過労死
いつの時代もエンジニアに休息はない。俺もそうだ。働き方改革?なにそれ、美味しいの?って思ってしまう。
いや、確かに変わったんだよ。納品先と管理職の帰宅時間が早くなったな。お陰で実働部隊の作業管理はますます難しくなった。
まぁ、仕事は楽しいよ。今はドローンの制御システムの開発だ。流行りのAIと地図情報と連動して、目的地まで自動運転する。日々の飛行データは蓄積され、AIにより改善がなされる。
そんなワクワクするものを作っている傍らで、やはり日々の過酷な労働は俺を肉体的にも精神的にも追い込んでいく。
ふとした瞬間、俺の意識がフッと飛ぶ。
(あれ? どうしちまったんだ?)
そう思った時には俺はもう死んでいたようだ。
◆
「ここはどこだ?」
真っ暗な空間にいることに気づいた俺は声をあげる。ただ、自分の手足さえ見えない状況で、一体何がどうなったのか分からず混乱する。
そんなときに、自分ではない声がどこからともなく聞こえてきた。
「やぁ、ようやく目覚めたかい? 異世界の若者よ。」
「すまない、声は聞こえるがなにも見えない。あなたは誰だ?」
「ああ、どうせ短い付き合いだから知らなくていいよ。それよりは残念だったね。君は死んだよ。」
死んだと言われてもいまいちぴんとこない。じゃあ、今しゃべっている俺はなんなんだ?
「君は今、魂だけの存在なのさ。だからここでは何も見えない。ああ、君が何を言っているかは分かるよ。僕は魂を扱うのは慣れてるからね。」
もう何を言っているのか理解不能だった。魂とか、オカルトに興味も関心もない。
「君には違う世界で生きてもらおうと思っているんだ。よく聞くだろ?異世界転生。」
「いや、聞きませんけど? 転生させてくれるというのなら、何故あえて異世界なんです?」
地球に転生させてくれた方が低コストで済みそうなものだ、
「それだと面白くないじゃないか。」
「人の人生を面白がらないでもらいたいですね。というか、別に転生なんてしなくていいから、このまま死なせてください。」
転生しても、きっとまたろくな人生にならない。それより今は寝たい(魂にも睡眠欲があるのかは不明だが)。
「下等な人間の癖にナマイキだね。君に拒否権はない。君の転生は決定事項だ。それじゃあね。」
「は? あ、ちょっと?」
転生は決定事項だったら、初めから何も話さずにそのまま転生させればいいのでは?と思ってしまったのは内緒だ。余計なこと言うとますます状況が悪化しそうだ。
「何か転生の特典みたいのはないのか? いきなり異世界に放り出されても生きていく自信がないんだが。」
しばしの沈黙のあと、答えが帰って来た。
「まぁ、異世界の言語くらいは分かるようにしてあげるよ。」
偉そうに言うが、それってそんなに凄いことなのか?と。普通、異世界転生といえば、チート的なスキルをもらえるのが常套じゃないのか?? まぁ、貰えるものはもらっておこう。
「それだけ? もうちょっと生きていくのに有用な物はないわけ?」
「はぁ、僕は忙しいんだ。それじゃあね。」
「ちょっと!?」
また意識が遠退いていく。