第9話「その名はイヴ」
ようやく、カエデの相棒となる武器が登場です。何となくで進めていますが、これからも更新して行きますので、よろしくお願いします。
「…うぅ、ここは…どこだ…ぐっ、ごほごほっ」
僕は全身を打ち付ける痛みに耐えながらも、首を動かした。身体はしばらく動きそうにない。そして、現在に至る状況を思い出した。
「ああ、そうか…僕はあの化け物と一緒に落ちてここまで来たのか。ははっよく生きてるよ、ホント…っつ」
よく見ると、首の辺りに砕けた石が見える。よくよく考えて、あの高さから落ちて、しかも魔力まで失ってるのに生きているのはおかしい。どうやら、この勾玉の石が守ってくれたようだ。
「この勾玉に…桜さんに助けられたのか。あの時貰っておいて良かったな。まさか、こんなに早く使う羽目になるとは思わなかったけど。しかし…回復魔法くらい使えたらいいのに」
使えないものはどうしようもないし、しばらく動けそうもないので身体を休めておこう。反対側に首を向けると、そこには倒れて動かないキマイラがいた。
「うおっ!?び、びっくりした…こいつ、死んでるのか?動かないみたいだが…生き返るとかないよな?」
一応魔眼で確認してみたが、無事死んでいるようだ。つくづく僕は運がいい。もしこいつが生きていたら、僕はすぐ殺されていたし。ここが安全かどうかわからないが、僕は長い間身体を休めていた。
「よしっと。なんとか身体は動くようになったな。さて、とりあえず慎重に進もう」
身体が動けるくらいまで回復した後、今いる場所を探索した。そして、僕は一つの台座に辿り着いた。
「なんだここは…まるで、何かを封印してるみたいだけど。触らぬ神に祟りなし、だよなぁ」
どうみても普通じゃない感じがする。悪意はないと思うが、面倒ごとは避けたい。ここは見なかったことにしよう。そう思い、この場所を去ろうとした時、その声は聞こえた。
『……か。声が…き……か』
「なんだっ!?頭の中に…声が直接響いてくる?」
『…お主、妾の声が聞こえるか?聞こえたら返事せい!」
「あ、ああ。ちゃんと聞こえるようになったよ」
『おお!そうかそうか。いやはや、ようやくお主のような者に巡り会えたわ』
どこから声が聞こえるかは分からないが、僕の頭の中の語りかける声の主は嬉しそうに言った。
「えっと…とりあえず、お前は誰だ?」
『お、紹介が遅れたな。妾の名はイヴじゃ!で、お主は?』
「僕の名前は、如月楓だ。とにかく…イヴはどこにいるんだ?姿は見えないけど」
『何を言うておる。お主の目は節穴か?目の前の台座を見よ!』
何だか偉そうな物言いにイラっとしながらも、前の台座を覗き込む。そこには、白銀の装飾が美しい一つの銃があった。まさか、この銃がイヴだったり…いや、そんなまさか。
「なぁ…白銀の銃しかないぞ?」
『うむ、それが妾じゃ!』
「本当に銃なのかよ!いや、その前に武器が話せる者なのか?」
『妾は特殊な武器じゃからな。意思を宿しておるのじゃ!どうじゃ、凄いじゃろ!』
目の前の武器が心なしかドヤ顔をしている気がしてならない。それと、こいつがもし人の姿だったら僕の中では、のじゃロリで決定だ。それしか想像できない。もしこれで、妖艶なお姉さんだったらどうしよう…うん、それはないな。
『…お主、今失礼なことを考えておらんか?』
「…いや、別に。ナニモカンガエテナイヨ」
『…まあ、良い!とにかく、妾はお主に頼みがある。聞いてくれぬか?』
「頼み?まあ、事と次第によるけど聞くだけなら大丈夫だ」
『なに、簡単な願いじゃ。妾と…契約を交わして欲しい』
そして、目の前の銃はそんな事を言ってきた。しかし、僕はこの異世界の事をほぼ知らない。契約が何なのか知らないままするのは危険すぎる。ここは、情報を集めるとしよう。
