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07-湧き上がる思い

 ぬめる洞窟を進んで行くと、次第に水音が聞こえて来た。ライト片手にしばらく歩くと地下水脈が現れる。恐らくはこの辺りの水源なのだろう。


(確か、上から見た時に湖のような場所があったな。あそこに続いている?)


 確かに表から侵入するよりは楽だろうが、水源であるのならば町でもそれ相応の対応をしているはずだ。十中八九、警備の手があるだろう。どう突破したものか、そう考えてバウルは嘆息した。それでも止まるわけにはいかないが。


(どっちにしろ、俺に戻る場所なんてないんだからな)


 命令違反、脱走。

 どれをとっても首が飛んでおかしくのない罪状だ。


(どうなってもあいつを必ず殺す。それが、俺の復讐なんだから)


 そのためにはまず、ムスタファを見つけること。そして犯罪の証拠を掴むことだ。紅海からアフリカ大陸に渡るということは、向こうでまた何かをしようとしているのだろう。と、なるとこの場に証拠を残しているのかはかなり微妙だ。

 最悪何もなかったら犯罪者としての汚名でも被るか、とさえ考えた。しばらく歩いていると視界が開ける。白み始めた空と町とが見えた。


(予想通り兵士がいるな。武装している……さて、どうするか?)


 背中には組み立てた対AAライフル、腰には拳銃。ただ、いずれも抑音器の類はついていない。最終手段だ。素手で敵を制圧する算段を考えていると、兵士たちは示し合わせたように耳元に手をやった。イヤホンを操作しているのだろう、短い『了解』の返答をすると持ち場を離れて行った。バウルは面食らった。


(なぜここを離れる? 俺がここに来たことはまだ判明していないはず……いや、そもそも俺が来たことがバレていたらこっちに来るはずじゃないのか?)


 まさか懐に誘い込んで捕まえようとしているわけではあるまい。ムスタファにとってバウルはそれほど重要な相手ではないはずだし、そんなことをする意味もない。単なる不法侵入者として処理した方がよっぽど利口だろう。

 ともかく、突破口は開けた。バウルは身を低くして、音もなく走る。目指すは船舶格納ドック、ムスタファが利用していたホバークラフトだ。あれがムスタファたちの拠点であるなら、あそこに何かを残している可能性が高い。


(そういえば、ちょっと前に似たようなことをしていたな……)


 バウルはほんの数週間前、立ち寄った名もなき村で機動兵器格納庫に忍び込んだのを思い出した。結果として、あの時は村一つを滅ぼすことになってしまった。思い出すと少し胸が痛くなる。直接的な原因ではないにせよ。

 あの時の自分と、いまの自分とはまるで違う。バウルはそう思う。あの時は言い表せない、不快とも言える感情のために動いていた。だがいまの自分は、確かな怒りのために動いている。それがいいことか、悪いことかはさておき。


 ガレージの裏側に回り込み、どこか入り口がないかを探す。ちょうど、換気用の天窓が開いているのが見えた。バウルは雨どいを伝い窓枠まで昇り、枠を伝って開いている窓へ。内部の状況を確認してから身を躍らせた。窓から床までは五メートルほどあったが、天生体の身体能力なら特に問題にはならない。


(あれがムスタファたちの船……外見的には不自然なところはないが……)


 さすがにこの時間、整備員たちも出払っている。バウルは開きっぱなしになったハッチから船内の格納庫へと侵入する。入るなり、バウルは違和感を覚えた。


(なんだ、これは。バウンズと同型の船を使っているようだが……違和感があるな。俺たちが使っている船とは何かが違う。いったい何が……)


 格納庫を歩く。搭載されているのは砂漠戦仕様のドラウム、及びバルカー。例のバトルウェアはない、他のハンガーで整備に出されているのだろう。見渡していると、違和感の正体に気付いた。直立しているバルカーの頭が天井に近い。


(そうか、床が高いんだ。ということは、上げ底のような形になっている?)


 おそらくここにある機体はすべて登録が済んだものだろう、違法なものでも何でもない。で、あるが、この下にあるであろうものは違法な物品であろうと想像がついていた。わざわざ船を改装してまで格納するようなものだからだ。

 バウルは再び格納庫を歩き回り、上げ底部分に入れるような場所を探した。歩いてみてわかるが、やはり船の床とは反響の具合が違う。この下には何かある、その確固たる信念の下探し回っていると、不自然なハッチが見つかった。


(これはバウンズにはない。ならば……これが上げ底へと繋がるハッチ……)


 高さおよそ二メートル。どんなものを隠そうというのか、バウルは拳銃を左手に、ライトを右手に取りハッチを開いた。中から据えた臭いが漂ってきて、バウルは顔をしかめる。内部は暗く、蒸し暑い。異様な雰囲気だった。

 怯みながらも、バウルはハッチを潜った。急な階段を下ると、一直線の通路が現れた。左右には鉄格子、その中には人が鮨詰めになっていた。


(なん、だ……これは? いったい、何なんだ……)


 ハッチを開く前は感じなかったが、この空間には『声』が満ちている。怨嗟と、苦痛と、諦観の声が。押し込められた人々はバウルの方を見て、何事かを言おうとしていた。だが喉が潰れているのか、はたまた長すぎる監禁生活で声の出し方を忘れているのか。幽鬼めいた外見をした人々は喉を鳴らすだけだ。


「人を……人を、売ろうとしているのか。ムスタファ……クガニエル……」


 呆然と立ち尽くすバウルの背後で足音。

 そして銃を構える音。


「おい、お前こんなところで何を――」


 最後まで言うことは出来なかった。バウルがノールックで後方に向けて発砲、それが脳天を貫いたからだ。男は脳ミソを撒き散らし即座に絶命した。


「……間違っていなかったな。俺は間違っていなかったよ、みんな」


 歯を噛み締め振り返る。

 その目には確かな殺意があった。


「皆殺しにしてやる。ムスタファも、それに組するクソどもも……!」

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