表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/151

SS第15話 帰還する第2王女

私は人魚のルージュといいます。

人魚の国の第2王女です。


私たち人魚の国は、シーサーペントを従えた魚人達に攻め込まれ、あっけなく負けてしまいました。そして、そこから待っていたのは、魚人達による圧政です。


さらに魚人達は、人魚の若い女達を連れ去っていきます。人間達に私たちを売るためだと、下卑た笑顔で話しかけてきました。私も他の人魚と一緒に最初の売り物として、マーケットと呼ばれる奴隷の売買のための会場に連れて行かれました。


他の人魚達は、すぐに買い手がついて連れて行かれます。いえ、色々な人間達に買われるというよりも、特定の人間、太った人間の商人が、マーケットに出回る前に魚人から直接買い占めているようでした。私たち人魚を買い占めてどうするつもりなのでしょうか。


過去には人魚を食べれば不老不死になれるという迷信が、人間達の間に流行ったこともありましたが、そのような事実はありません。今では人魚の奴隷は観賞用として求める人間がほとんどのはずです。


私と私の侍女2人は、客寄せの目玉ということで最後まで売られることはありませんでした。他の人魚達が連れて行かれるのを見ていることしかできない私は、自身の無力にうちひしがれました。


ある日をさかいに人魚がマーケットに連れてこられなくなりました。魚人も姿を見せません。人魚の国で何かあったのでしょうか。


人魚が届かなくなり、太った人間は最後に私たちも買っていこうとしました。しかし、マーケットの人間が、この3匹だけはこっちで売らさせてもらわなければ客が納得しないと言って譲りません。しかたありませんねぇ、実験のためもう少し欲しかったのですが我慢しておきましょう、といい太った人間はこれ以降姿を見せませんでした。実験のため、その言葉がいつまでも私の耳に残りました。


そして、とうとう私たちも買われてしまいました。砂漠にある国の王子の使いが大金を出して、私たち3人をまとめて買ったのです。マーケットの人間は最後に、頭のイカれた王子だから苦しまずに死ねたらいいなと声をかけて、私たちを商船に押し込みました。



何度か船を乗り換えて進んでいくと、突然大砲の音が聞こえました。戦っているような音と怒声も聞こえてきます。侍女達も何事だろうと自分の身体を抱きしめて震えています。しばらくすると静かになりました。どうなったのでしょうか。


その答えはすぐにわかりました。海賊達が現れ、私たちを見つけて大喜びをしています。私たちはまた違う人間達に売られていくのでしょう。今度はきっと別々に売り払われてしまうことになると思います。私は侍女達にもしも離れることがあってもしっかり最後まで生きるのよと伝えました。


私たちは海賊達の手により甲板に連れ出されました。海賊の船長と思われる男が、私たちの檻の前まで来て大喜びをしています。くっと唇をかみしめていると、突然、ドガっという音と共に、海賊達が潰されていきます。真っ赤な血や肉が飛び散り、船上はひどい有様です。


どうやら銀色の人形が海賊達を殺しているようです。その力は圧倒的です。海賊達はあっという間に殺され尽くしてしまいました。さらに、銀色の人形は海賊船に乗りうつり、あっという間に海賊船を沈めてしまいました。


私はその様子に呆然としてしまいます。なんという恐ろしい人形なのでしょう。人形は私の檻の方へ近づいてきます。私も海賊達と同じように殺されてしまうのでしょうか。後ずさりますが逃げ場がない檻の中です。逃げ場所などありません。怖い。死にたくない。がくがくとどうしようもなく身体が震えてしまいます。


人形は檻に手をかけるとぐいっと鉄格子を広げました。そして、侍女達の檻にも近づき、同じように鉄格子を広げていきます。次に人形は檻をぐいぐいと船の縁まで押していきました。いったい、この人形は私たちをどうしたいのでしょうか。


人形は私たちを指さした後、海を指さし、手を振ってきます。もしかして逃げろということでしょうか。銀色の人形に確認すると、そうだとばかりに頷きます。連れ去られて以降、私たちを助けてくれようとした者は一人もいませんでした。


私はぽろぽろと流れ落ちる涙を止めることが出来ません。でも、私たちには隷属の首輪がはめられているため、逃げることができないのです。銀色の人形にお礼をいい、それが無理であることを伝えます。


銀色の人形は私たちを見つめ、じっとして動きません。突如、人形は私に向かって近づいてこいとでもいうかのように手招きをしてきます。私はおそるおそる、震えながら人形に近づいていくと、人形が隷属の首輪にいきなり手をかけました。そして、そのままブチッと引きちぎってしまいました。


私は今起こった事実を信じることができません! 隷属の首輪を引きちぎるなんてできるわけがないのです!


