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魔道具工房の惨事

最初は職場の同僚が扉を開いたのだとでも思ったのだろう。


 入り口付近にいた作業監視役の男の一人がこちらをゆっくりと振り向いた。


 警戒心はなく、何かの連絡か? くらいにでも思ったのだろう。


 そんな男に容赦なくサーチャーの射出する釘が放たれる。


 ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ


 頭、と胴体を狙い、全てが狙い通りに命中する。その男は声を発することもなく、その場に崩れ落ちた。


 既にアルスマンやハーケンを目の前で殺した俺だ。それに映像を通してとはいえ、工場の外の敵を殺しまわっているのを見ている。今更そこに1人追加されても何も思わない。


 この短期間で随分と俺も変わってしまったものだ、と妙に冷めた自分がいた。


 ちなみに、後悔の念は全くない。


 やらねば自分が死ぬだけ。


 そして、自分が死んでも人を殺したくない、というほど俺はできた人間じゃあない。地球はおろか、この世界の殆どの人間がそう思うように、俺も自分が可愛いものだ。「俺のために死んでくれ」と言われて「はい分かりました」と応える馬鹿はそういないだろう。


 俺は死んだ男には目もくれず、次の獲物を探し回ろうとするが、監視役の男が一人目の前で死んだところを見て、その場にいた作業者達は驚き、俺を注視した。


 食堂で顔を見かけただけの男、それもただ一人ゴーレム工場の整備を行っている、自分たちとは関りが薄い青年。その青年が何故か魔道具工場に表れ、さらに監視役の男を一人殺した。


 きっと奴らの頭の中ははてなマークで埋め尽くされていることだろうよ、と心の中で笑ってしまう。正面切っての敵ではないこいつらのことなど正直どうでもいいのだが、下手に動かれてこちらの邪魔をされるのはかなわない。


 なんせ、20名もいるのだ。


 だから、初めに釘を刺す。


 「安心しろ。俺はお前らの敵じゃあない。だから大人しくしておいてくれ。あと、時間が惜しいから質疑応答は受け付けない。」


 「ウッ……」


 何かを言いかけた目の前の男が口を塞いだ。


 ああ、最初に釘を刺しておいて正解だった。これで無駄なやり取りをせずに済む。


 さて、まだこの部屋には施設職員がいるはず。俺は部屋の中を見渡すが、獲物はすぐに見つかった。服装で一発だ。


 その二人はお互いアイコンタクトで何かを相談し合っているように見える。まぁ、十中八九この部屋からの逃亡だろう。なんせ、得体の知れない空飛ぶ武器で一瞬にして仲間が一人殺されたんだ。この状況で正々堂々とこっちに殴り込みに来るほうが頭がどうかしている。


 つまり、多少考える頭はある、ということだ。


 だが、この部屋の入り口はただ一つ。そしてそこは俺によって抑えられている。つまり、俺をどうにかしない限り逃げられない。


 ただし、こちらとしても厄介ではある。


 彼我の間にはここで働く同類たち(労働者諸君)がいる。途中の彼らを振り払いながら突き進んでもいいが、障害となりうる。そんなリスクは抱えたくない。


 なので、こちらから奴らをけしかけることにしようと思う。


 「そこのお二人さん。投降するなら殺しはしませんよ? 大人しくこちらに来てくれませんかね?」


 二人は顔を見合わせる。


 そして、彼我の間にいる同類たちはこれから起こるかもしれない争いを恐れて脇に逸れる。


 「仲間を一人殺したお前の言葉を信じるはずがないだろう。だいたい、俺を生かしてどうするつもりだ?」


 職員の一人が口を開く。歳は30代半ばだろうか、落ち着きがあり、慎重な男だ。だが、そのセリフは想定通りだ。


 「こちらの目的はさっきも言った通り、ここからの脱出だ。外にはまだ仲間が大勢いるだろう? だから、そこを切り抜けるための人質になってもらう。」


 「じゃあ、何故1人殺した?」


 もっともな質問におれは肩をすくめる。


 「このフロアに入ったらすぐ目の前にお前の仲間がいた。身の安全を確保するために、咄嗟の判断で攻撃したまでさ。あんただって急に目の前に敵が現れたら殺すだろう?」


 「勝手にこのフロアに入ってきて、目の前に敵が現れた、だと? ふざけるのも大概にしろ。全てお前がやり始めたことだろうが。」


 もっともなことだ。


 もっとも、目の前の奴と振る舞いの正当さなんて競っているわけじゃないのでどうでもいいが。


 そして、これまでの会話で十分すぎる時間は稼げた。途中経路にあるのは労働者達がいじっていた魔道具が散乱しているだけ。ゴーレム達を向かわせても何も問題ないだろう。


 が、こちらの意図が分かったのか、仕掛けてきたのはあちらからだった。


 「行くぞ、マオ!」

 「おう!ダイン、任せろ!」


 二人の職員は俺目がけて突進してくる。どうやら考えていたことは同じだったらしい。


 だが、大した装備も持たない二人が、サーチャー4台に漆黒の金属製ゴーレム2体を前にして突撃してくるとは恐れ入った。


 一瞬、「自殺願望でもあるのか?」と考えたが、どうやらそうではないらしい。


 ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ


 サーチャーの放つ釘が二人に命中する。


 が、二人は頭と胸を腕で覆い、その腕に釘を受け、スピードを落とさずに突進してくる。


 「なるほど、考えたな。」


 「ふん、致命傷を避ければ何ともない。あとは愚鈍なゴーレムのみ。それを躱せばお前の負けだ!」


 「覚悟しやがれっ!」


 マオという男が腰の剣を引き抜き、俺に襲い掛かる。中々に訓練された、迷いのない抜刀と動き。これまで外で戦っているゴーレム達の戦闘情報でこの施設の職員達の動きも見てきたが、一回りか二回り戦闘慣れしているように思えた。


 だが、それだけだ。


 俺を守る2体のゴーレムの丁度間をすり抜けようとしたはずだった。それができるだけの十分なスピードがあったように思えた。


 ただのゴーレムだったらきっとできただろう。


 「ぐがっ!?」


 まさに2体のゴーレムをすり抜けようとしたとき、マオの背中に衝撃が走った。それはただ「衝撃」という2文字で表すにはあまりにも言葉が足りない、マオが生まれてこの方味わったことのないもの。


 漆黒のゴーレムは最低限の動きで、的確にマオの背中を捕らえ、拳を振り下ろした。


 その場にいた誰もが唖然とする。


 ゴーレムは確かに強力な力がある。だが、それは愚鈍な動作で、その攻撃はめったに人間に当たることはない。そういうものではなかったのか?


 「ふむ。中々の動きだ。背骨は砕けたか。」


 そんな周囲の反応を無視して、俺は漆黒のゴーレムの仕上がりに満足した。


 マオという男を見れば、まともに動かない体をピクピクさせ、「ガッ? アッ?」と言葉にならない嗚咽を漏らしていた。その表情は苦痛と驚愕が見て取れる。


 そんなマオを見下ろしながら俺は笑みをたたえながら口を開く。


 「お前の敗因はゴーレムが愚鈍という先入観を持ってしまったことだな。」


 「まっ、まてっ!」


 慌てるダインの声を無視して――――


 ドシィィィン


 グチャッ


 漆黒のゴーレムの重厚な足が容赦なくマオの頭を踏みつぶした。


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