仲間
俺の目の前に積み上がっていくマジックオーブを見て俺はほくそ笑む。随分と簡単にいったものだと思う。
ここを抜け出したくないか?
奴等に言ったのはこれだけのこと。
当然、だれもがここを出たいと思っている。だからこそ、その具合的な計画も聞かずに俺に協力してくれるようになった。
「拉致された仲間だしな」
今でも笑いが止まらない。「仲間」だと? 確かに、ここから出たいという思いが一致しているという点ではそう呼べなくもない。
だが、根本的に勘違いしている。
俺がお前達を引き連れてここから逃げるメリットなど何もない。追っ手が来たら戦うのは俺だけだろう? つまり、逃げている間は一方的に俺がギブするだけ。
そんなのを俺は仲間とは呼ばない。
ましてや、今知り合ったばかりで互いに名前すら知らない。もっとも、名乗られても覚えるつもりは無いが。
さて、集まったマジックオーブはその辺にあった大きな袋に詰め込んだ。
あとは職員の宿舎で未だに交戦中のゴーレムを支援しに行く。
この施設の職員は誰一人として生かす訳にはいかない。
「さて、俺は宿舎に向かって戦闘を終わらせてきます。危険ですからここで待っていてくださいね。」
「わっ、わかった。無事を祈る。」
「ええ、期待してください。」
ここから逃げられるという期待に満ちた表情を向けられると、ちょっぴり罪悪感が芽生える。
ふと、ダインと言った施設職員に目を向ける。既に肺と心臓、腹の三ヶ所に釘をくらい、既に死んでいるのは確かなはずだが、念には念を入れておこうと思う。
サーチャーに指示を出し、頭に釘を打ち込み、俺は魔道具工房をあとにした。
ガチャン
工房の扉が閉まる。
グリードが去ったことを確認し、労働者たちがひそひそと話をしていた。
「おい、本当にここから出られると思うか?」
「わからん。ただ、あのゴーレムがあればもしかしたら……」
魔術師であるここの職員を歯牙にもかけない圧倒的な強さを目の当たりにして、労働者達は多かれ少なかれ希望を抱いていた。
だが、同時に恐怖もある。あの力が自分達に向けられればどうか? 敵うはずがない。
「あれが手には入れば……」
そのセリフを言った者に視線が集まる。
「いっ、いや、ちょっと思っただけだ。だが、ここから一緒に逃げる仲間だろ? だったら、俺達にも使わせてくれてもいいんじゃないかと思っただけだ。」
「それもそうだよな。あんなゴーレムを一人が独占するのは間違っている。皆で共有すべきだ。」
「「そうだそうだ!」」
「それに、あんな若造にあの力は過剰すぎる。やはり年配者が適切に管理してやらねばな。」
「ここを脱出したら早速彼を説こう。」
ついさっき助けられた恩など忘れ、今ではゴーレムという強力な力に魅力され、グリードからそれを奪うことを正当化する。
それがいかに自分勝手な欲望かなんてことは誰も思わない。