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01-屍の山を越えて

 弾倉を交換、コッキングボルトを引き射撃体勢を整える。重い足音を響かせ走り迫るマルテの軍団、その中の一機は肩に髑髏のマーキングを施している。隊長機だろう。だがそれよりも先に、バウルはミサイルに対応しなければならなかった。

 ライフルを空に向け発砲。同時にギアを作動させ機体をスライドさせる。ミサイルの弾頭部分に弾丸が命中、爆発。撃ち漏らしたミサイルの群れを、バウルは何とか回避した。爆炎と黒煙が大地を舐める。


(俺を殺すためなら手段を選ばないということか!)


 非合理的な行動、だがここから先はケジメの問題だ。仲間を殺され黙って犯人を見過ごしたのでは沽券に関わると。バウルは遅い来る敵を真正面から見据えた。大いなる考え違いだと理解させてやろうと、後悔させてやろうと。

 走り迫る四機のAAは散開バウルを包囲するように動いた。バウルはギアを止めずに発砲。機動の遠心力も加わり、弾丸の軌道が不規則に揺れる。散弾めいて広がった銃弾を、マルテは跳んで避けた。


(さすが人工筋肉搭載機、あんな芸当を……)


 感心している暇はなかった。跳び上がった一機と地上の三機とが一斉にトリガーを引いたのだ。バウルは両肩の装甲を巧みに操作し攻撃を受け止めるが、止め切れなかった弾丸が装甲を何度も抉った。先ほど受けた倍以上の鉄量を受けてか、駆動部が不快げな軋みを上げる。機体のアラートも。長くはない。


(長期戦をやるつもりはない。一機でも二機でもさっさと潰す!)


 バウルはギアの向きを反転させ、敵との距離を詰めようとした。急制動により全身を押し潰さんばかりのGがバウルを襲う。だが彼は決して止まらない、決して弱音を吐かない。敵を見据え、それを倒すべくトリガーを引いた。

 常識外の急制動を見てなお、敵の行動は冷静だった。狙われたマルテはサイドステップで銃撃を回避、反撃に移ろうとするが。


「待て、ヤマギ! 下手に撃つな!」


 回避機動を完全に読んでいたバウルは、彼が次に現れるであろう場所に銃弾を既に置いていた。不幸にも弾丸の軌道上に飛び込んだマルテ、そのコックピットを25mm弾が抉る。構造に余裕のないAAシリーズ、受ければどんな攻撃でも致命傷となる。パイロットを失った機体は仰向けに転倒し、動かなくなった。


「おっ……のれえ! 貴様は、いったい何者なのだ!」


 隊長は腰に手をかけ、地を蹴った。同時にバックパックから青白い炎が迸り、機体が一気に加速した。バウルは一瞬面食らうが、片足のギアだけを作動させ機体を半回転させる。紙一重のところで隊長が抜いた超硬度実体片刃剣を回避。例えシールドを使ったとしても、まともに受ければ真っ二つにされていたであろう。鋭い太刀筋だ。


「貴様はいったい何者だ!」


 返す刀で繰り出された斬撃。バウルは手首の辺りを受け攻撃を止める。瞬発力においてはマルテが勝る、だが受け止めれば馬力の差でバルカーが押し返せる。それを理解しているため、隊長もすぐに剣を引き次の攻撃に移った。


「喧嘩を売られたから、買った! ただそれだけだ!」

「それだけの理由でこれだけ殺す奴があるかァーッ!」


 隊長は剣を大上段に振り上げた。反撃のチャンスを見たバウルは銃を向けるが、それはブラフだった。急襲の蹴りがライフルを蹴り上げ、続けざまに放たれた後ろ回し蹴りがバルカーのコックピットハッチを強かに打った。蹴りの衝撃でバウルは一歩後退、隊長とバウルとの間に大きな隙間が開いた。


「いまだ、十字砲火! 仕留めろ!」


 バウルは左右からの殺意を確認、どうすべきか思案した。

 武器は一つ、二人を同時に殺す術はない。対処をしようとすれば正面のマルテが切り込んで来るだろう。万事休すか、否、そうではない。バウルは敵に背を向けた。


「なに……!?」


 非合理的な立ち振る舞いに、マルテは困惑した。バウルはギアを逆回転させ、バルカーを思い切りバックさせた。そして自分は対AAライフルを掴み外に飛び出す。

 闇の中、飛び出る人影を見れた者はいるだろうか? 少なくともスラマニのパイロットには見えなかったらしい。彼らは無人のバルカーに銃撃を行った。そしてマルテのパイロットもそうだった。彼は下がって来るバルカーを受け止めた。


「このっ……! 気でも、狂ったか……!?」


 舞い上がる砂塵。鋼鉄の衝突音。バウルは砂の上をゴロゴロと転がり衝撃を殺し、片膝立ちになりライフルを構えた。機体の影から一瞬だけ見えたマルテのコックピットブロックを、彼は正確に射抜いた。


「がぼっ」


 空気と一緒に粘り気のある液体が零れる不快な音がスピーカーから響いた。そして、マルテは活動を停止する。二機のAAは絡み合い、もつれあい転倒。爆発した。

 二機のスラマニはバウルに銃口を向けた。だがトリガーを引かなかった。頭が死に、仲間も大勢死んだ。彼らはここから逃げることを選んだ。ホバークラフトが砂塵を巻き上げ夜の闇へと消えていくのを、バウルは言葉も発さず見送った。


「助かる……これ以上、戦えなかっただろうからな」


 ライフルのボルトを引き排莢、次弾を装填。機体がない状態で撃たれたら死んでいた……果たして本当に? 試す勇気はなかったが。


「……進むんだ。立ち止まっている時間はない」


 バウルは立ち上がり、リュックを背負い直し歩き出した。夜の砂漠は冷える、だが何度もやってきたことだ。決して立ち止まらない。天使を見た時からそう決めていた。どんな犠牲を払っても、もう一度あれと会うと。


 高台に昇り、次の目的地を探す。

 彼の目指す先には砂漠だけが広がっていた。


 振り返ると、村が燃えていた。攻撃の機会を伺っていた盗賊たちが攻め入って来たのだ。バウルは一瞬だけ立ち止まったが、すぐ視線を戻し歩き出した。

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