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第78話 3つの目的

我はゴーレムなり。

1匹のハムスターと白い獣人の少女を連れて町を目指している。


【姿隠し】を発動させた方がいいのかとも思ったが、ハクがいるのでそのまま行くことにした。元奴隷達が歩いて行ったのと同じ方向に歩いてみると、町への道はすぐに見つかった。


町までは特に何事もなく進んでいくことができた。魔物も出なかったし、このあたりの治安はいいのかもしれない。ただハクがずっと我のことを「かみさま」と言ってくるので、そこだけは直させた。ゴーレムと呼ばせるだけなのに、かなり苦労してしまった。ハクは結構、頑固だ。





町の入り口では門のところにいる兵士達に何かを見せたり、お金を渡してから町の中に入っている。どこの町でも似たようなシステムになっているんだね。あっさりと町の中に入っていく者は、きっと町の住人なんだろう。我とハクは列の一番後ろに並ぶ。今の我はお金も持っているし、身分証になりそうなダンジョンカードも持っている。それにハクと一緒だから何とかなるだろう。


我とハクの順番がようやく来た。門番の兵士は獣人の少女とゴーレムの組み合わせに少し戸惑っている。ハクが「町、入りたい」と伝える。兵士が身分証はあるかと聞いてくるので、我はないわーポーチからブラックカードを取り出してみせる。


兵士はどうやらブラックカードを見たことがないらしい。そういえば、迷宮都市のおっさんが初めてだとか言ってた気もするが、ちゃんと聞いてなかったから覚えていない。冒険者ギルドに確認するからと言って兵士は確認に走る。我とハクは門の横にある兵士達の詰め所みたいな部屋で待たされることになった。


テーブルの前にあるイスに我とハクは並んで座る。お茶も何も出してくれない。部屋の壁には10本近くの剣がかけられている。我はハクに冒険者登録をさせるつもりでいる。身分証がいるし、もしも一人になっても生きていけるようにするためだ。


『ハクよ、おぬしを冒険者登録させたいと我は思っている』

「冒険者? 私?」

『うむ、我と一緒に来るならば、最低限の強さが必要になる。出来るか?』

「私、ゴーレム、と、一緒に行く。必要、やる!」

『そうか。ハクは何か武器を使ったことはあるか?』

「ナイフ、使ってた」

『わかった。服などと一緒にナイフも買おう』

「うん。買う!」


ハクは、まだ体力があまりないけど、ちゃんと食事を取ってきちんと寝て、運動すれば、体力はついてくるだろう。バランス感覚と動きはなかなかいいものを持っている。獣人だからかもしれない。


我がそんなことを考えていると、部屋の扉がノックされ、一人の老人が部屋に入ってきた。耳が少しとがっている。ハーフエルフだろうか。金色の短めの髪に、あごひげもよく手入れがされている。目は糸のように細い。笑っているようにも見える。でも、あれでちゃんと見えるのだろうか。


「すまぬな。大分待たせてしまったようじゃのぅ。ギルドからここまで大分距離があるから、許しておくれ」


と老人が話しかけてくる。我は気にするなと首を横に振る。老人は向かい側のイスに腰掛け、自己紹介をした。


「ワシはこの港町のギルドマスターをしているクエリという。この耳を見てもらえばわかるように、ワシはハーフエルフじゃ」


我はふむふむと頷く。ハクも我と同じように頷いている。


「銀色のゴーレムさんの方が、黒いダンジョンカードを持っていると聞いたが、見せてもらってええか?」


我はないわーポーチからブラックカードを出し、老人に渡す。老人は一瞬だけ、刃のようにするどく目を開き、ブラックカードを見る。老人はブラックカードを裏返したり、色々な角度から眺めている。


「おう、これは確かに。ブラックカードじゃな。ワシも初めて見たわい。ありがとうよ」


そう言って老人は我にブラックカードを返してくれる。我はブラックカードをないわーポーチにしまい、もう町の中に入っていいかと、ハク経由で質問する。


「いや、もう少し話をさせておくれ。お前さん方は何の用でこの町に来たんだえ?」


先ほどと同じように我がハクに町に来た理由を告げ、老人に話してもらうことにしよう。今まではジェスチャーだけだったから、大変だったんだよね。


『ハクよ、我の言葉を老人に伝えてくれ』

というと、ハクは我の方を見てこくりと頷く。しっぽも心なしか大きく揺れている。


『我らの目的は3つある』

「目的、みっつ」


老人は頷きつつ、「その3つとは?」と聞いてくる。


『1つめは、ハク、この獣人の子の服や必要な物を買うため』

「ひとつ、私の、服、買う」


『2つめは、ハクの冒険者登録をするため』

「ふたつ、私、冒険者、登録する」


『3つめは、ハクに冒険者として最低限やっていける経験をつませる』

「みっつ、私、冒険者、経験つむ」


老人はあごひげに手をやりながら、なるほどとつぶやき、頷いている。


「それでは、その3つの用件がすむまで、この港町に滞在するという事じゃな?」


我は当然と頷く。ハクも我のマネをして、こくっと頷く。老人は我に「鑑定をしてもいいか」と聞いてくる。この老人、鑑定できるのか。うらやましい。我はいいよと軽く頷く。ハクも、こくりと頷く。


