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SS第14話 ヒミコ

私はヒミコと呼ばれております。


私は、鬼の国クカノの女王をしております。先代のヒミコ様のもとに多くの豪族がつどい、クカノという国ができました。長引く戦乱に疲れた各地の豪族が、日の巫女であった先代を祭り上げて、矛を収めたというのが正しいのです。そして、これからも日の巫女を務める者がヒミコの名を受け継ぎ、この国を治めていくでしょう。


クカノという国ができてからは、たいした争乱もなく平和な日々を送っておりました。しかし、突如として、現れた黄泉の国の住人たちによって、平和な日々は終わりを迎えました。



1体の黄泉の国の住人が樹海の側で発見されたのが今回の騒動の始まりです。すぐにアンタク和尚に退治の依頼をしました。そのかいもあり、即座に近隣のお寺から数名の和尚様達に集まってもらい、黄泉の国の住人を退治していただきました。


その後、念の為に黄泉の門を確認するために、調査団を送り込みました。しかし、その調査団が黄泉の門まで辿り着くことができませんでした。なぜならば、すでに樹海の中には黄泉の国の住人があふれていたためです。


私はその報告を受け、すぐさま近隣の豪族を総動員し樹海包囲網を敷きました。なんとか黄泉の門へと進軍をさせたいところでしたが、樹海から出てくる黄泉の国の住人を防ぐことで精一杯でした。


樹海そのものを焼き払えという意見も出ましたが、その案を実行することはありませんでした。もしできたとしても、すでに死んでいる黄泉の国の住人たちは、ガイコツになって進んでくるだけです。さらに、火の効かない幽霊もいるため、黄泉の国の住人が進む速度を速めるだけになると判断したからです。


決死隊を募り、黄泉の門へ送り込みましたが、そのすべてが帰ってくることはありませんでした。さらに、樹海の中に押しとどめることで精一杯だった状況で、地獄の将軍の1柱が現れてしまい、樹海包囲網が崩れました。


地獄を統べる大王のもとには13柱の絶大な力を持った将軍がいると伝えられています。その中の1柱が現れてしまったのです。刀も槍も斧も、地獄の将軍には通じませんでした。さらには魔法も祈祷もお経も、地獄の将軍には効きませんでした。


豪族達は、自分の領地に引き返し、なんとか自分たちの領地と領民だけでも守ろうとするので精一杯でした。


地獄の将軍は、私が住む聖地を目指して進軍を開始します。聖地にはこの国を流れる地脈の中心があり、ここを黄泉の国の住人に渡すわけにはいきません。黄泉の住人達の進軍は、進軍と言っても、大変遅い進軍です。黄泉の国の住人が動くのが遅いというのもありますが、なぶりごろしにしつつ進むために、進軍の速度が上がらないのです。地獄の将軍にしてみれば、勝敗のわかりきっている戦いなのでしょう。進軍と言うよりも、黄泉の国の住人を国中にばらまくために行動していたのかもしれません。


最初は避難してくる民も多く、なんとかその避難を受け入れていました。しかし、あまりにも多すぎました。豪族の中には、他の豪族の領地から、自領に逃げ込んできても入らせないようにするところも出始めました。


ここに至って、鬼族だけではどうしようもないと判断し、クカノにもようやくできた冒険者ギルドを通じて、外部に救援要請を出しました。すでに遅すぎるかもしれませんが、救援要請をせず、滅びる訳にもいきません。


鬼族の中には、その決定に不服の者も多いようです。若い者ほど、黄泉の国の住人の恐ろしさを軽く考え、自分たちだけでなんとかできると考えてしまっているのです。


外部から5つ星以上の凄腕の冒険者が、救援に来てくれました。中には軍を派遣してくれた近隣の国もあります。しかし、黄泉の住人達の進撃を遅らせるだけで精一杯でした。とても黄泉の門まで辿り着けません。それでもなお冒険者達が救援に駆けつけてくれるので、一気に攻め込まれることはありませんでした。その中には6つ星の4人組の冒険者もおり、その方達の活躍にはさすがだと若い鬼達も認めておりました。



どんどんと追い詰められていく状況で、ギルドから人でも亜人でもないが、最強の冒険者を送り込むと連絡がありました。その方なら、今の状況でも打破できると断言されました。この状況を打破できるような方が、この世界にいるのかはわかりませんが、私たちはその冒険者の方に一縷の望みをかけることにしました。


ようやく、最強の冒険者が到着されます。ちょうど私が最も信頼している豪族が治める港に到着されるので出迎えを任せました。私は聖地から離れることができません。今か今かと待ちわびていましたが、最強の冒険者が私の前に現れることはありませんでした。到着された冒険者は、小さい人形だったため、出迎えを任せた豪族の息子がぞんざいな対応をしてしまい、冒険者の方が姿を消してしまったとのことでした。


私は、豪族に文句の一つでも言ってやりたい気持ちに駆られましたが、彼自身も眉間に深く皺を刻み、土下座をして謝ってきます。彼も己の息子がそんな愚かな対応をするとは夢にも思っていなかったのでしょう。どうしようもない、それが今の心境です。しかし、あがくしかありません。私は目の前で土下座をし続ける豪族に下がるように伝えました。


最近、民達の間では、銀色の地蔵様が救済するために現れてくださったという噂が、まことしやかに流れ始めたと聞きました。民達の信頼が私たちから離れていっている証拠でしょう。もう民達は、神や仏にすがるしか、希望を見いだせないのです。


そのような状況で、なんとか聖地を守っていたのですが、ついに聖地から数日の距離のところにまで、地獄の将軍が進んできたのです。もう、この聖地が落とされるのも時間の問題です。その時、この島国は生者が住めない場所になるでしょう。


神よ、仏よ、あなた様達がいるならば、どうか我が民をお救いください。

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