第74話 弟子入り志願と信者達
我はゴーレムなり。
決して銀の地蔵ではない。しかし、我の前には大量のお供え物、いや、今回の件の報酬がある。
女王ヒミコが我を大きな建物に案内して、上座に座らせてくれた。そして、運び込んできたのが、目の前に積まれた千両箱の数々である。ちなみに、ヒミコと和尚には、我が銀の地蔵ではないことをようやくわかってもらえた。我の説明と言うよりも、誰かから聞いたみたいだ。港であった冒険者たちが我のことを覚えていたので、彼らの話を伝え聞いたのかもしれないな。
「このたびの件、ゴーレム様にはどれほどお礼を言っても言い足りません。ギルドからの報酬とは別に、お礼を用意しましたので、どうかお納めください」
と女王ヒミコが我に申し出てくる。でも、我は邪魔になるから、はっきり言っていらないんだよね。我はいらないと首を振る。
「足らなかったでしょうか? であれば少々お待ちいただければ、さらに用意させていただきます」
女王ヒミコは我の思いとは正反対の解答を導き出してくる。なんだろう、最近、正反対の伝わり方をしていることが多い気がするぞ。我のジェスチャー力が鈍ったのだろうか。いやいや、そんなはずはない。
違う、いらないのだと、我は首を振る。
どうにか、こうにか、我のいらないという意思を理解してくれた。お金をあまり使うこともないし、こんなものを持ち運んでいけないと伝えるだけで、どれだけ苦労するのだろう。しかし、ヒミコは「それでは、私たちの感謝の気持ちが」と言ってくるので、千両箱の中から、25枚の小判が包まれた物を1つだけ抜き取り、受け取ることにした。
『あとは今回の件で被害を受けた者達の生活に役立てて欲しい』と伝えるのに、これまたすごい苦労した。かっこいいことを伝えているはずなのに、我からヒミコへのジェスチャークイズみたいな感じになっている。
はっ、そうだ!? 小坊主! 小坊主を呼んでくれ!
しかし、我の思いは届かず、小坊主が現れることはなかった。
◆
我はヒミコからの報酬をもらい、そろそろ旅立とうかと考えている。
たまに信者達が我の所に来て、身体のいろんな所の長さや太さを測っては帰って行く。何をしているのだろうと思っていたら、我とそっくりの像を造っていたようだ。
ようやく完成したんですよと持ってきてくれた像はたしかに我によく似ている。そして、後光もきちんと再現されている。見事なまでのクオリティだ。「これを各地の村に造って祀るんですよ」と、実に良い笑顔で言われてしまった。他にも銀の地蔵様の物語が書かれはじめているらしいし、人形劇ができましたと、銀の地蔵を題材にした劇も見せられてしまった。
なんという恐るべき行動力。なんと恐るべき信者達なのだろう。
我の【信仰されしモノ】は伊達ではないという事かな。
このままでは、我は飾り付けられ、逃げられなくなるのではという危機感を覚え始めた。こういう時は人知れず消えるのが正しいのだ。なぜならば、その方がかっこいいからね!
