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遙星の少女は紅く舞う  作者: 秘空 命永
第一章 後編
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十六話 染まりし焰と主の魄

「くふぁ~っ、ここ風呂ないのか……」


 スイが髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、フウは読書をしていた。


「え、お風呂あると思ってたの? ぷくくッ、ある訳ないじゃ~ん」

「…………」

(いや分かってるって)


 脳内で冷めたツッコミを入れるスイ。高級な宿ならまだしも、一般的な宿に風呂なんてものがある訳がない。二人の家にはちゃんとあったが、それは水が身近にあったのと炎術により湯を沸かすのが容易だったからだ。


「そうだけど、やっぱり初めての外泊ともなれば期待するでしょ」


 からかわれたことに少しだけ()ねて、スイは口を(とが)らせた。


「お兄ちゃんは風呂好きだもんなぁ~。でもしばらくは御預(おあず)けだね、ここはシャワー室あるだけ豪華だよ! うんうん!」


 確かにこの銀髪では公衆浴場になんて行けそうもないだろう。肩を落として落ち込むスイの元へと、フウがランプを持って近寄ってきた。


「ところでさ、これの使い方が分からないんだけど……」

「え!? フウ、ランプのつけ方分からなかったの? でもこの部屋明るい……あぁ」


 部屋を見回して、その理由に気づく。


「えへへ、炎術で明るくしてた~」


 手の平サイズの青い(ほのお)が部屋にいくつか浮かんで、柔らかい明かりを放っていた。

 しかしふと、スイの頭に再び疑問が湧く。


「あれ、じゃあ自分の部屋の明かりは今までどうしてたの? まさかずっと炎術使ってたとか言わないよね……?」

「ん? ずっと炎術だったけど」


 くらり、と眩暈(めまい)がした。


「えぇ!? えええええ嘘ぉ!?」


 炎術において最も難しいとされるのは、術者から離れた炎の扱い。中でも一定の火力を保ち続けるとなると、集中力だけでなく高度な調整能力もが必要となる。それをフウはずっと使い続けてきたようだ。

 確かに、この部屋に(ただよ)っている焰は七個でフウはその中で読書をしていたのだから、随分と慣れていることが(うかが)える。


「家にもちゃんとランプあったよね……何だと思ってたのさ」


 大体予想はつくが気になったので聞いてみたところ、


「普通に飾りだと思ってた~」

「はははは……」


 予想通りの答えが返ってきて、スイは笑いしか出なかった。

 こんな高等炎術を毎日使っていれば炎の扱いが上達するのも納得だった。フウとは違い雷寄りの炎術が得意なスイにとって、炎をこのように扱うことは出来ないことはないがかなり難しい。

 フウからランプを受け取ると、スイは宿主から渡された焰石(ほむらせき)を取った。ランプの火をつけるのに必要なので近くに置いておいたのだが、残念ながらフウの眼中にはなかったようだ。

 焰石(ほむらせき)は術力を流したり、打ち合わせることで火が発生する石で、術者ではない人も容易に火を起こすことが出来るため広く用いられている。


「じゃあフウ、流石にこの石は何だか分かるよね?」

「焰石! 勿論知ってるよ~」


 どうやら知ってるのに火をつけようとしなかったようだ。本日のフウは天然さに磨きがかかっている。


「そう、これで火をつける」


 焰石(ほむらせき)に軽く術力を流して、スイはランプに火をつけて見せた。


「おぉぉぉ~! 家にあった(あか)い炎と同じやつ! 家のを見てから朱い炎を出す練習してたんだけど、なかなか出来なくてさぁ……こういうことだったのかあああっ!!」


 焰石の発火を(じか)に見て興奮するフウ。家にも焰石はあったけれども、今思えばフウが直接火をつける機会はなかったように思えた。


「そりゃあ炎術の炎の色は個人で決まってるからね。フウがいくら頑張ったって変えられるものじゃないよ」

「うっわお兄ちゃん冷めてるな~。そんなんだから、いつまでたっても妹に勝てないんだよ」

「えっ何で今その話になるの!?」


 地味にスイの痛いところを突いたフウは何食わぬ顔でランプの朱い炎に見とれている。


「あっ、面白いこと思いついた! それ貸して!」


 スイの手から焰石(ほむらせき)を奪い取ったフウ。玩具(おもちゃ)を与えられた子供のような様子で焰石を手の上に乗せると、その手から凄まじい術力が立ち込め始める。


「えっ、まさか」

「ここに思いっきり術力を流すと~」


 フウが笑った刹那(せつな)、爆発のような轟音(ごうおん)(あお)の火柱が部屋を包んだ……がそれは幻のように一瞬で霧散(むさん)した。


「えっ?」

「あ、」


 呆気(あっけ)にとられる二人。先に正気に戻ったのはスイの方だった。


「フ~ウ~!!」

 炎が現れたのは本当に一瞬のことで、周囲に勘づかれず部屋に被害もなかったから良かったものの、あのまま燃え続けていたら取り返しのつかないことになっていただろう。


「あふっ、あっ、いやぁ~そのぉ……」


 スイが珍しくあたふたするフウを叱ろうと立ち上がると、(くだ)けた焰石(ほむらせき)をちゃっかり焼却処分したフウが待ったをかけた。


「違う違う違う! 確かに、焰石砕いた(ついでに燃し消した)のは悪かったけど……もっと面白いことが分かったよね!? ホラ、さっきの焰石の炎の色見たでしょ!?」

「んん~? あれはただ単にフウの術力が強すぎて焰石を燃やしちゃっただけだよねえ~? 問答無用! 罰として今晩はランプの代わりにフウの炎を明かりにしておくこと!」

「うわぁぁぁああ~普通にバレてた~! そういう所だけ鋭い可愛げのないヤツめ! うええーん!」


 宙に浮いている(ほむら)を頭上で高速回転させながら、棒読みで泣き真似をするフウ。


「はい(わめ)かない騒がない暴れない!! 外に聞こえると僕にあらぬ疑いがかけられるから、静かにして欲しいなああ!?」

「シクシクシク……お兄ちゃんがいじめるよう。私の心の支えはもうお前達だけだぁ~ぐすん」


 などと訳の分からない文句を言って()ねてはいるものの、明かり代わりの蒼炎(そうえん)を消そうとはしないのでどうやら反省はしているらしい。ベッドの上で本達に抱きついて独り言を呟くフウを呆れ顔で見ていたスイは、昼に話そうとしていたことを思い出した。


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