 何?


 アンドレがその言葉を耳にしたとき、同時にパリィンと何かが砕ける音が聞こえた。それと同時に左腕に激痛が走り、膝をつく。


 「ぐはっ!? なっ、何が起こった?」


 痛みをこらえて左腕を見てみれば、何本もの金属の細い棒が腕に食い込み、大量の血が噴き出していた。それだけではなく、ブーストの魔道具が破壊されていた。


 偶然?


 いや、違う。こいつは間違いなく魔道具の破壊を狙った。それが証拠に全ての攻撃が魔道具を装着していた左腕に集中していた。


 そして、初めてみる、杭のようなものを投擲する攻撃方法。


 さっきまでは気づかなかったが、上を見れば得体の知れない飛行物体がアンドレを取り囲んでいた。



 この空飛ぶ物体は何だ?

 どうして俺の左手に魔道具があるのが分かった?

 どうしてブーストを使うことが分かった?



 様々な謎がアンドレの頭を駆け巡る。


 ここにきて、アンドレは勘が告げていた警戒心を認めざるを得なかった。


 こいつは異常だ、と。



 「そう易々と同じ手を食うと思うか?」


 グリードのその一言でアンドレは理解した。こいつはゴーレムの目を共有している、と。


 「ぐぐぐっ、痛ってぇぇ、一体どんな手品だ…… てめぇ、さっきの戦闘を見ていたな?」


 「そこに気づくとは大したものだ。 ああ、その通り。 だからこそその左手の魔道具を破壊させてもらった。 で、他に奥の手はないのか? まぁ、あったとしてもこれで終わりだ。」


 ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ


 サーチャーの射出する釘が今度はアンドレの両足を攻撃する。


 「ぐふぅうっ?」


 アンドレは何とか痛みをこらえるも、もはや戦局を挽回できる手などなかった。両足の動きを封じられれば、右手が無事でもどうにもならない。


 「さぁ、どうする?」


 「その余裕面がマジでむかつくな…… 残念ながら奥の手なんてねぇよ。 あれが封じられた時点で俺の負けだ。 で、どうするんだ? 俺を殺すのか、捕虜にでもするのか。 それとも何か情報を聞き出すのか。」


 情報、という言葉を聞いてグリードはわずかに反応してしまった。確かに情報は欲しい。宿舎を物色している中でこの国の地図は手に入れたが、グリードの故郷のジルコニアに向かうにはどういうルートが良いか? という情報は皆無だった。


 とはいえ、仮にこちらが欲しい情報を得たとしても、敵の情報を鵜呑みにするわけにはいかない。嘘をつかれている可能性が高い。


 そんな戸惑う俺のことが何となく察しがついたのか、アンドレが口を開く。


 「別に嘘なんてつかねぇよ。 ハァハァ…… お前の性格は気に入らねぇし、うぐっ…… 非魔導士にやられた…… なんて自分が情けなくてしょうがないが、ハァハァ、敗者は勝者のいうことを聞くもんだぜ。 それに、どうせ俺を生かしておく…… つもりはないんだろう? だったら、お前に情報を流した俺の罪も問われねぇってもんだぜ。」


 随分と血を失ったせいか、苦しそうに話すアンドレ。見れば床一面に血溜まりができていた。


 「ふん、それでは聞こう。 ジルコニアに向かうにはどういうルートがいい?」


 「やはり故郷に帰りたいか。 ……それにしてもお前のバーグ語はネイティブ並みにうまいが…… まぁいい。 東の海岸を目指せ。 途中…… いく、つか大きな……町や小さな……村がある、が、そういうところは……避け……ること……だ……な。」


 アンドレは焦点を失い、意識がとぎれとぎれなのか、随分と聞きづらい。だが、話の内容は理解できた。


 ノーザンバーグとサウザンバーグは、バーグ語という言語だ。グリードの故郷のジルコニア語とは違う。ばれることはないだろうが、転生の際に得た言語理解の能力のおかげでこうしてアンドレと不自由なく会話することができていた。


 そこに違和感を持たれたのもまたこの男が初めてだ。戦闘力だけでなく勘も鋭い。


 正直、殺すには惜しいとさえ思った。


 だが、俺が手を下すまでもなく――――


 「死んだか。」


 失血死、というやつだろう。


 その表情は俺の勝手な見立てに過ぎないが、随分と穏やかな死に顔だと思った。この施設の戦闘において、少しでもその死を惜しいと思ったのはこの男ただ一人だった。


 だが、だからといってやることは変わらない。


 「こいつは頂いていくぞ。」


 俺は地面に転がっていたヴァルモンテをゴーレムに回収させると、その場を後にした。俺のゴーレム1体を屠った名槍だ。このマジックオーブに組み込まれた魔術は俺がありがたく使わせてもらう。


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