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第81話 テスト

我はゴーレムなり。


ただいま文字を猛勉強中のゴーレムなり。正直、スキル【通訳】があるので、あまり真剣になれていない自分がいる。適当なジェスチャーでなんとかなってるので、本気になれないんだよね。


喉元過ぎれば熱さを忘れるって感じだ。我は食べられないけど。


我は、手を抜きつつも、かりかりと文字の勉強にいそしんでいた。ハクががんばっているので、我が先に放り出すわけにはいけないのだ。我は背中で生き様を語るゴーレムだからな。本当は、我には言葉なんて不要なんだ!


あ、はい。すいません、かりかり勉強していますので、後ろに立たないでいただけますでしょうか、アスーアさん。気が散って仕方ありません。


ちなみに我は、今、テストがあったら80点は取れるくらいの勉強はしているつもりだ。平均点以上取れていたら十分だろう。手を抜きつつも、ポイントはおさえているのである!


我のそんな気持ちを読み取ったのか、アスーアが我とハクに「テストをします」と言って、いきなり抜き打ちテストを始めた。


我は、うーん、うーむと考えながら、一問、一問、確実に回答欄を埋めていく。なかなか難易度の高い問題ではないか。さすがはアスーア。難しいラインをついてくる良い問題だ。


横ではハクが軽快にペンを動かす音が聞こえてくる。


サラサラと流れるようにペンを動かしているぞ。もしかして適当に埋めているのだろうか。もしもそうだったら後で注意しなければいけないな。一問入魂なのだ。一問を笑う者は、一問に泣くのだ。人生の先輩としてしっかりと注意してやらねばな。採点結果を見てから、注意することにしよう。


「はい、そこまで」と言って、アスーアが解答用紙を奪っていく。ああ、我はまだ全部埋められていないのに。なんてこった。


「すぐ採点するからちょっと待っててね」と言って、アスーアはペンに赤いインクをつけ、採点を始めた。


我とハクは机の前に座ったまま採点を待つ。ちょっとドキドキするな。目の前で採点されるなんてさ。ハクは初めてのテストだろうから、悪い点でも気にするなとフォローもしておかないといけないな。注意とフォローか、なかなか大変そうだが、我ならできる。


最初の答案は、ピンとはねる採点が多い。我の方が先に回収されたから、今採点されている答案はハクのものだろう。やっぱり、全部適当に埋めていたのかもしれないな。ハクはアスーアの採点の様子を眺めているけど、ピンが多いことに疑問を持っていないようだった。テスト自体が初めてだから仕方がないのかもしれない。


次が我の答案だ。我の答案もピンとはねる採点から始まった。あれ、最初の解答は結構自信があったのだけど、違っただろうか。あれ今度はシュシュって2回書いた。今まではピンとはねるだけだったのに。


うーん、我の答案の採点では、シュシュって2回書くのが多い気がする。何だろう。Excellentって事なのかな。あんまりにもハクと我の点数が離れていたら、ハクが自信をなくしてしまうだろうからな。今回は注意するよりも、フォローにだけ力を入れた方がいいかもしれない。


採点の終わったアスーアが答案を返してくれる。まずはハクから返すようだ。


「はい、ハクちゃんは、2問だけちょっとしたミスがあったけど、ほぼ満点よ。よくがんばったわね」


ハクはうれしそうに、答案を返してもらう。ハクの答案を見ると、かなりきれいな字だ。でも、ほとんどピンなのだけど、なんでこれでほぼ満点なのだろうか?


「次に、ゴーレムちゃん。非常に残念な結果だけど、3割くらいしかあっていなかったわよ。6割しか解答できていなかったから、まず全部の解答欄を埋めることを目指した方がいいわね」


我はアスーアから答案を返してもらうと、ピンとバツが半々くらいついている。我が首をひねっていると、ピンが正解でバツが不正解のところよと教えてくれた。


採点の印が日本と違うのか。はは。


ハクが「元気、出して」と我の背中をゆっくりとさすってくれる。さっきまで、我がどう注意しようかな、どうフォローしようかなと考えていたのに、これではまったく反対だ。


我はこの時から、もう少しだけ勉強に力を入れるようになった。





最近、老人が忙しそうだ。


我とハクの面倒を今まではつきっきりで見てくれていたのだが、今はそんな余裕がないみたいだ。何か事件でもあったのかもしれないね。


我とハクのことはアスーアが面倒を見ることが多くなった。アスーアは先生もしていたそうだが、若い時は冒険者をしていたらしい。老人とは若いときの冒険者の仲間だそうだ。老人とアスーアの恋バナを聞かされても、我はそんな話に興味がないので聞き続けるのに苦労した。ハクとジスポは横のテーブルで2人でお菓子を食べつつ、お茶を飲んでいる。恋バナを聞くのが我だけだったのだ。


話のところどころで「聞いてる、ゴーレムちゃん?」と確認を取ってくるので、非常にやっかいだった。表情が顔にでないゴーレムで本当に良かった。きっと人間だったら真顔で表情がなくなりつつ、話をきくはめになったことだろう。





老人が忙しいのでハクの戦闘訓練は我が見ることになる。我に教えられることなんてあまりないんだけどな。


あ、そうだ。ラインライトを使って、モグラたたきみたいなことをやってみるか。我は光の棒をハクの周りに発生させるから、全部ナイフで切っていくようにと伝える。切られたラインライトは、すぐに消えるようにする。当然、今回のラインライトは明るいだけで、ケガをするような威力は持たせていない。


我はヒョイ、ヒョイとハクの周りにラインライトを発生させ続ける。ハクは良い動きで全ての光の棒を切っていく。ハクめ、なかなかやりおる。


我はラインライトを発生させるスピードと数を徐々に増やしていく。それにもハクはついてくる。持久力がないから、段々と切っていくスピードが落ちてきた。こればかりは仕方ない。体力もつけていかないとダメだね。





ハクには翌日から、町の周辺で走り込みも始めさせた。我も単語帳を片手にハクと一緒に走る。最初は町の周りを1周走るだけでハクはへばっていたけど、1週間も続けていると大分持久力がついてきたようだ。たった1週間でも変わるものだなとちょっと感心した。


当然、ラインライトを使っての訓練も並行してやっている。あとは町の周辺で人がいないところで精霊魔法の訓練もする。精霊の中では風の精霊がハクと一番相性が良いらしい。風の精霊の中で1体、ずっとハクと一緒にいるようになった者もいる。そのおかげで風の精霊魔法は威力が徐々に上がってきた。





ラインライトを使っての訓練だけではイマイチかと思って、組み手みたいな事もするようになった。組み手と言っても、ハクがずっと本気で我に攻撃をしてくるだけだ。我は常に回避するだけで、手を出すことはない。


この訓練の中で、我はステップを改良し、残像を残して動けるようになった。ふっふっふ。自分の才能が恐ろしい。





アスーアからまたも抜き打ちのテストを受けた。今度は全ての問題を埋めることが出来た。やったね。努力の賜だ。


そして、点数も81点だった。ふっふっふ、我はやれば出来るのである。しかし、ハクは97点だった。すこし悔しい。





ハクとの組み手では、ハクには精霊魔法も使うことをOKにした。ハクにはナイフだけでなく、精霊魔法と組み合わせた戦い方を開発してほしい。手加減が必要なので、我は単語帳で勉強をしながら、組み手の相手をしている。ハクはまだまだ我を本気にさせることはできない。


ふっふっふ、我はいつまでも越えられない壁として、ハクの前に立ち塞がるのだ! 簡単には負けてやらないのである。

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