{ログ:ゴーレムは鑑定された}


老人の糸の様に細かった目が大きく見開かれる。うむぅと低い声でうなり、「これほどとは」と呟いている。「カエイスとガモンガスが言っていたことは、本当みたいじゃな」と、老人は独り言を言い、一人で何かを納得したみたいだ。


「お前さんら、この町に滞在する間、泊まる場所はまだ決まっていないのだろう? ワシの家に空いている部屋があるから泊まるかい? 獣人の子供とゴーレムだけではなかなか宿に泊まれんだろうからな。ばあさんの料理はなかなかうまいぞ」


おお、なんとこの老人は我らを泊めてくれるらしい。なんて親切な老人なのだ。お言葉に甘えてしまおう。


『ありがとう。では遠慮無く泊まらせてもらおう。ただ、ネズミもいるが良いか?』

「ありがと。泊まる。ネズミ、いていい?」


ジスポが呼びましたかと、ないわーポーチから顔を出した。


「ほぅ、これは変わったソフティスマウスじゃな。もちろん、そのネズミも一緒でかまわんぞ」

「ちゅちゅー!」

(よろしくお願いします!)


ジスポは敬礼をするように手を額に当てて挨拶をする。


「服を買うのじゃったな。それじゃあ、ワシがこの町を案内してやろう。ついて来なされ。あぁ、あと、ゴーレムさん。鬼族の国クカノでの報酬は、お前さんのギルドの口座に振り込まれておる。必要じゃったら、いつでも引き出せるからの」


我は了解したと頷く。我とハクは、老人の後について部屋から出るのだった。





我らは、まず服屋に案内してもらった。


服屋ではハクの服を買いそろえる。革のブーツに丈夫な黒の革のズボン、白のシャツに、黒の革のジャケットを買う。ひらひらした服よりも動きやすくてケガをしにくいような服を選んだ。森などに入るのにスカートなどあり得ないからな。それにハクは髪の毛やシッポが白いから、黒色の服だと白が映えるのだ。下着類やシャツも何着か店員に用意してもらう。


革のズボンにはちゃんとシッポを出せる穴も開けてもらう。火傷の跡がひどい顔と右手を隠せるように、右手用の手袋と大きめの眼帯をあわせて作ってもらうことにした。手袋と眼帯は後日受け取りに来ることにする。


店の奥でハクは買ったばかりの服に着替えてきた。我が『よく似合っている』と告げると、うれしそうにシッポをぶんぶんと振って喜びを表した。うむ、良い買い物ができたと、満足して服屋を後にする。



老人に次は魔道具屋と武器屋にも案内してもらう。さすがは、ギルドマスターと言うべきだろう。魔道具屋と武器屋の主人は、突然の老人の訪問にすごく驚いていた。


魔道具屋では、荷物がたくさん入るという魔法のかかったウエストポーチを購入した。これが今回の買い物で一番高かった。金貨20枚ほどかかった。旅の必需品だから、これは必要経費だね。我のないわーポーチよりもたくさん入るから、うらやましい。


武器屋では、ギルドマスターに相談にのってもらいながら、ナイフを選ぶ。ハクが使いやすいように、そんなに大きくないナイフを2本買う。我には復元があるから、折れても直せるけど、戦いの最中に折れてしまった場合のことを考えて2本買っておいた。


なんというか、我より、ハクの方が実に冒険者らしい。我の装備なんて、ないわーポーチだけなのに。





最後に冒険者ギルドで、ハクの冒険者登録をする。ハクは登録用紙を自分で書くかと聞かれ、ハクは「書けない」と答えたので代筆してもらうことになった。ハクには文字の勉強をさせた方がいいかもしれない。その時は我も一緒に勉強しておこう。我には【通訳】があるから、文字の勉強なんて全くしてこなかったからな。


冒険者ギルドでも、老人が最初から最後までつきあってくれたので、我とハクにちょっかいを出してくる者はいなかった。この老人にはかなり助けられている。やはり、亀の甲より年の功である。


ハクは無印のダンジョンカードをうれしそうに受け取っている。これでハクにも身分証が出来た。なんでギルドカードじゃなくて、ダンジョンカードって呼ぶのか老人に聞いたところ、冒険者ギルドの始まりが、ダンジョンへの挑戦者を助ける組織だった為、その頃の名残だそうだ。


ハクのおかげで、我のコミュニケーションの幅がかなり広がっている気がする。


我が「すごいぞ、ハク」と褒めると、ハクはすごい笑顔でシッポを振り、喜びをあらわす。ジスポはないわーポーチから顔を出し、ぐぬぬと歯を食いしばりながら、それを見ている。



その日はそこまでで切り上げ、老人の家に案内してもらうのだった。

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