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03-交戦

 『天使』が広げた両手が輝きを帯びた。バウルは反射的に、伏せた。両掌に収束した光球から何本もの光線が伸び、軌道上にあったものを焼いた。


「ビーム……!?」


 立ち上がり、バウルはもう一度怪物を見た。幸いにも彼がいた場所を光線が襲うことはなかったが、部屋の壁は焼け溶け、炭化していた。軍は高温熱線を用いた破壊兵器、通称ビーム兵器を実用化していると聞いたことがある。だがどう見ても、あれが軍用兵器だとはバウルには思えなかった。


「……イリーナ。イリーナは無事なのか?」


 イリーナを逃がさなければ。バウルは駆け出し、体ごとぶつかりドアを開けた。彼が出て来るのと、イリーナが奥の部屋から出て来るのはほとんど同時だった。イリーナはバウルを見て駆けて来るが、二人の間にビームが割って入った。


「イリーナ! 大丈夫か!」

「私は大丈夫、バウルくんどうなってるのこれ!」


 ビームが二人を傷つけることはなかったが、軌道上にあった建物は崩落してしまった。十メートル程度の断崖が広がっており、行き来は出来そうになかった。


「逃げろ、イリーナ! シェルターがあるだろう、この規模の街なら!」

「バウルくんも気をつけて! そっちからだとちょっと遠いから……」

「こっちからならガレージの方が近い。ドラウムのキーをくれ、イリーナ!」


 バウルからすれば、逃げる気などなかった。あの異形の怪物から感じたものの正体を一刻も早く確かめたかった。そんな彼の内心を察してか、イリーナは一瞬躊躇った。それでも彼女は、ドラウムのキーを投げてバウルに寄越した。


「絶対に無理しないで! また会えなかったら嫌だよ、バウルくん!」

「分かっている! こんなところで、死ぬ気はないからな!」


 そうしている間にもビームの光が瞬き、断続的な爆発を引き起こしている。時折、それに銃声が混じるのをバウルは聞いた。軍が対応しているのか。


(俺が辿り着く前に、あれが殺されたら……急がないとな)


 悠長に階段を降りている時間はない。バウルは辺りを見回す、すると赤いパトランプのついた扉が見えた。開けると、緊急用の放水ホースが格納されていた。ホース長は20m程度、バウルはいま自分がいる場所の高さを計算した。


(窓まで3m、ここは地上6階。天井の高さは3.2m。多少足りないが……)


 バウルは丸められたホースを取り出し、端を掴むと窓に向けて走った。十分な加速をつけ跳び、全体重をかけて窓に蹴りを入れる。反発を感じながらも、窓は粉々に砕けた。自分の体が重力に引かれて落下するのを感じた。

 中空に投げ出される体。ピン、と伸びたホースが窓枠に引っかかる。グンッ、と上方に引っ張られる感覚。壁が迫って来るのを、正確には自分の体が壁に叩きつけられようとしているのをバウルは見た。彼方では怪物が次の攻撃の準備をしている。

 バウルは両足で壁を蹴り衝撃を受け止め、反動で下に跳んだ。ほとんど同時に放たれた怪物のビームがホースを掠め、溶断した。バウルは肩から着地し転がり、衝撃を殺す。それでも凄まじい痛みが彼に襲い掛かって来た。


(クソ、俺が何でこんなアクション映画じみた真似を!)


 内心で毒吐きながら立ち上がり、走る。痛みはあるが動けないほどではない。あまりにも異常な体ではないか、とバウルは自問した。あんな無茶な真似をすれば鍛えた人間でもただでは済まないだろう。だいたい、あんな跳び方では20m落下の衝撃をまるで殺せていない。ホテルの壁を蹴った時点で死んでもおかしくなかった。


(俺もあれと同じような、化け物なのか?)


 ガレージへと走りながら、バウルは破壊の限りを尽くす怪物を振り仰いだ。そんなわけはない、と打ち消すが、確信が得られなかった。

 500mほど離れた場所にあるガレージはほとんど無人だった。ここは傭兵が機体を格納するために使うが、彼らもあんなワケの分からない、見返りがあるかも分からない怪物を倒すために戦ったりはしないだろう。


 そんな物好きは、きっと自分一人しかいない。


「やるぞ、ドラウム。アイツが何者か確かめる……!」


 ガレージの扉をこじ開け、バウルは戦場へと飛び出した。ノーデンの道路は機動兵器運用も視野に入れて設計されているため、十分なスペースがあった。市外へと通じる道は混雑していたが、当然ながら基地までの道は空いている。

 バウルは改めて怪物を観察する。際立って大きい、というわけではない。全長は10m程度、バトルウェアと同じくらいだ。機械というよりは生物めいた外見をしている、昆虫に近いか。複眼が油断なく周囲の状況を観察している。


 基地の対空砲、出動したバトルウェアやAAからの執拗な攻撃を受けつつも、怪物は倒れることなく戦い続けていた。あれほどの鉄量を受け、なぜ。バウルはそう思ったが、すぐに理由は分かった。軍のバトルウェアが放ったビームが頭部を爆散させたのだが、数秒もしないうちにそれがうぞうぞとせり出した筋繊維によって再生されたのだ。


「化け物……ッ!?」


 バウルの視界にノイズが走る。怪物の胸、そこに小さな霞が掛かって見えたのだ。それが何なのか、彼には分からない。それでも直感的にトリガーを引いた。

 ロケットランチャーの照準を合わせ、発射。怪物は白煙を引き迫るロケットに気付き、光球でそれを迎撃しにかかった。だが咄嗟のことで回避が間に合わず、怪物は直撃を嫌い身をよじり肩でロケットを受け止めた。


(攻撃を喰らっても再生する化け物が、避けた?

 どうやら、あそこに当たると都合が悪いようだが……)


 一撃をくれてやった代償は大きかった。怪物は歯を剥き出しにしてバウルを睨み、左手を掲げた。収束する光、ビームの雨を喰らえば命はないだろう。

 その時、別の方向から光が伸びた。光は怪物の肘を飲み込み、溶かし尽くした。溶断された腕が地面に落ち、怪物が悲鳴を上げる。バウルが視線を向けると、街を見下ろす崖から長大な砲身が伸びていた。


「少し遅れたが、どうやら間に合ったみたいだな」


 オープン回線から太く、低い声が聞こえて来た。モーターの駆動音が響き、空中から悶える怪物目掛けて数え切れないほどの弾丸が撃ち下ろされた。


「『A型変異疾患対策委員会』所属ラウ・ドーレン、貴官らを援護する」


 バトルウェアが空を舞う。噴射剤の炎が、青白い光の帯を空に引いた。

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