第73話 ファンへの対応
我はゴーレムなり。
宴の翌日、我は一日中、信者達の対応に追われた。銀の地蔵様のご加護をいただくことができないでしょうかと言われ、全く帰る様子がない信者達。ご加護など与えることができようはずがない。我はただのゴーレムなのだから。
和尚もどうしたものかと困っていたが、我もこの状況には困ってしまった。仕方ない。こういう時、ファンはサインの一つでももらえば満足するであろう。
我は森の中で木を切り倒す。我が手刀に切れぬものはない! 周りで見ていた信者達が、おお、さすがは地蔵様だと感嘆の声を上げている。驚くのはまだはやい。我は10本ほど切り倒すと、きれいに枝を落とす。そして、ラインライトで木を薄く輪切りにしていく。
薄い輪切りにした木を持ってきてもらい、墨を桶に入れて用意してもらった。我は信者達に1列に並ぶように、何とかジェスチャーで伝える。我は右手をバシャッと墨につける。そして、ぺたっと薄切りにした木に手を押しつける。我の手形の完成だ。
信者達、一人一人に手形を渡していくのに丸2日かかった。
1日目が終わる頃には、木を我の前に置く係と、手形を押された木をとって信者に渡す係などのサポート役も用意された。バシャ、ぺた、バシャ、ぺたと手形をリズムにのって押し続ける。ありがたやと受け取って満足そうに帰って行く信者達。これで満足して帰ってくれるなら、まぁいいかと思い、延々と手形を押していった。
ようやくすべての信者達がいなくなった。ふいーっと汗をぬぐう仕草で一仕事終えた雰囲気を味わう。汗なんて当然でないけど。
そんな中、和尚がお疲れ様でしたと言って、手を洗うための水を持ってきてくれた。我はありがとうと会釈をし、手をきれいに洗う。水を流すだけで墨はきれいに落ちた。
「ちゅちゅちゅ」
(大変でしたね、親分)
とジスポがないわーポーチから顔を出してきた。こやつは食っちゃ寝、食っちゃ寝をくりかえしている。まぁ、ちゃんと我を磨いてくれるけど。今もジスポは黄泉への扉のところで拾った丸いモノをかじろうとしている。なにかの紋様が彫られていたから拾ったのだ。我はジスポから丸いモノを取り上げる。まったく、なんという雑食なのだ。
我がジスポから取り上げたモノを見て、和尚が「それはどこで」と聞いてきた。
我はなんとかジェスチャーで黄泉への扉で拾ったのだと伝える。なかなか伝わらなかった。しゃべれないというのは不便なものだ。
すると和尚は眉間にしわを寄せ、「これは山の一族の紋、此度の件はやはり」とつぶやき、我に拾った丸いモノをいただけませんかと頼んでくる。拾ったモノなので、いいよと和尚に渡した。
後日、山の一族の頭首を捕らえて、斬首したという話を聞いた。山の一族の頭首は何かをしでかしていたようだ。会ったこともない鬼の事なので、我はその後、この話を思い出すことはなかった。
◆
我はしばらくの間、聖地にとどまることになった。彷徨う死体や幽霊がまだいた場合に対処するためだ。つまりは念の為だ。
聖地では鬼族の子供達が様々な遊びをしていた。聖地でただ待っているだけというのは退屈なので、子供の面倒でも見ることにしよう。
子供達が建物の縁側で何をしているのかとのぞき込んでみる。縦横の直線が垂直に書かれている四角い木の板を間に挟んで、その線の交点に白と黒の石を交互に置いている。同じ色を5つ並べたら勝ちのようだ。これは五目並べだなと眺めていると、「ぎんのじぞうさまもやる?」と聞いてくる。
我に挑戦してくるとは良い度胸だ。我はうむと頷く。そして子供に先手である黒石を渡してやる。ふっふっふ、大人の余裕というやつだ。子供達よ、これが本当の五目並べなのだ。刮目するがよい!
