4,恨み
さぁ、ここからどうしようか。
私は、身の前の椅子に座っている香音ちゃんに視線を移す。
すると、彼女も私を見ていたようで、ぱちりと目が合った。
そのまま、無言が訪れる。
その気まずい時をたったのは、香音ちゃんだった。
「おじさん、御手洗、どこ?」
「あ、あぁ、御手洗?部屋をでて、右の2番目のドアだよ。」
「解った。借りるね。」
「あ、うん」
香音ちゃんが出ていったドアを見つめる。
やはり、さっき感じた虚無感は勘違いだったのかと考えるほど、彼女は普通の女の子だった。
無言の間、困った様に視線を彷徨わせる姿も、御手洗の場所を聞く時ちょっと恥じらう姿も、年相応の少女そのものだった。
「おじさん、ありがと。」
ついびくり、としてしまう。いつの間にか、香音ちゃんが帰ってきていたようだ。
さぁ、とりあえず、彼女のことを知らなくては。
「えっと、自己紹介をお願いできる?」
「もちろんです!私の名前は…さっき言ったしいいや、歳は18で、孤児です。今の仕事に就いたのは、十年前ですね。」
耳に入ってきた言葉に思わず愕然とする。
この子は、8歳の頃から殺しをしていたというのか?
というか、なぜそんな小さい頃から殺しをしていたのだろう
「それじゃあ、今の仕事に就いた理由を教えてくれるかな?」
「買われたからです!」
「………は?」
買われた?こんなご時世にそんな事があるのか?
それに、殺し屋組織がこんな少女を、何故態々買うんだ?
そう考えていると、彼女は呑気に笑った。
「びっくりですよね、こんな時代に、こんな国で人身売買があるなんて。でも、事実なんですよね、孤児院の人間みんな殺したら、5000万払うからうちの組織へ来ないか?って!!住む場所も食べるものも無い身、そりゃあOKしかないですよね!」
「孤児院の人間みんな殺した?…どういうこと?」
「もー、おじさんは理解力がないなぁ、そのまんまだよ!私の事、みんながいじめるから、殺してやったの!」
あぁ、前言撤回。
彼女は、何も無い訳じゃあない。
彼女は、この世への恨みしか持っていないのだ。