私はなおも信じることが出来ず、首の周りを何度も触って確かめます。本当に首の周りに首輪がありません! いつのまにか侍女達の首輪も人形が外してくれています。本当に隷属の首輪をこの人形が外してくれたのです。私はあふれる涙をどうしようもありませんでした。


そして、改めて人形は逃げろというように海を指さします。私は侍女達の顔を見て頷き、海へと飛び込みました。侍女達もそのぽろぽろと涙を流しています。私も涙を流し続けています。


「ありがとうございました! 本当にありがとうございました! 人形様!! この御恩は決して忘れません!!」


大きな声で人形様にお礼を言い、人形様が頷かれたのを見て、私たちは海の中へと潜っていきます。





私たちは、人形様に助けられ、自由になることが出来ました。なぜ、あの人形様が私たちを助けてくれたのかはわかりません。もしかすると、海神様の使者だったのかもしれません。


他の人魚達は無事でしょうか。太った人間に連れて行かれて、かなりの月日が経ってしまっています。実験のためと、太った人間が言っていたのも気に掛かります。でも、陸の上を探す方法など私たちにはありません。助けてあげられなくて、本当にごめんなさい。


私たちは、これからどうするか話し合います。危険かもしれませんが、一度人魚の国に戻ることにしました。突然、魚人達が姿を見せなくなったのも気になります。もしかすると、人魚の国に何かがあったのかもしれません。


私たちは魚人たちと出くわさないように、慎重に人魚の国を目指して泳いでいきます。周りを警戒しながら進むため、人魚の国に辿り着くのにすごい時間がかかってしまいました。それでも何とか人魚の国が見えるあたりまで戻ってくることができました。


まだ魚人達の支配が続いているのでしょうか。不安ですが、少しずつ人魚の国へ近づいていきます。人魚の国の周りを巡っている一団がいました。それは、魚人ではなく、武器を持った人魚の兵士達です。もしや魚人の手下になってしまったのでしょうか。どうするべきか、判断を迷っていると、侍女の一人が兵士達の所に行って確認してきますと、飛び出して行ってしまいます。止める暇もありません。


しばらくして侍女は人魚の兵士達と一緒に私たちの方へと戻ってきました。


なんと今は人魚の国は魚人の支配下から解放されているということです! シーサーペントを従えた魚人達をどのように退けたのでしょうか? 人魚たちだけで退けれるとは思えません。


兵士達に囲まれ、女王である母様のもとへ案内されていきます。


私が連れ去られた時は、壊れてしまった建物が多かった人魚の国ですが、今はきれいな街並みに戻っています。国の真ん中にある広場では、何かを造っているようです。あれは何を造っているのでしょう。周りにいた兵士の一人に聞くと、この国を救ってくださった英雄の像を造っているのですと教えてくれました。



王の間で、母様に会うことが出来ました。すこしやつれたようにも見えます。母様に連れ去られた人魚たちについて知っている限りの事を伝え、その生存は難しいかもしれないと私の考えも伝えます。そして、私たちだけが助かって戻ってきた経緯についても話しました。銀色の人形が助けてくれたなどと話しても、信じてくれないかもしれないと思いながら、私はありのままを伝えていきます。


「まぁ、ゴーレム様があなたを助けてくれたのですね」と母様は一人で納得されました。「あなたたちだけでも無事に帰ってきてくれて何よりだわ」と母様は労ってくれます。母様も、他の大人達も口にはだしませんが、連れ去られてしまった時点でお終いだということを皆わかっているのです。一度連れ去られた人魚が戻ってくることなど、今まで一度もなかったのですから。


その後、母様から人魚の国で起こったことを教えてもらいました。

私たちを助けてくれた銀色の人形が、私たちの国を救ってくれていたのです!


突然、マーケットに魚人が現れなくなった理由もこれでわかりました。私は銀色の人形、ゴーレム様を思い、感謝しました。妹のピンキーも無事でした。ピンキーがゴーレム様をこの人魚の国に連れてきたのだそうです。えらいわね、とピンキーの頭を優しくなでると、とてもうれしそうにほほえんでくれました。


この後、他にも戻ってくる人魚がいるかもしれないと、私は少し期待しましたが、戻ってくる人魚はいませんでした。私は人魚の国にある教会に入りました。さらわれた人魚達のことを思い、終生祈りを捧げて生きていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブログを作りました。
『しょせつ』
↑クリックで飛べます
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