第71話 聖地を守るために
我はゴーレムなり。
周りには熱狂的な信者達に囲まれているが、我は銀の地蔵ではない。メタルゴーレムなのである。我は御輿に揺られながら、聖地へと進んでいく。もうすぐ聖地が見えてくるらしい。
やはりな。我もこの先から聖なる気配がしてくるのを感じていたのだ。さすがは聖地だ。
森を出ると草原に出た。右手には、鬼族や冒険者のような者達が武器を手に集まっている。左手には彷徨う死体や幽霊、さらにひときわ大きいヤツが1体いた。カブトムシのような角を持った赤い大きな虫のような姿をしている。4本の手には、それぞれ異なる武器を持っている。大きさは周りの死体と比べると10メートルほどになるのかもしれない。なんともまがまがしい雰囲気だ。
さきほど我の感じた聖なる気配はどこにいってしまったのだろう。まさか、勘違いだったのだろうか。いやいや、ないない。聖なる気配はしたよ、多分。
我は御輿の上で立ち上がる。そして、大きく手を広げる。
「おお、地蔵様がお立ちになられたぞ」
「なんと神々しい姿なのじゃ!」
「ありがたや、ありがたや」
「しっ! みんな静かに! 銀の地蔵様が何かを示されているよ!」
我は、『あの彷徨う死体達や幽霊をあの世に送ってくる。ここで待っていてほしい』というジェスチャーをする。
「おい、みんな、わかったか」
「ああ、わかったべ」
「うん、銀の地蔵様がそういうなら従うだけさ」
「おら達には力はねぇ」
「んだ」
おお、みんなわかってくれた。我のジェスチャーレベルは順調に上がっているのではなかろうか。日頃の努力のたまものだな。ふっふっふ、じゃあ行ってくるかと思ったら、御輿が急に動き出した。
えっ、ちょっとなんで進むのだ!?
しかも、彷徨う死体や幽霊がいるほうに向かっているよ!?
えっ、ちょ、ちょ、ちょっと止まって、と我は御輿をパシパシ叩くが止まらない。むしろ、速度が上がった!
な、なんだこれ!?
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
「おらぁ、みんな進むぞ!」
「地蔵様ももっと早くとおっしゃっておられる!」
「んだんだ」
「おら達には力がねぇ!」
「だけど、今は地蔵様がおられるのだ」
「黄泉の国の住人とて、恐れる必要は無いよ!」
「その通りだべ! 銀の地蔵様も恐れずすすめと示してくれただ!」
「みんな恐れるな!」
「おうさ!」
「ありがたや、ありがたや」
おう、みんなにまったく伝わってなかった。むしろ、全く反対の解釈をされていたよ。思いを伝えるのは何と難しいのだろう。
これ、どうしよう。みんなで彷徨う死体達に突っ込んで行っている。
「あるがままに受け入れるのが大事なのです」
小坊主の言葉と顔が突然浮かんできた。そうか、そうだな。あるがままに受け入れよう。流れはじめてしまったのだ。もう、この流れに乗るっきゃない!
我は目の前に迫り来る彷徨う死体や幽霊達に祈りを捧げる。
どうか安らかにお眠りください。
どんな時も我は後光を忘れない。そして、ラインライトを空から差し込む光のように演出することも忘れない。
{ログ:ゴーレムはゾンビ達とゴースト達と火の玉達に平均400のダメージを与えた}
{ログ:ゾンビ達は塵となり天に昇っていった}
{ログ:ゴースト達は天に昇っていった}
{ログ:火の玉達は天に昇っていった}
我の信者たちも、その光景にうおおおおおおおおっと雄叫びを上げる。テンションが上がりまくりだ。目が血走っている鬼もいて、ちょっと怖い。
カブトムシが我らに気づく。カブトムシは我らにむかって話しかけてくる。
「何やつだ!? 黄泉の国の者達をたやす」
すまぬ。カブトムシ。信者達の勢いが止まらないんだ。口上を聞いてあげたいけど、ぶつかる前にやらないといけないのだ! カブトムシに向かってラインライトの光と祈りの光が突き進む。
{ログ:ゴーレムは蟲忌ン愚将軍に800のダメージを与えた}
{ログ:蟲忌ン愚将軍は塵となり天に昇っていった}
{ログ:ゴーレムはLv30に上がった}
大物を倒した事で、信者達のもとから高かったテンションはさらにうなぎのぼりだ。
「すげぇええええ!! ぜぇぜぇ」
「うぷ、さすがじゃあああああ!」
「このま、ま! ゼェゼェ!」
「はぁ、はぁ」
