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02-略奪者、そのおこぼれを授かる者

 日が昇っているうちは歩き、日が落ちたら休憩を取る。このループを何度もバウルは繰り返して来た。ここがどこなのか、彼には分かっていなかった。


(カルファ遺跡から北西に歩いてきた。歩幅と時間を考えると……)


 彼の旅の始まりは、グラディウス教の遺跡。そこから北西140kmの位置にノーデンという都市がある。彼はそこを目指して進んでいた。これまで何度も軌道修正を余儀なくされてきたが。星間戦争によって地形は変わり、都市は崩壊し、集落を見つけたとしてもこの前のような場所だけだった。ああいう場所では、上層部への連絡を恐れて移動を制限されていることが多い。

 闇に紛れて脱出したり、強行突破したり、色々だ。カルファ脱出から二カ月が経とうとしているが、そのせいか移動速度は遅々を極めていた。


(何とか足を手に入れたいところだが……どうするか)


 とは言っても、移動手段を手に入れるのは容易ではない。都合よく生きた機器が転がってはいないし、あるいは奪おうにも誰も通らないのだから。


(まあいい。どんな遅い歩みでも、絶対に……)


 そう考えていると、爆音が響いた。続けて黒煙が吹き上がり、空の青を汚した。バウルは状況を確認するために走り出し、砂のコブの頂点で寝そべった。

 リュックから双眼鏡を取り出し、先の様子を確認する。黒煙を上げているのはホバークラフト、上げさせているのは周囲を取り囲むAAの群れ。


「不運な奴らだな」


 バウルは短くコメントし、双眼鏡をリュックに戻した。ホバークラフトを取り囲むAAたちは執拗に銃撃を加え、ついに駆動部を損壊せしめた。高圧のガスが噴出し、ホバークラフトはクルクルと回転しながら砂に埋もれた。

 AAたちは船の後部ハッチを開くと、手際よく積み込まれていたコンテナを回収し砂塵に消えた。慣れているな、とバウルは思った。余計なものを積み込んだり、探し出すことのリスクを分かっている。


「さて、ハイエナが食う分が残っていればいいが」


 バウルは立ち上がり、座礁したホバークラフトに向けて歩き出した。




 ハッチが開いているので、侵入は容易だった。念のため小銃を構え進んで行く。だが度重なる攻撃と座礁の衝撃,あるいは資材に潰され、乗員は死んでいた。穿たれた弾痕からキツイ陽光が漏れる。おかげで灯りもなしで進めた。


(おっ、これが残っているなら……ついているかも知れないな)


 バウルは格納庫の片隅に、ほとんど無傷のAAがあるのに気付いた。ついている損傷は装甲板を弾が掠めた程度、一切行動に支障はないように思えた。パイロットが乗り込む前に死んだのか、それとも出ても無駄だと判断したのか。DS03ドラウム、設計的には数十年前にも遡る、いわば動く骨董品めいた機体だ。

 ともかく、これがあれば行軍速度が大幅に高まるだろう。ナビゲーションシステムが生きていればこれ以上迷うこともない。この二カ月の間では最大の収穫だ。バウルは内心でほくそ笑んだ。


 そうなると、少しだけ欲が出た。どうせこんな骨董品を欲しがるのは自分以外いないだろう、と考えるともうしばらくこの船の中を探索してもいいだろう、という考えに至ってしまったのだ。バウルは機体を置いて歩き出した。


 歪んだ格納庫の気密ハッチをバールでこじ開け、居住区へ。通路にもいくつか死体があり、バウルはそれを踏み越えて進んで行く。食料――ゼリーや栄養バー、あるいは数年ぶりの生鮮食品――があれば、そう思いバウルは食堂へ向かった。

 広々とした食堂に、この規模の船としては大きめの調理場。恐らく普段は会議室として使われていたのだろう。机や椅子の類は壁際によって積み重なっている。おかげで調べ安くていい。


「……飯を前にすると、自然と腹が減って来るものだな」


 数カ月間の欠乏状態、そしてそれ以前のテロリストとしての劣悪な環境。バウルは食わなくても大丈夫になったのだ、と思ったが、結局のところそれは意志で押さえ込んでいただけなのだと分かった。そうと分かれば、思い切り食べよう。バウルは迷うことなくカウンターを飛び越え、調理場へと入った。


 入り、横を見てギョッとした。

 厨房の隣には倉庫が備えられており、そこには女が転がっていたのだ。

 真っ赤な液体に染まった女が。


 血ではない、トマトソースか何かだ。金色の肩までかかる長い髪、胸元が強調されたセクシーな――しかしまったく宝の持ち腐れな――服装、白い肌。いままでバウルが見て来たのとは、まったく異なる人種だった。


 何より、彼女はまだ死んでいなかった。


 バウルはゆっくりと近付き、食料庫へと入った。彼女を無視して食べるものを探してさっさと出よう、そう思った。だがバウルが食料庫に足を踏み入れた瞬間、まるで彼の動きに反応したかのように金髪の女性、否、少女が震えた。


「うっ、ん……」


 苦し気に呻く少女。バウルは反射的に屈み込み、彼女の顔を覗き込んだ。どうしてそんなことをしたのか、彼自身にも分からなかった。助けようと思ったのか、それとも始末しなければいけないと考えたのか……

 結局のところどちらも出来ないうちに、少女は目を開いた。空を思わせる深い、真っ青な瞳がバウルを捉える。身じろぎ一つさえ出来なかった。


「あなたが、助けてくれたの?」

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