ドローン型ゴーレム 試作機
錬成APIを用いてドローンのパーツを作っていく。羽根、羽根を回すためのシャフト、それに胴体。カメラとマイクも必要だ。
カメラとマイクはゴーレムの体から拝借した。部品を錬成で適度な大きさに分割する。だが、随分とその仕組みは単純というか地球の工業製品のような緻密さは不要だった。それは願ったりかなったりで、まさかこんなところで精密機械のような繊細なものは造れないし、そんなノウハウは俺は持っていない。
必要なパーツを揃え、それに小型化したパワーポットとマジックオーブを取り付け、無事に試作機は完成した。
俺は腕にベルト式で固定したマジックオーブを起動する。これはいわばリモコンのようなもので、こいつを起動するとドローン式ゴーレムも起動する仕組みだ。しかも、ゴーレムから得た無線通信APIを活用することで、ドローン式ゴーレムのカメラとマイクから映像と音声をひろうことができる。
「理論値的には、半径5キロに渡って通信可能とあるが、まぁ、無理は禁物か。」
別に無線通信の距離を試したいわけではないから、まずはテスト飛行も兼ねて敷地内を誰にも気づかれることなく探索できればいい。
「ドローン式ゴーレムと言うのもアレだから、名前を付けるか。そうだな……」
俺は少し考えた末、探索、偵察を目的とする、という意味合いで、”サーチャー” と名づけることにした。
「センスのないネーミングだな…… 我ながら」
自嘲気味に苦笑いする。だが、時間に余裕はない。さっさとこの施設の探索を始めることにしよう。
早速、サーチャー1号を窓から飛び立たせる。独房には通気用として外界に通じる窓が一つだけある。高いところに設置されているので、俺からはただ星空しか見えないのだが、サーチャー1号なら十分に外へ出られる。
サーチャー1号は問題なく窓を通り抜け、外界に出る。その映像をARのウィンドウ越しに身ながら俺はガッツポーズを決めた。成功だ。
外は多少風があるが、それでも飛行には支障ない。
俺は独房の1階部分までサーチャーをおろすと、まずは周囲の人影を探す。今は時間にして夜の2時くらいか。だというのに、独房の入り口には警備が1名見張っていた。
そのまま、その警備に見つからないようサーチャーを独房の入り口から伸びる道をまっすぐ進ませればすぐに工場が見えてくる。
俺達労働者の移動範囲は本来ここまでだ。独房と工場の行き来のみ。食堂は独房内にあるから、本当にこの一本道だけが俺達の知っている道。
工場の建物の入り口にもまた警備がいる。それも2名だ。
俺はサーチャーを10メーターほどの高さに固定して探索を行うことにした。この高さなら人目につくことはそうそうないだろうという判断だ。そのまま工場をつききり、まっすぐ向かう。やがて、恐らくこの施設全体の入り口と思われる門が見えてきた。
詰所が併設されている厳重な門。高さは5メートルはあるだろうか。そして左右を見渡せば施設は煉瓦の壁で覆われているのが分かる。それも門と同じく高さが5メートルはある。
「チッ、これは普通の人間が壁を飛び越えて逃げるのは難しそうだな。」
想定はしていたが、やはり結構厳重な施設だということを改めて思い知り、俺は舌打ちする。
「とりあえず、壁伝いに施設を一周してみるか。」
やはり、壁は施設を取り囲むように設けられており、どこも同じ高さの壁があるのが分かった。門は東西南北に4か所あり、どこも警備が常に見張っている。
建物は、独房と工場と、この施設の職員がいると思われる宿舎の計3つ。意外とシンプルだな。職員の宿舎の外観から、部屋の数はおよそ40。つまり、40名はいるということ。
「逃走するとなると、真っ先に追いかけてくるのがこの40名というわけか。これは厄介だな。」
今までこれほど多くの人間と鬼ごっこをすることなんて無かった。しかもこの弱った体で門の外を逃げ回る? 馬鹿な話だ。とても勝ち目がない。相手は軍事のプロで、この周辺の地理にも明るいはずだ。サーチャーで門の外の様子を探るにしても、実際の移動は俺の生身の体で移動しなければならない。
「まだまだ準備が必要なようだ」
ため息が出る。逃走はやはりそう簡単には行かなさそうだ、ということが良く分かった。