そんなことを考えていたら、港で出迎えに来た領主の息子が我のもとへとやってきた。
「あの時は申し訳ございませんでした」
と言って、いきなり土下座をし始める。そして、何を思ったのか、
「どうか、私をゴーレム様の弟子にしてください」
と頼み込んでくる。我は首を横に振る。我は弟子はとらないのだ。他をあたってくれというジェスチャーをするも、しつこく頼み込んでくる。失礼な態度をとって申し訳ございませんでしたとか、いかに自分がだめだったかとか、いろいろな理由を並べて弟子入りを志願してくるのだ。我はそれでも延々と断り続ける。
その日から延々と領主の息子は我への弟子入りを頼み込んでくるが、我もその都度断る。自分の事くらい自分でして欲しいものだ。人に頼っていてはいかんぞとジェスチャーで伝えるも、まったく伝わらない。
はぁ、どうしたものか。
『自分が誰かと比べて強いかどうかではないだろう。己の敵は己自身の中にあるんだ』とかっこいい台詞を伝えたいが、この思いは伝わらない。なんとももどかしいものだ。
ヒミコにどうにかしてくれと頼んでみた。ヒミコが何か言ってくれたようだが、領主の息子はそれでもなお頼み込んでくる。なかなか根性があるが、その根性は他のことに使って欲しい。
しかたない。
我は領主の息子を連れて岩山に行く。今日は最初の時にいたお供の大男と女も一緒だ。少し離れて待つようにジェスチャーで伝える。我は岩山を手刀で切り裂き、2つの大岩を切り出す。ダメだったら、ラインライトで切り出そうと思っていたのだが、できてしまった。まったく自分が恐ろしい。
離れてみていた3人もその様子にごくりと息を飲み込む。
で、我はそのあたりの木から枝を切り取る。木刀の代わりだ。
我はその棒に、固くなれ、固くなれ、と念じる。ほんのりと手に持つ棒が輝きだした! これは、もしや、オーラというヤツか!? と思ったが、どうやら違う。
バリアだ。バリアを棒にだけまとわせることができてしまったようだ。こんな使い方が出来ようとは。
そして、我はその棒を切り出した大岩の一つに向かって振り下ろす。すると大岩が真っ二つになった。おお、なんとなくやってみたが、できるものだな。
その様子を目の当たりにして唖然とする3人。我は棒を領主の息子に渡しやってみろともう一つの大岩を指さす。領主の息子は、棒を振り下ろすも、当然大岩を真っ二つにすることはできなかった。逆に振り下ろした棒が折れてしまう。当然の結果だ。
我はまずこれくらいをできるようになれと領主の息子に示す。不可能と思われる難題を与えて、弟子入りを諦めてもらうのだ。悪く思うなよ、領主の息子。
3人をその場に残し、我は聖地へと戻る。
◆
領主の息子に難題を与えたことで、我の生活にも平穏が戻ってきた。そう思ったのもつかの間だ。こんどは、キラキラした着物を持った信者達が押しかけてくる。
どうやら我を飾り付けようという話になったみたいだ。おいおい、勘弁してくれ。前に造った我にそっくりな像を飾り付ければいいのに。
我は【姿隠し】を発動させ、姿を隠す。
ふー、これで大丈夫かと思ったら、なんと信者達には我の姿が見えるらしい!!
こ、この信者達、心がきれいだというのか!?
うそだろ!? 信仰心のたまものなのか?
「地蔵様」「地蔵様」と曇り無い瞳で迫ってくる信者達に、我は恐怖を覚え、ぎゃーっと思いながら、その場から逃げ出す! 死体や幽霊よりも、おそれるべきは信じる心ではないか!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}
ふー、なんとか逃げ切った。やはり、このあたりが止めどきだろう。我はこの島国から脱出せねばならんな。でも、この部屋は何なんだろう。部屋に入る扉の上にはしめ縄がしてあったし、入ってはいけない神聖な場所なのだろうか。
部屋の中央には魔方陣が刻まれた立方体の大きな石がある。あれは前に何度か見たことがある、転移石か記録石、あとは封印石だったかな。なんらかの特別な力を持った立方体の石だ。
あれには触れたらだめなのだ。よくないことが起こる可能性が高い。
ジスポがひょっこり、ないわーポーチから顔を出す。そして食べていたドングリの実を落としてしまった。
「ちゅ、ちゅちゅ!」
(あっ、ドングリ待て!」
ジスポはドングリを拾うために、ないわーポーチから飛び出す。立方体の側まで行って、ようやくドングリを捕まえる。そのまま戻ってくればいいものを、ジスポは立方体にもたれてカリカリカリとドングリを食べ始める。そんなジスポに反応するように立方体が光り出した。
これって、ダメなパターンだと思い、我はジスポの近くまでダッシュする。我がジスポを拾い上げるのと同時に、我とジスポは光に包み込まれた。
{ログ:結界石は登録者以外の魔力を感知しました。結界石の周囲に存在する者は転移させられました}




