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06-残された僅かな時間

 バウンズとフェネクス商会の輸送船『ロナウド』は出港。砂塵を巻き上げながら進んだ。バウルたち対天使隊の面々は定刻のシミュレーション訓練に移行することになったが、その前にバウルはラウに呼び出された。


「いまから一年前、マティウスに一つの流星が落下した」


 ラウが語ったのはマティウスに向かう目的についてだった。


「直撃を受け、マティウスに駐留していた連邦軍を含めて都市は壊滅。生き残ったのはたった一人の少女だけだった。その時、彼女は七色の流星を見た」

「それは、小惑星が燃え尽きる時に発するものではないんですか?」

「まあ、落ち着け。生き残った少女には何らかの放射線による細胞変異が認められ、病院に即刻収容されることになった。深い傷を負っていたが、ほんの数日で彼女は全快。警備員を石灰化させ殺したうえで逃亡してしまった」


 殺した、と言われバウルは怯んだ。彼女が力を振るったのは自分の目で見て知っているが、改めて言われるとその重みも違ってくる。


「その時から、天生体の存在を軍は知ったんですか?」

「もちろんトップシークレットだがな。その後逃亡した少女の行方を追ったが、寸でのところで逃げられてしまった。彼女はその力で人々を天使化させ、追跡を振り切った。彼女には人を天使にする力があるんだ、ところが」


 そこでいったん言葉を切り、ラウは煙草に火をつけた。


「その後確認された天生体や天使には、他者を天使化する力はなかった」

「どういうことですか、それは?」

「文字通りだ。天使一号が何らかの方法で人間を天使化、あるいは天生体化させているのは間違いない。だが一号から生まれた天使には次の天使を作ることが出来ない。ということはだ、一号と一号を天使化させたものを止められれば……」

「天使の被害を、これ以上増やさずに済む?」

「そうだ。更に天使化のメカニズムを解析することが出来れば天生体を人間に戻すことさえも可能になるだろう。もう化け物になる心配をしなくて済むんだ」


 天使に会う。自分の目的を達成することが、みんなを救うことに繋がる。


「ならば一刻も早く、マティウスに辿り着かなければいけないんですね?」

「そうだ、並行して一号を探す。人型であることからある程度のコンタクトが通じるものとみているが、どうだろうな。もし取ることが出来なければ……」

「始末するしかない、ということですか。人類のために」


 そうならないことを、バウルは祈るしかなかった。


「もう一つだけ、聞きたいことがあります。天使一号が人を天使化させている、と言いましたね。そして天使にならなかった人間は石灰化して死ぬ、と」

「少なくとも生物学的には死んでいる。それがどうかしたのか?」

「石灰化しなかった人間は天生体になるんですよね。例えば、俺のように」


 こくりとラウは頷いた。


「俺たち以外にも、天生体はいたんですか? その、最初の接触の時に」

「そうでなければ、天生体という存在そのもののことをまず研究しなければならなかっただろう。何人かが細胞変異を引き起こし、天生体となった」


 ラウは深く煙を吸い込んだ。

 タバコの先端がチリチリと赤く焼ける。


「でも、残っているのはたった三人だけ。何人……いや、いつ天使に?」

「正確なところは分からない。個人差がある。だが半年()たなかった」


 長くて、半年。すでにバウルは四カ月以上が経過している。何ら兆候はないが、だがいつ変わってしまうか分からない。バウルはギュッと拳を握り締めた。


「あいつらもそろそろタイムリミットだ。それまでに見つけてやらんとな」


 ラウは灰皿に煙草を押し付け、歩き出した。

 話はもう終わりだ。




 ラウと一緒に格納庫に戻り、シミュレーターへ。すでにダリルとミーアが五本勝負を終えており、ダリルが悔し気に表情を歪ませていた。


「負けてねえッ! 俺は負けてねえからな、分かってんだろ!」

「はいはい、そうね。勝ち負けだとか、そういうのはどうでもいいわ」


 憤るダリルに対して、ミーアの方は涼しい顔をしている。射程のアドバンテージがあるとはいえ、常識外れの操縦能力を持つダリルに三本先取とはそれも並外れている。少なくとも、二人ともいまのバウルよりも遥かに強いだろう。


「遅れたな、バウル! お前、俺と勝負しろよ!」

「勝負じゃなくて訓練だろう。いや、別にそれはいいんだが……」


 バウルは深いため息を吐き、シミュレーターに向けて歩き出した。言葉とは裏腹の態度を取るバウルを見て、ダリルはぽかんと呆けた。


「どうした、やるんだろう? 俺だってやることはやらなきゃいけないんだ」

「……へへっ、なんだよ。覚めてる風に見えてノリノリじゃねえか!」


 ダリルは朗らかに笑いシミュレーターへ。そんな二人をミーアは冷めた目で見る。バウルもシートに腰掛け、機体のデータをダウンロードする。


(そう言えば、こいつで戦うのは初めてだな)


 バルカー・ストライク。後期量産の新鋭機。これほど高価で、高い性能を持った機体に乗った経験はバウルにはない。使いこなせるだろうか。


(いや、使いこなしてみせる。そうしなければ生き残ることは出来ない)


 モニターに風景が映し出される。起伏に富んだ岩山、それがダリルの選んだフィールド。機動性の高いマルテには有利、たいしてバルカーには不利。


(もう一度天使に会う。それまで、俺は死ぬわけにはいかない……!)


 天使と出会い、何をするのか。

 果たして、人間に戻るのか、戻らないのか。


 その答えはまだ出ない。出す必要もない。

 すべては先のことなのだから。

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