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04-異彩なる力

 着地の衝撃を屈伸で殺し、ギアを作動させ前進。起伏に富んだ砂丘地帯、その影からいくつもの機影が覗く。少し離れたところには輸送用のホバークラフトまである。盗賊というにはやや規模が大きい。バウルは気を引き締めた。


『データリンク作動。イーグル1、2を出せ』

『了解、イーグル1、2射出。各機とのデータリンクを開始します』


 バウルたちの乗艦、レイノルズ級陸上輸送船『バウンズ』の側面コンテナが開き、そこから小型の飛行ドローンが飛び出した。それはすぐに周囲の風景と同化し、見えなくなった。環境適応(カメレオン)コーティングを施したボール大のドローンを肉眼で視認することは出来ない。二機からもたらされる頼りない情報が、前時代における衛星の代わりだ。


『敵機は二時、零時、十時方向に散開。数は十三。艦船を保有している』

『艦長、敵艦が動きました。ミサイル発射管、開く』

『CIWSを展開。AA隊は散開、隊長機は正面から事に当たれ』


 オペレーターの宣言通り、敵艦からミサイルが垂直に発射された。バウンズも近接防御ガトリングガンを展開、発砲。チェーンソーめいた特徴的な発射音とともに、弾幕が空を埋め尽くした。炎と衝撃が地を舐める、バウルは砂上を駆け、敵陣へと向かった。


『ミーア機は船体側面から援護を。ダリル、十時方向の敵を追い込め』


 船の甲板デッキが開き、ラウのバトルウェアがリフトアップされる。ラウは船体を蹴り跳躍、大型ガトリングガンを構えた。

 数多の弾丸が砂を巻き上げ、戦場を黄に染める。バウルは二時方向の側面から回り込み、砂のコブをジャンプ台代わりに利用し飛び上がった。突如として姿を現した敵を前にして、敵の機動兵器部隊――バウルと同じくドラウムを使用している――は対処が出来なかった。無防備を晒した敵を無慈悲にライフルで撃ち抜く。


 会敵の対応こそ誤ったが、敵もそれはさること。すぐさまバウルの接近を感知し発砲。ギアを作動させ後退を始めた。空中のバウルはこれを避ける術がない、だが彼は両肩のミサイルを発射し難を逃れた。反動で機体は空中でグルリと回転し、紙一重のところで弾丸を避けたのだ。敵の方もミサイルを避けるため、一旦攻撃を中断せざるをえない。

 前後左右に揺さぶられながらも、バウルは冷静だった。両足で地面を踏みしめ着地、即座にギアを作動させ行動を開始。砂漠用にチューンナップされたギアは、細かい砂を噛むことさえなく彼を前へと推し進める。

 残った二機は互いの死角をカバーしながらジグザグに後退、弾幕でバウルを牽制しつつ中央の本体と合流を目指す。バウルの頬を冷たいものが伝った。


(面倒だな、合流されると。ラウ・ドーレンは火力で中央の隊を圧倒しているが、合流されれば抜けられる。バトルウェアはAA潰しには向いていない)


 大型な分バトルウェアは旋回性に難がある。虫めいてまとわりつかれ、対バトルウェア用の大型火砲により関節を破壊、戦闘不能になったバトルウェアの例は枚挙にいとまがない。それに、これ以上敵が増えれば対応力を上回るだろう。


(指揮系統を潰されるのが一番ダメだ、どうするんだあいつらは……)


 そう思った瞬間、ビームの光が迸った。一瞬早く敵はそれに対応し減速、ビームは背中を掠め砂丘に着弾した。高熱によってドロドロのガラス状に変わる砂、止まった一瞬。バウルはそれを見逃さなかった。


 バックパックに接続された35mm速射砲二門を遠隔操作し展開、照準をほとんどつけずに発砲した。無茶苦茶な砲撃、下手に動けば当たる。二機は足を止め、目の前の敵を排除する方を選んだ。バウルは銃身下部のグレネードランチャーを発砲、放たれたグレネード弾は二機の5m手前で炸裂した。細かい破片がカメラを傷つけ、衝撃がパイロットを襲う。完全に動きを止めたところを見計らって、バウルはトリガーを引いた。

 25mm弾が正確に動力部を撃ち抜き、機体を爆散させる。いかに生存性に優れたドラウムとはいえ、至近距離で爆発に巻き込まれれば死ぬ。


(助かった……他のところはどうなっているんだ?)


 この段に至って、ようやくバウルは周囲を見回す余裕を得た。

 零時方向の部隊はラウに足止めを受け、後方から放たれるビームによって駆逐されていた。船は正面から真っ直ぐ進んで来る。発射地点が分かっているなら、回避の仕様はあるはずだ。それなのに、当たる。

 ビームの主、ミーアは相手の回避機動を正確に予測し攻撃を加えていた。まるでそこに行くのが分かっているかのように。

 一方で、十時方向を担当していたダリルの戦果も尋常なものではなかった。一対三、数で劣るはずの彼が敵を完全に圧倒していたのだ。一機はマシンガンで蜂の巣にされ、もう一機はコックピットに強烈な刺突を受け、三機目は。


「マジか」


 背後、完全な死角から放たれた銃弾をダリルはかわした。背部スラスターを作動させ斜め上方に跳び上がり、肩部スラスターを作動させ角度を調整すると、砂丘を蹴り一直線に敵機へと飛び掛かる。そして、二刀一閃。堅牢さを売りにするドラウムが真っ二つにされ、爆散した。


「あれが……天生体の力」


 ビームの光が敵艦艦橋を貫く。

 その光景を、バウルはぼんやり見つめた。




 戦闘は十分にも満たない時間で終わった。規模としては三倍強、それだけの数を相手にしながら、対天使隊の消耗は微々たるものだった。


「いつもあんな感じなのか、こいつらの戦いは」

「程度の差はあれ、こういう感じだ。ようこそ、イカれた世界へ」


 ラウは苦笑した。確かに、おかしな世界だ。子供がすごい力で大人を圧倒するなんて、古いアニメのようだった。自分もその一人なのだと自覚し、バウルも苦笑した。


「まあ、ともあれキミも中々やるじゃないか。上出来だよ」

「あいつらとはモノが違うということがよく分かったがな……例え機体が同じでも、同じだけ動けるとは思えない。あれが天生体とやらの力なのか?」

「ダリルは対宇宙軍の反抗組織(パルチザン)に参加していたからな。操縦はそこで習ったらしい、講師の腕がよかったんだろうな。若いのにすごいもんだよ」


 テロリストの講師とはエラい違いだ。

 そんなことを話し合っていると、ダリルとミーアが言い争いをしながらデッキから降りて来た。どうにもソリが合わないらしい、本気でいがみ合っていた。


「また降りるなりそれか。お前たち、本当に懲りないし飽きないな」

「あ? しょうがねえじゃん、おっさん! このブス女がッ!」

「何言ってんのよ、このバカ。付き合ってられないっての……!」


 じゃれ合っているとか、そういう可愛い表現が似つかわしいものではなかった。バウルはため息を吐き、二人の会話に割って入った。


「ありがとう、さっきは助かった」

「外しただけよ。仮にも同類なら、もう少しマシに動けると思ったけど」


 それだけ言って、ミーアは居住ブロックに歩き出した。ダリルはそれを追いかけ、また喧嘩を売っている。幸い買うことはなかったようだが。


「アクの強い面子だが、まあよろしく頼む。あれがキミの仲間だ」


 仲間。それだけではないだろう。


 彼らも自分も、人間ではないのだから。

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