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06-光撃天使

 断続的な爆発音が辺りに響き、その度に黒煙が上がる。ビームの高熱によって連鎖反応的に爆発が起こっているのだ。恐るべきは一撃で船を損傷せしめる天使のエネルギー。


『ビーム発射までの間にはラグがある。視線を観察すれば方向は分かる』

「なるほど。それは簡単だ。間違えれば一撃で死ぬことを除けばな……!」


 バウルたちの接近を認めた天使が首だけをそちらに向け、口を開いた。収束する光、『散開!』の怒鳴り声。ビームが放たれる寸前、対天使隊は三方にバラけた。バウルとダリルはそれぞれ左右に、ラウは上に。モーターの重い駆動音が響き、電磁加速された20mm弾が雨霰と四足歩行の天使に降り注いだ。

 金属同士の衝突音が聞こえて来る。弾丸は一つとして余さず天使に着弾したものの、体表を覆う装甲に弾かれてしまったのだ。旧世代の大型多脚戦車は高価で機動性が低く、拠点防衛程度にしか利用価値がない。だが自前の大型ジェネレーターから生み出されるパワーにより大火力と重装甲を実現した機体でもある。


『生半可な攻撃は通用しないみたいだな。関節部を狙え、当て続けるんだ!』


 天使のビームが執拗にラウを追う。スラスターを巧みに操作し、ラウはジグザグに空を飛んだ。その隙を突いて、バウルとダリルは天使に近付く。


『どっちがあいつを倒せるか、勝負しようじゃねえかバウル!』

「言ってる場合か! ミーア、後退するんだ! キミの機体は近接戦闘に対応するようには出来ていないんだぞ!」


 軽量化とスラスターの増設で機動性を高めたダリルのマルテとは違い、ミーア機は電源を増設しウェイトを増やした状態だ。あの機体ではビームを避けるのは難しいだろう。それでも彼女は構わず進み、ビーム砲を構える。


『消えろ、消えろ! 消えて、しまえ!』


 ミーアの怒声が聞こえて来る。天使核の反応は胸に見える、ミーアはその地点目掛けてビームを放った。光線がまっすぐ伸びて行き、天使を殺す。そのはずだったが、しかしその瞬間天使核の反応がズルリと真横にズレた。


「!? 核を移動させられるのか、これじゃあ……」

『オイオイ、どうなってんだよ! こんなの、いままでなかったぞ!』


 天使にはまだ自分が知らない秘密がある。そう思っていたバウルだったが、どうやらこれは対天使隊の面々もまだ知らなかった事実のようだ。

 一撃で天使を仕留める気でいたミーアは、その場に足を止めてしまった。しかも、仕留め切れなかったことで油断が生じていた。肩口のあたりから機銃めいた物体が形成されるのを、彼女は黙って見過ごしてしまった。


「くっ……」


 バウルはレバーを操作。五指の操作を司るグリップ部分のボタンに力を籠め、トップのカバーを開く。両腕に取り付けられたアタッチメント・パーツを操作するための作業だ。銃弾とグレネードが一斉に天使に向かって行った。

 右前脚に攻撃が集中、足を完全に折るには至らなかったが衝撃に天使の体が揺らぐ。大出力のビームが空を切り裂き、大気が歪む。


「突出し過ぎるな、殺られるぞ!」


 聞こえているのかいないのか、ミーアは小刻みなステップで距離を取りつつビームを乱射している。天使は絶えず核を移動させ、攻撃を避ける。次々と砲門が生え、それらが近付いてきたバウルとダリルとを狙う。


「あの火力と質量差が厄介過ぎる……これでは近付けないぞ!」

『各機に通達、バウンズがこれより火力支援を行う。敵の動きを止めた隙に、奴を仕留めろ。十秒後にミサイルを発射する!』


 通信を聞き、バウルはダリルと短くやり取りをする。現在天使の右側面にはミーアが回っている。バウルが左側面に、ダリルが正面を取り、どこに核を移動させても仕留められるようにする。


『射線上から離れろ! 奴を釘付けにする!』


 二人は左右に再び別れる。その後方ではラウが腰だめの姿勢になり、二挺のガトリングガンを構えていた。先ほどの倍以上の鉄量を一身に受け、天使が動きを止める。その背後、青空から白い尾を引いて飛来する物体があり。

 バウンズから発射された地対地誘導ミサイル。ドローンの誘導により、ミサイルは一つとして狙いを外すことなく着弾した。亀のように強固な背と左腕、左足の関節部をミサイルが撃ち抜き、天使を転倒させる。巨大な砂柱が立った。


「……! 天使核位置、心臓部! ダリル、やってくれ!」

『わあってらあ、そんなことはなあ!』


 ダリルは力いっぱい地を蹴り、すべてのスラスターを後方に向け全力稼動させた。彼の駆るマルテは、七トンの弾丸と化したのだ。ダリルは一直線に天使核へと向かって行くが、しかしそれを食い止めようと天使は最後の抵抗を試みる。天使核周辺からブツブツと吹き出物のように銃身が現れたのだ。


『げええ!? ヤバイヤバイヤバイヤバイ!』

「危険なことなど何もない。狼狽えずに進め――!」


 最後の抵抗は予想していた。だからこそバウルは足を止め、すべての火器を解放した。両肩のミサイルポッドと両脇の速射砲が展開され、脚部ロケットランチャーのハッチが開く。二挺のライフルとグレネードランチャーが天使の腹部に向く。

 まずミサイルとロケットランチャーが発射され、腹部周りの装甲に着弾。熱と爆風が装甲を吹き飛ばす。続けて25mmと35mmの弾丸が腹部に集中し、突き出して来た銃身を破壊した。ダメ押しとばかりに放たれたグレネード弾の破片が残ったものを破壊する。


「こいつァ最高だぜ! ありがてェーッ!」


 ダリルは一直線に飛び、双剣を閃かせる。丸裸にされた天使核が十字に切り裂かれた。天使は痙攣し、じたばたと動くが、やがてすべての動きを止めた。巨大な体から徐々に色が抜けて行き、カサカサした石灰状の物体となった。


『どうだ! 俺が仕留めたんだぜ! 見たか、バウル!』

「ああそうか、そうだな。よかったな。分かったよ、すごい」


 バウルはぞんざいにダリルをいなし、ミーアを見た。命令違反を犯した彼女はそんなことをまったく気にしていないようで、炎上する船に向かって走り続けていた。謝りの一言すらなしか、と少しバウルはムッとした。


「隊長、ミーア機についてはどうしますか?」

『俺とダリルで周囲の警戒をする。バウル、彼女のフォローを』


 この期に及んでか、と思いはしたが口には出さなかった。バウルは通信を切り、深いため息を吐いた後で、船の近くで停止したミーアを追いかけた。

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