第69話 集う鬼達
我はゴーレムなり。
最近、地蔵としてあつかわれつつあるが、我はゴーレムである。
「銀の地蔵様、これで和尚様から頼まれた黄泉への扉を閉めることができましたね」
小坊主が話しかけてくるので、我はうむと頷く。それじゃ、お寺まで帰るかと小坊主を担ごうとする。しかし、小坊主は必死で断ってきた。もう断固拒否という感じだ。
「もう急ぐ必要はないと思いますので、普通に帰りましょう!」
うむぅ、そこまでいうなら仕方が無い。
我は小坊主を担ぐことなく、寺へと帰ることにした。彷徨う死体や幽霊をあの世に送りながら、我らは寺へと向かう。まっすぐに村へと向かっていた我らだが、銀の地蔵の噂を聞きつけた各地の村人たちがどうか我らもお救いくださいと集まってきた。彼らも家族の生活がかかっているため必死に頼み込んでくるのだ。
小坊主に黄泉への扉は閉めたことを和尚に伝えるように頼み、我は各地の村を巡ることにする。
2つめの村で彷徨う死体や幽霊をあの世に送り返し、さあ次に行こうと周りの鬼達を振り返ると、いつのまにか輿が用意されていた。
お祭りで使うような豪華に飾り付けられた御輿ではない。長い2本の棒の上に板を載せ、穴の開いた座布団を敷いただけの簡単な輿だ。どういうことだと首をひねっていると、周りの鬼達が口々に話し出した。
「銀の地蔵様に来ていただくのだ、歩かせるわけにはいかねぇべさ」
「んだんだ!」
「簡単だけど、輿を作ったから、地蔵様乗ってけろ!」
「地蔵様を担いで行くだ!」
「おう!」
「ありがたいことじゃ、ありがたいことじゃ」
つまり、我に乗れということだ。
我は輿と鬼達を交互に見やる。鬼達はみんな期待のまなざしで我を見つめている。どうぞ、どうぞ、遠慮せず乗ってくださいという悪意のかけらもない純粋な瞳だ。こ、これは鬼達の善意を無駄にするわけにもいかぬな。我はそっと輿の上に座る。鬼達は一斉に棒をつかみ、持ち上げる。
「みんな、銀の地蔵様を次の村へとお運びするぞ!」
「おう! 任せるべさ!」
「さすがに、これだけの人数で持つと軽いのぅ」
「ありがたや、ありがたや」
「あたいももちたい!」
「子供にはまだ無理じゃ! その辺で拝んでおくんじゃ!」
「おっし、それじゃ行くべ」
「「「おう!」」」
「えっさ」、「ほいさ」と威勢のいいかけ声で進み出す。ちょ、ちょっとすごい揺れる。パシパシと壊さない程度に輿を叩いて、もっと落ち着いて、となんとか鬼達に伝える。その後は落ち着いて運んでくれた。
◆
我もこの輿での移動に大分慣れてきた。
我の輿を先頭にして、後ろには結構な人数の鬼達が続いている。道端にも我を一目でも見ようと鬼達が立っていることが多くなってきた。
なんという銀の地蔵への期待!
道端で我を拝む鬼達を見て、我はここに座っているだけでいいのだろうかと考える。彼らは彷徨う死体や幽霊により、命の危険を感じていた。そこに突如現れた銀の地蔵に、希望を見いだし祈りを捧げてきているのだ。我はゴーレムだけどね。
彼らは我のファンと言えないこともない。ならばファンサービスが必要だろう。我はあぐらをなんとかかき、右手を挙げ、左手は足の上に置く。そして、後光のラインライトを発生させる。これぞ、銀のゴーレム、いや、銀の地蔵にふさわしいポーズだ。
「あっ、銀の地蔵様が輝かれておるぞ!」
「ありがたや、ありがたや」
「ワシらを哀れまれた地蔵様が、恵みの光を下されたぞ!」
「なんと神々しい……」
「ぴかぴかだねー」
「ああ、あれぞ天上のかがやきなのだろう」
「生きている内に、地蔵様に出会えるとは、あの世のじいさんに自慢できるぞえ」
ふっふっふ、道端のファンたちのざわめきを耳にし、我の行動は間違っていないと確信する。やはり、彼らは救いを求めていたのだ。ならば、我も今だけはその期待に応えようではないか!
