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06-少女

 ミーアは轟沈した船に向かい、尚も火の手の上がる船内へと向かったようだった。バウルは舌打ちし、それに続く。ちょうど登れそうな場所があったので、機体から降りそこから這い上がる。天生体の身体能力は常人よりも優れているが、呼吸器官はどうなのだろうか? 煙に巻かれればそのまま死ぬのだろうか?


(まったく、普段は冷静ぶっているくせにこんな時に無茶をする!)


 いままでの行動を見ていると、まるでミーアらしくないようにバウルには思えた。それとも、あのつっけんどんとした態度は本性を隠すための仮面なのか。

 ミーアの後を辿るのは容易だった。彼女は衝撃で歪んだハッチをこじ開け、船内に飛び込んで行ったのだから。破壊の痕跡を追って行けば、自然とミーアのところに辿り着く。いくつもの死体を踏み越えて、バウルは先に進んだ。


「ミーア、どこにいる! ここは危険だ、後退するぞ!」


 そんなことを言っている間にも、船体下部で爆発が起こる。燃料を貯蔵しているブロックだろう、タンクに詰め込まれたものが熱によって膨張、破裂し、爆発したのだ。この船自体が吹き飛ぶまで、あと数分といったところか。

 ミーアの気配を追い走るバウルは、ようやく彼女を発見した。後方にある居住ブロック、その一室の前でミーアはバールを手にもがいていた。


「ミーア、諦めろ! 生存者はいない、このままじゃ巻き込まれて死ぬぞ!」

「ここからッ、声がした! この先に、誰か生きている人がいる……!」


 耳を澄ませるが、バールと扉とが擦れ合う音しか聞こえてこない。幻聴だろうか、だがミーアはそれを信じている。一歩だって動かないだろう。


「貸してみろ、それ」

「何を」

「手伝ってやる。終わらせて、さっさと、この船から脱出するぞ」


 バウルは有無を言わせぬ口調で言った。解放同盟に所属している頃、こういうものの取り扱いも習った。どんな状況でも戦えるように、と。ミーアは渋々ながらバウルにバールを渡す。バウルはバールの端を持ち、L字の部分を隙間に打ち込み広げた。十分は隙間を確保するとそこに釘抜きを差し込み、てこの原理で歪んだハッチをこじ開ける。

 あとは二人で協力し、重い扉を開けた。中には簡易な二段ベットがいくつもあり、他の部屋と同じように死体が転がっていた。だがその中の一つ、寝間着を着た女の子にはまだ息があった。頭部から出血しているが、傷は浅い。


「これ以上は無理だ。その子を連れて逃げるぞ」

「でも、まだ調べていない場所があるでしょう!? まだ生き残りが……」

「探せるわけがないだろう! 聞きわけろ、さっさとここから逃げるんだ!」


 バウルは声を張り上げ、女の子をひったくると来た道を引き返した。チラリと後ろを見ると、ミーアも渋々といった様子でそれに追随している。ひとまずは安心、だが自分たちが脱出出来なければ意味はない。バウルは全力で走った。

 外に出るなり爆音が響き、船がグラリと揺らいだ。必死で体勢を保ち、バルカーに向けて走る。爆発の度に船が軋み、傾く。固定されていなかったドラム缶や工具が落下し、襲い掛かって来る。無我夢中で走り、コックピットに飛び乗る。


「こちらバウル、船内から脱出! ミーアも無事だ、マルテでそちらに向かうだろう。それから、生存者を一名確保! 医務室を開けておいてくれッ!」

『生存者だと? あの爆発で? 分かった、だがすぐそこから離れるんだ!』


 言われるまでもない。子供を膝の上に乗せ、バルカーを起動。ギアを作動させ全力でバックした。船が爆発し、船体の破片が高速で飛来する。炸裂弾とは比較にならない質量と危険度。まさに生きた心地がしなかった。


 それでも、何とか生き残ることが出来た。

 天使との初戦は、勝利に終わった。




 天使との交戦を終え、バウルたちは帰投。天使の死骸は砂漠の風によってバラバラになって飛び、ほんの小さな白い塊を残すだけとなった。輸送艦は爆発によって原形を留めぬほどに破壊された。一瞬脱出が遅れればどうなっていたか。

 助け出した子供を整備員に預け、バウルはブリーフィングルームへと向かった。命令違反を犯したミーアが処分を受けることになっているのだ。そして、二人もそこに同席するように言われている。いわば見せしめ的なものだろう。


(ま、あれだけのことをしたんだ。当然と言えば当然だろうが……)


 ミーアの勝手な行動で、死にかけたのは彼女だけではない。同じく出撃した自分たちもそうだ。彼女をフォローする過程で、何かミスがあれば……


「にしても、あいつもバカだねえ。あんな真似をするなんてさぁ」


 ダリルはいつも通りだった。

 半面、ミーアは平静を欠いていた。


「あいつがあんなことをするのは、いままでにもあったことなのか?」

「んにゃ、なかったね。そういえば不思議だな、無断で突っ込むなんて……」


 今更それに思い至ったのか、とバウルは呆れてしまった。こんな風に、細かいことを気にしないのがダリルのモットーなのだろう。

 ブリーフィングルームの扉は開きっぱなしだった。機密事項もあるだろうに、不用心な。そんな風に考えていると、パンと高い音が響いた。ちょうど、平手打ちのような。二人は顔を見合わせ、そっと室内を覗き見た。


「死ななかったからよかったようなものを……! 何を考えてるの!」


 平手を打ったのはラウではなく、フォルカだった。オペレーターとして詰めているはずの彼女が、なぜかここにいた。打たれたのはもちろんミーア。彼女は頬を打たれ、視線を戻すことすらない。フォルカは涙目になって続ける。


「悲しいのは分かるけどッ……もっと自分を大事にしてよ!」


 最後に『バカ!』と叫び、フォルカは踵を返しブリーフィングルームから走り去った。状況を飲み込めないまま、二人は恐る恐る部屋に入る。


「あの、隊長。さっきのはいったい何が……?」

「んっ、ああ。気にするな、大したことじゃないからな」


 ラウも気まずそうな表情で頭を掻く。


「基本的には、フォルカちゃんが言っていた通りだ。自分を安売りするような真似はするな。それはお前だけじゃない、他人の命をも脅かすからな」

「はい……分かりました、隊長。申し訳ありませんでした」


 殊勝な口ぶりだが、果たして本当に分かっているのかどうかは分からなかった。彼女の声は沈んでいて、おおよそ感情が読み取れないものだったからだ。


「しばらく謹慎だ。部屋で大人しくしていろ……んっ、ちょっと待ってろ」


 ラウが処分を通達したのとほぼ同時に、彼の端末に連絡が入った。彼は画面を見、そして満足げに微笑み頷き、返信を打ってからそれを切った。


「謹慎の前に、医務室に寄って行け。お前が助けた子は無事だそうだよ」

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