「その契約って言うのは何なのか、詳しく教えてくれないか?」
『ふむ、良かろう。契約と言っても、妾と一心同体になるだけじゃ。何の問題もなかろう?』
「一心同体?どう言う事だ?」
『妾と契約すると、そこにある銃が扱えるようになる。まあ、妾自身じゃからな。そして、一度契約すると死ぬまで一緒というわけじゃ。分かったか?』
「ちなみに、その契約をすると僕に何か起こったりしないか?呪いとか。契約した後にそんなことになっても困る」
『そこは安心せい。そんな事は起こらん。それに、見た所お主、武器はその短剣だけか?ここの敵は強いからの、それだけではここから出られん』
そう、現在の僕の装備はこの短剣のみ。銃は粉々に壊れてしまったし、保険の勾玉もない。さらに、ここは未知の世界だ。このままでは危険なのは僕も分かっている。ここは、契約した方が良いだろう。それに…話してて、悪いやつとは思わないしな。
「わかった。その契約、交わさせてもらう」
『本当か!?やったー!』
おい、キャラ崩壊してるぞ。まだ出たばかりだろう、こんなに早くて良いのだろうか。とにかく、このイヴと契約を結ぶことにした。
「で、契約ってどうすればいいんだ?なんか、ここの辺り封印というか結界みたいなのがあるけど」
『ああ、それはおそらく大丈夫じゃ。お主なら通れる』
その言葉に疑問を持ちながら、言われた通りに通ろうとする。スルっと普通に通り抜けられた。僕の身体に異常はないみたいだ。
「どうして通り抜けられたんだ?僕なんてただの一般人だぞ?」
『それは、妾を持つ資格がお主にはあるからじゃ。詳しい話は後にするとして、はよこちらによってくれ』
そのまま近くまで行き、僕は銃に手を置いた。イヴが言うには、この状態でいいらしい。
『よし、置いたな?では、始めるとしよう』
《古の封印を解き放たんとする者よ、今ここにイヴの名を持って契約を結ぶ。契約者の名は、キサラギ カエデ。妾と共に生きる者よ、我が契約に従い、強固なる楔を》
その瞬間、僕の身体に暖かい魔力が入り込み、しばらくすると完全に混ざっていた。そして、僕の手元には白銀の銃『イヴ』が光っていた。
『これにて契約は終了じゃ!これで、妾とマスターは一心同体じゃぞ!』
「いや、マスターってなんだよ!ていうか、なんか魔力みたいなものが注ぎ込まれたし、いつの間にか身体の傷も癒えてるんだけど!?」
僕は突然起こった出来事に混乱していた。気づいたら傷が完治されていたし、僕の身体は驚くほど軽くなっていた。
『説明するのは面倒じゃなぁ。そうじゃ、マスターはすてーたす、と言うものがみれんか?それで確認してみてくれ』
「なんでイヴがステータスの事を…?いや、それは後で聞くとして、今はステータスだな」
そして、僕はステータスを開いた。そして、閉じた。なんだろう、一瞬バカみたいな数値が出てたけど、気のせいかな。そう思い、もう一度確認する。
名前 : キサラギ カエデ
職業 : 魔装銃士
レベル : 75
HP : 12000/12000
MP : 15000/15000
STR : 8200(+1000)
INT : 7800(+1000)
DEX : 8000(+1000)
AGI : 8500(+1000)
LUK : 1050(+1000)
【スキル】
鷹の目・魔装銃術・魔力調整・短剣術・気配察知・身体強化・高速治癒・完全耐性・属性弾
【固有スキル】
精霊魔眼・古式魔法
【加護】
創造神の加護
精霊銃の加護
「な…な…なんじゃこりゃー!?」
あまりに馬鹿げた数値に、僕は考える事をやめ、叫び声を上げた。その洞窟内には、僕の声が虚しく響き渡っていた。