◆
我はようやく近くの村の願いをすべてかなえ終えて、お寺へと帰ってきた。
お寺の下では、小坊主たちが出迎えてくれる。小坊主以外の鬼達は、すごい! さすが銀の地蔵様だ! と、興奮しきりだ。だが、小坊主だけが、「なんだ、これ」と遠い目をしていることを我は見逃さなかった。
小坊主、そのような目で見るでない。これには深い理由があるのだ。寺に戻ってくるまでに色々あったのだ!
我の輿は、すでに御輿と言ってもいいくらいの飾りがつけられている。これは鬼の大工が、「地蔵様をこんな粗末な輿に乗せちゃいられねぇ!」と張り切って作ってくれた。
我の御輿を担ぐ鬼達も、「おら達、こんな恰好ではあかん」「んだんだ」「地蔵様に恥ずかしくない恰好をせねば」と言って、背中に文字が書かれたそろいのはっぴのようなものを着て、担ぎ出した。
さらに、周りにいた若い女の鬼達は、「あたいらが笛を吹いて、銀の地蔵様の来訪をみんなに知らせてやろうよ」「いいね、さすがミヨちゃんだ」と、笛を吹きだした。
「ぼくらも何かしたい」という子供達に、大人達は「この花びらを銀の地蔵様の前で、ふりまいて歩くんだ」と、花びらまき隊も結成された。
ファンの鬼達の行動に、我はこのままでいいのか、ちょっと負けてないかと、一抹の不安を覚えた。そうさ、ただまつられているだけではダメなのだ! と我も奮起した。
我は行列に沿うように、手の届かない程度の高さに、きれいに並べたラインライトを発生させる。ふっふっふ、提灯のようだろう。もう周りにいる鬼達がうわーって沸いてくれたわけなのだ。さすが地蔵さまだ、地蔵様の光じゃ、ありがたやありがたやと大騒ぎなのだ! 我はしてやったりと満足する。
さぁ、みんな寺へ進むのだと思ったら、「おい、のぼりを用意しろ!」「わかっただ!」「むらおさ、これに降臨・銀地蔵様と書いてくんろ!」「うむ、任せろ!」「もっと持ってこい!」「あいよ」と、鬼達はのぼりを用意し始める。短い時間に10本も用意された。
う、うむ、中々やるな。
のぼりの下の方の字とはっぴの背中の字が同じだ。この鬼達、銀地蔵様と書かれたはっぴを着ていたようだ。のぼりを用意する間に、太鼓も用意された。祭りの時に使う太鼓ですじゃと良い笑顔で説明してくれる。
ぐぬぬ、我のラインライトの演出がどんどんかすんでいく。おそるべし、鬼族の村人達。
我は最終手段だとばかりに、そのあたりにいる精霊を捕まえる。
なに? なにか用? と聞いてくる精霊達に、ラインライトに順番にくっついて色を変えてとジェスチャーで必死に伝えた。周りの鬼達は、銀の地蔵様が何かをなさろうとしておられると、ゴクリと息をのんで見つめてくる。我はそのまなざしに答えるように、右手をぱっと天高くに掲げる。
さぁ、精霊達よ、今こそ出番だ!
ラジャーというように精霊達は、ぴたっとラインライトにくっついた。するとラインライトが、それぞれの精霊の属性にあった色に変わっていく。火の精霊がくっついたラインライトは赤色に、水の精霊がくっついたラインライトは水色に。すこし時間が経つと、精霊達には横のラインライトに移動してもらう。
鬼達はその光景に、まぁ、と息をのんでいる。少しすると、またも鬼達はうわーっと沸き立ってくれた。さすが地蔵様じゃ、こんな光景今まで見たことない、ありがたやありがたやと大騒ぎだ。
ふっふっふ、そうであろう、そうであろうと、我は満足する。そして、ようやく寺へと進み出す。その後は、我らの行列を見た鬼達が、別の鬼達を呼んでくる。どんどん鬼達が増えてきて、最終的には今の状況になってしまったのだ!
やばい、やり過ぎたかもしれない。そう思った時には、すでにどうしようもなくなっていたのだ。
我のそんな思いとは裏腹に、鬼達の心が我に新たな称号とスキルを与えてくれた。
{称号【信仰されしモノ】を得ました}
{称号【信仰されしモノ】を得たことにより、スキル【救済】を得ました}
うむ、我はそろそろ神に至れるかもしれない。