その後は、我は挑戦してくる子供達をちゅうちょすることなく返り討ちにしていく。悩みながら、黒石を置いてくる子供。我はそこでよいのかと上から見る。我と盤面を交互に見やる子供。そして、我は三と四の並びができる所に白石をそっと置く。子供は、「あああ」と嘆いている。「まって」と言ってくるが我は首を横に振る。
勝負の世界に待ったなどないのである。我は心を鬼にして、首を横に振る。「くそー」と悔しがり、負けた子供は次の子供に席を譲った。
その後も我が連戦連勝だったのは言うまでもない。我は子供であろうと、挑戦してくる者には手をぬかないのだ。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすと言うがそれと同じ事なのだ。
「ちゅちゅー」
(大人げないですね)
とジスポが言っていたが、これは子供達のことを思えばこそなのだ。まだまだジスポにはわからない心境なのだろう。
翌日は子供達が凧あげをしていたので、我も一緒になってあげた。電線がないから、凧が電線にからむ心配も無い。子供達はまだまだ風を読めていないようだ。まったく風を読まねばダメなのだよ。よく見ておくといい。
我は精霊のトモダチだからな。風の精霊に手伝ってもらえば、誰よりも高く凧をあげることができるんだぜ! 「じぞうさま、すごい!」とキラキラとした瞳で見つめてくる子供達に、『たいしたことじゃないさ』と首を横に振っておいた。
男の子たちは、他にもメンコやベーゴマで我に勝負を挑んできた。その全てで我はことごとく返り討ちにした。ふっふっふ、まだまだお前達には勝利は譲ってやらん。もっと修行をして出直してくるがよい。
女の子達がお手玉で遊んでいる。「じぞうさま、やってみせて」と言うので、我はお手玉を手にとる。はじめは3つでやっていたのだが、これではだめだと気づいた。
子供達にはもっと高い場所があることを教えてやらねばならん。
我は10コのお手玉を手に取ると、くるくるくると器用にやってみせる。その様子に、走り回っていた男の子達も近づいてきて、「じぞうさま、すげー」と驚きの声を上げている。我がすべてのお手玉を受け止める。子供達は一斉に拍手で我を称えてくれた。そうだろう、そうだろう。お手玉もここまでできるのだよ!
次の日は木登りをして高いところまで登ったが降りられなくなった子供がいた。猫みたいだなと思った。我はするするとのぼり、子供を抱えて地面に降りる。子供は「ありがとー」と泣きながらお礼を言ってくれた。鬼族の子供はしっかりしているなと少し感心する。
子供達が落ち葉を集めている。
掃除かえらいなと思って眺めていると、大人の鬼から芋をもらっていた。なるほど、焼き芋の為か。ちゃっかりジスポも芋を一つもらい、一緒になって芋を焼き始めた。「おいしいねぇ」と笑顔で焼き芋を食べる子供達。今の我に食欲はないので、別に悔しくないんだぞ!
「ちゅちゅちゅ!」
(おいしかったです!)
と報告してきたジスポには、むぎゅっと両手の人差し指で顔をはさんでおいた。
そんな風に子供の面倒をみて毎日を過ごしていたら、なんと称号を得てしまった。
{称号【鬼のトモダチ】を得ました}
{称号【鬼のトモダチ】を得たことにより、スキル【角生】を得ました}
鬼族の子供達の面倒を見ていたのに、【鬼のトモダチ】とは。これではまるで一緒になって遊んでいただけのようではないか。なんたることだろう。【鬼の保護者】とかにしてもらいたかったね。
そして、スキル【角生】だ。つのうって読むのか。世界の声を聞いていなかったら、つのはえって読んでたかもしれないな。文字だけを見たら、角が生える。このスキルを使えば、我に角が生えるのかもしれない。使ってみるか。
もしかすると、有名なロボットみたいなかっこいい角が生えるかもしれないからな。ふっふっふ、一角馬ゴーレム発進! みたいなことができるかもしれん。さらには、もしもピンチに陥ったときに角を生やして、逆転勝利とかができるかもしれないぞ! 変身ヒーローみたいじゃないか! くぅうう! 夢が広がるな!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
スキル【角生】発動!
我の感覚では特に何かが変わった感じはしない。しかし、角が生えているはずだ! 我は池に行き、水面をのぞき込む。特に何も変わっていなかった。我の感覚は正常だったな。
また一つ無駄なスキルを得てしまった。




