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第64話 鬼族の対応

我はゴーレムなり。


いよいよ鬼族の住む島国に到着する。


鬼の国の名はクカノといい、1人の女王のもとに様々な豪族が集まっているらしい。今回はどうにも手に負えない事態が発生したため、やむを得ず外部へと救援依頼を出したそうだ。かなり遅い救援依頼だったため、事態はより深刻になっていると、案内役のギルド職員が教えてくれた。


港に船が着き、久しぶりに陸の上に降り立った。今回は我を送り込むための特別便だ。でも、途中で何人もの冒険者を乗せているので、我一人という訳ではない。


船の上で絡んでくるバカがいるかなと思っていたら、誰も絡んでこなかった。むしろ、我に近寄ってこなかった。迷宮都市はホームって感じだったけど、この船上はアウェーって感じかな。


案内役のギルド職員も一緒に降りてきた。なんでも、我を迎えるために、このあたりを治めている豪族の息子が来ているらしい。領主の息子が来るほどなのか、本当に状況がよろしくないのだろうな。あと我と一緒に船を下りた冒険者たちも一緒に行くらしい。


ギルド職員に、3人の鬼族が話しかけてきた。


1人は少年で額に2本の角がある。腰には刀をさしている。2人目はかなりの大男で頭の前の方に1本の大きな角が生え、手には大きな槍と盾を持っている。3人目は女で、鉄扇を帯に挟み、小さい角が2本額から生えている。どうやらこの3人がここから案内してくれるらしい。


ギルド職員が我に3人を紹介してくれた。少年はシシマル、大男はタタマル、女はヤサカというそうだ。3人は我を値踏みするような目で見てくる。大男が「やはりギルドはワシらの救援依頼にまともな冒険者をよこす気はないようですな」と不満げに言い、「これはヒミコ様が決められたことだ。仕方あるまい」と少年が答える。「お二人とも口を慎みなさい」と見かねた女がたしなめた。


ギルド職員は、我の様子を気にしつつ、「銀色のゴーレムさんが最も強い冒険者だ。これ以上の冒険者はいない」と必死に伝えていたが、3人の鬼族はもちろんのこと、周りにいる冒険者も含めて、誰も信じていないようだった。


やはり、我の愛らしいボディでは、威厳というものがないのかもしれない。ぴかぴかだしな。



今日は長旅の疲れを癒やすためにシシマルの館の一つに泊まり、明日、女王であるヒミコのもとへと向かうことになった。馬にでも乗っていくのかと思ったが徒歩で行くらしい。


日が暮れる前には館に辿り着いたのだが、我はなぜか館の外で一人ぽつんと立っている。門番達が我を中へ入れなかったのだ。


鬼族の3人も他の冒険者もそれが当たり前という感じで、みんな中に入っていった。我も中に入れてよとアピールするが、ダメだの一点張りである。


はぁ、ギルド職員よ、あなたの説明は彼らに届いていなかったよ。一応、迷宮都市でおっさんに頼まれたから来たのに、この対応とはひどいのではないだろうか。魔物というのはどこでも似たような対応をされるのだと実感する。


我はまだお金をもらっているわけではないし、鬼族がそのような対応をしてくるのならば仕方あるまい。我は好きに行動していくことにしよう。



我は少ししょんぼりしつつ道にそって進む。すでに日が暮れているから、あたりは月の光ですこし照らされているだけだ。途中、どんぐりがたくさん落ちていた。ジスポ用の餌にするためにせっせと拾ってポーチに入れたから、ポーチがパンパンになった。


「ちゅちゅ」

(多い、多いですよ、親分)


と、ジスポがドングリに圧迫されながら、我に思いを伝えてくる。でも、かりかりかりとドングリをかじり続けているから、説得力はない。



少し歩いて行くと前方にゆらゆらと飛ぶ火の玉が出現した。幽霊だっているファンタジーな世界だからな、火の玉くらいは珍しくもない。我は気にせず先へと進む。周りには火の玉が少しずつ増えてきている。


これは、ひょっとして、我の進む道が暗いから照らしてくれるために集まっているのかもしれない。我は暗闇でも問題なく見えるんだけど、火の玉の心遣いはうれしいね。先ほどの対応に、すこししょんぼりしていた我はちょっとうれしくなり、スキップをしつつ先へと進んだ。



道の分岐点にさしかかった。立て札があるが当然読めない。こんな時は棒の出番だ。我はないわーポーチから棒を取り出し、道の中央で棒をそっと立てる。これで棒が倒れた方向へと進むことにしよう。



「ちゅちゅちゅ?」

(親分、いつまでここで立ち止まってるんですか?)


うむ、我も先へ進みたいのだが、いつまで経っても棒が倒れないのだ。ここまで絶妙に立つとは。たまに自分が怖くなるね。そんな事を考えていたら、風が吹いて棒が左に倒れた。棒の導きに従って左へ行くことにする。


我は火の玉と共に道を歩いて行く。しばらく進むと村が見えてきた。我は久しぶりに【姿隠し】を発動する。すると火の玉は我を探すかのようにふらふらと彷徨い、その後、どこかに消えていった。ありがとう、火の玉、君たちの協力は忘れないからな。


村の中に入ってみても、人気がない。火を焚いている家もない。うーん、息を殺して隠れているって感じはするね。やはり、この国では何かが起こっているのだろうなと思い、我は村を後にした。




火の玉が大量に現れた村では、翌日村長の屋敷に村の男達が集まった。


「村長、とうとうこの村にも火の玉が現れてしまいましたね」

「あぁ、領主様達になんとかしてもらいたいが、噂を聞く限り難しそうじゃな」

「でも、救援要請を出して余所者にも頼っているのでしょ? なんとかなるのでは?」

「相手が普通ならばな。こたびの騒動は黄泉への扉が開かれたのが原因じゃとささやかれておる。黄泉の国の者を相手にワシらにどこまでのことができるじゃろうて」

「黄泉の国の者、ですか?」

「ああ、死霊や悪霊じゃ。実体を持つ者もおれば、持たぬ者もおる。そして、斬っても斬っても起き上がってくる。難儀な相手じゃ」

「それじゃ、おら達はどうすればいいんで?」

「どうしようもないわ。神か仏にでも祈ることじゃな」


そして、忌々しそうに村長は呟く。


「この混乱に乗じて、山の領主がまた支配地を拡げようと動いておる。その備えもしておかねばならん。皆、すぐに逃げ出せる準備だけはしておくのじゃぞ」

「おう」「わかっただ」「うんだ」「合点だべ」


村の男達は思い思いに返事をして、自分の家へと戻っていった。

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