「すすむんじゃああああ!!」
周りのテンションがあまりにも上がりすぎて、我はどんどん冷静になる。なに、これ。ちょっと怖いですよ、皆さん。疲れたなら、走らなくて大丈夫ですよ。我の思いが届くことはなく、御輿とその後に続く者達は勢いをそのままに草原を駆け抜けたのだった。
草原から、彷徨う死体や幽霊達がいなくなって、ようやく信者達は止まってくれた。
「ちゅちゅちゅ……」
(親分、とんでもない事態ですね)
我はこの時初めて、ジスポの言葉に心の底から同意した。
一息ついた信者達は、再び笛や太鼓の音を鳴らしながら聖地へと進み始める。そうだ、我達はこんなところで長いこと休んでいる暇はない。聖地に危機が迫っているのだ。我らは聖地を守るために来たのだから。
我はきりっと表情を引き締め、聖地へと向かう。ゴーレムだから表情は変わらないけどね。
◆
目の前を駆け抜けていくおかしな鬼達に、武器を持って待ち構えていた鬼や冒険者達は目を奪われる。
今まで苦労してなんとか戦線を維持していた相手の黄泉の住人達が、あっけなく消え去っていくのだ。ほとんどの者が目の前の光景を理解できなかった。雄叫びをあげながら突き進む一団に、かすかな狂気すら感じてしまう。
そんな中、いち早く我に返った4人の冒険者がいた。
「お、おい。あの先頭で担がれているのは迷宮都市で会ったメタルゴーレムでは?」
「ええ、あの姿、忘れられようはずがありません」
「なんだよ、あれ!? おかしいだろ!? なんで、一瞬で消し去れるんだよ!!」
「あ、あのゴーレムに見つかる前に、この場を離れませんか?」
メガネの冒険者の言葉に、顔を見合わせる4人。
「……そうだな、行こう」
「ええ、私たちができることはすでにありません」
「見つかったらやっぱり、ただじゃすまないよな」
「あなただったらどうしますか」
「ただじゃおかねぇ」
「それが答えですよ」
黄泉の国の住人を退けるのに力を尽くしていた6つ星の4人の冒険者達がいた。彼らは誰にも知られることなく戦場を後にする。しかし、それをとがめる者も後で文句をいう者も誰もいなかった。むしろ、報酬も受け取らず、去って行った4人の冒険者達に賛辞を送る者の方が多かった。
時を同じくして、シシマルも同じ光景を目にしていた。
とても目の前の光景が信じることができない。決死の覚悟で挑もうとしていた地獄の将軍があっけなく消え去った。刀も槍も、他のどんな攻撃でもあの化け物には通用しなかった。弄ばれるしかなかったあの化け物が一瞬で消え去ったのだ。これは夢なのだろうかと、自分の頬をつねってみると痛みを感じる。夢ではない、現実だ。
さらに信じられなかったのは、おかしな鬼達の先頭に担がれているのが、港で出会った人形だったことだ。最強の冒険者と紹介されたが、とても信じることができなかった。でも、今はその言葉を信じるほかにない。目の前の草原から、すべての黄泉の国の住人がいなくなってしまったのだから。
タタマルが声をかけてくる。
「若、あれは、港で紹介された……」
「ああ、あの人形だ」
「やっぱり、あの銀色の人形が最強の冒険者だったんですねぇ」
ヤサカの声に、シシマルは頷くことしかできなかった。ただただシシマルは目の前で聖地へと運ばれていく銀色の人形を見つめることしかできなかった。
陽気な笛の音と太鼓の音が、今のシシマルには愚かな自分を責めてくる音に聞こえてどうしようもなかった。遠くに離れてもなお、その音はシシマルの胸にひどく突き刺さってきた。
ーー
名前 ゴーレム
種族 メタルゴーレム
Lv 30
ステータス
最大HP:578
最大MP:551
攻撃力:255(+0)
防御力:255(+0)
素早さ:213
頭 脳:209
運 :255
スキル
【ステータス固定】【復元】【覚醒】【悪あがき】【非接触】【バカになる】【水泳】【遠吠え】【通訳】【祈り】【ラインライト】【虐殺】【姿隠し】【ブレス】【バリア】【救済】
称号
【変わらぬモノ】【悟りしモノ】【諦めぬモノ】【愛でるモノ】【煽りしモノ】【人魚のトモダチ】【犬のトモダチ】【声のトモダチ】【死者のトモダチ】【屠りしモノ】【精霊のトモダチ】【竜のトモダチ】【女王の守護者】【信仰されしモノ】
ーー
非表示スキル
【ゴーレムメモリー】
【ゴーレムカメラ】




