1,出会い
それは、葉が少しずつ色づき始めた、秋のことであった。
「火事だ!!」
「誰かが火をつけたんだよ、僕見たもん!」
熱気が周りを夏に逆戻りさせる中、野次馬が騒いでいた。
話が聞こえてくるあたり、どうやら放火魔が出たらしい。
まぁ、私には関係ない事だ。
私は、人でごった返している道路を避け、路地裏を通って帰ることにした。
たまに使う見慣れた路地裏に足を踏み入れる。
そこには、相変わらず缶やら煙草やらが、この煩い喧騒の中、我関せずといった様子でどっかりと座り込んでいた。
どんどん細い道を進んでいく。
そうすると、表の騒ぎ声が遠くなり、かわりに、聞こえることの少ない、静かな足音が聞こえた。
ほんの少し、好奇心が芽生え、その足音を追ってみる。
そこでは、まだ二十歳にもなっていないような少女が歩いていた。
彼女の背中を見つめていると、妙な考えが頭を駆け巡った。
証拠など何も無い、しかし、なぜだか私は確信していた。
つい、声に出してしまう。
「あそこの火事、君がやったんだろう?」
少女はゆっくりと振り返った。
その顔は、まだこの世界に降り立ったばかりの天使のように美しく、純粋であった。
あぁ、私は何を言ってるんだ。
こんな少女があんなことするはずがないじゃないか。
そう私が後悔している中、少女は、にこりと、寒気がするほど綺麗に笑って、言った。
「おじさん、だいせーかい!」