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第63話 さらば迷宮都市

我は思った。


今の我は単なるユーザーだ。せっかくいろいろな迷宮があるのだから、我も迷宮を作っても良いんじゃなかろうか、と。深い迷宮を作ると大変だから、地下3階くらいの簡単な迷宮を作ろう。


思いついたら、即実行だ。すぐにやるのだ。我は最初に潜った初心者用の迷宮があった場所へと訪れた。そしてラインライトでせっせと穴を掘っていく。やっぱり、以前の迷宮は跡形もなく、消え去っている。本当に何があったのだろうか。


地上1階は地下への階段と像があるだけだ。階段の前には街で買ったレンガで、大きいゴーレムを積み上げた。


ふっふっふ、ここはきっとゴーレムの迷宮と呼ばれるようになるのだ! レンガは川に浸けて水を吸わせた後、モルタルでレンガとレンガを固定させた。だけど、触られたらすぐ崩れそうだ。まぁ、崩れたら仕方ない。


地下1階は単なる迷路。気の向くままに道を掘った。正直、我自身もよくわからない。帰るときに迷った。創作者の我をも惑わすとは……。おそるべき迷宮に仕上がってしまった。ただ我の作った迷宮には魔物も出ないし、宝箱もないので、来場客が来るのかが不明だ。宝箱を自分で用意するべきだろうか。


地下2階を掘っているとわき水が出た。これが自然の脅威。そんなことを思いながら、掘り進める。崩落してきたので、急いで地下1階へと脱出する。我だけなら、あちゃーっで済むのだが、今はジスポがないわーポーチに入っているので、念のためにも脱出した。埋められるわけにはいかないのだ。ないわーポーチを開けたら、中身が血まみれだったでは困るからね。


本当は地下3階までの迷宮を作りたかったんだけど、大自然が行く手を阻む。我は【諦めぬモノ】だが、それは引き際を知らぬという訳ではないのだ。


ゴーレムの迷宮は地下1階の迷路までで完成ということにしておこう。それにしても迷宮をつくるというのは実に面倒くさい。不思議パワーが働いていなければ、作成も運営も非常に大変だということがわかった。我には向いていない仕事だ。


我はユーザーのままでいいやと思い、自作のゴーレムの迷宮を後にする。





我の左手首からリストバンドが消えていた。あのメガネの魔法で焼けてしまったか。でも、今の我ってこの街の住人に、ゴーレムさんで受け入れられていると思うのだ。


リストバンドなんて無くてもいいか。うん。邪魔ではなかったし、たまに役に立ったけど、無いままでいいや。我はよけいなものは持たない主義なのだ。




6つ星冒険者に絡まれてから2週間くらいが経ったある日、ギルドからまた呼び出しがあった。まったく、たびたびの呼び出しだ。きちんと事前にアポを取っておいてもらいたい。我もそんなに暇ではないのだよ!


たまに空いた時間には、昔を振り返って心のシャッターを切ったりしているんだからね!


新たに我がメモリーに刻まれた写真はなかなか多い。ふっふっふ、フォトグラファー・ゴーレムと呼ばれても良いくらいだ。メモリーに刻んだ写真は11枚。あれ、けっこう少ないかも。いやいや、それはデジカメ世代だからそう思うだけだ。11枚と言えば結構な枚数だ!


光の女王、メイドの空回り、イチャコとバカ王子、ヤマタノオオドラゴーン、ヒカルの見せ場(倒せてない)、襲い来るモジャオ、うなだれるおっさん、悪魔と天使(オカンと娘)、キャモメとジスポの友情、ちょびひげの隠し芸、魔剣の女は泣き上戸の全11枚。


ちなみにちょびひげの隠し芸はすごかった。言葉で表現するのは難しいけど、実にすごかった!



ギルドにつくとおっさんの部屋に通される。今日はおっさんだけみたいだ。我の審査に来た5人の冒険者たちはあの日以来見ていない。もう街を出たんだろう。


「この間はすまなかった」と開口一番謝ってくる。もう何度も謝られている。我はあのことを引きずっていないので、延々と繰り返される謝罪は不要なのだ。もう何度目かわからないが気にするなというジェスチャーをする。はやく用件を言って欲しい。


「ようやく、お前さんを冒険者にする用意が整った。お前さん用の特別なダンジョンカードが届いたからな、それを渡したくて今日は来てもらったんだよ」


なんと!? 我が冒険者になるという話はなくなったものとばかり思っていたが、水面下では進んでいたのか。我はもらえるものはもらうよ!


「本当は登録するときにお前さんを鑑定石で鑑定しようと思っていたんだが、それもいらなくなった。特別扱いってことで納得してくれ」


よくわからないが、とりあえず我はうむと頷く。おっさんは一枚の黒いカードを渡してきた。そのカードには星がない。特別扱いとはいえ、やはり星は無いか。ひとつひとつ星をゲットしていくしかないな。そっちの方がおもしろいかと我はどうやって星を稼ぐかを考え込む。


「これはな、ブラックカードと言って、今まで誰にも発行されたことがないカードだ。夜空にはすべてを飲み込む黒い穴があるらしい。このカードはそれにちなんで作られた。つまりは、全てを飲み干す絶対強者の証ってことだ。まさか、発行することになるとは思わなかったけどな」


ううーむ、どうすれば星を稼いでいけるだろう。最速で7つ星まで獲得してみたい。「あれが最速で7つ星まで駆け上がった期待の新星だぜ」と言われてみたい。やはり、ダンジョンを攻略していくしかないのだろうな。それが一番手っ取り早いだろう。


話を聞いてなかった我に、おっさんは注意をしてきた。


「おい、俺の話を聞いてたか? このカードは特別だから、星なんてつかないからな。がんばって星を稼ごうなんて勘違いをしないでくれよ!」


な、なんだと!? 星がつかないのかよ!? 我はそんな特別扱いいらないから、他の冒険者と一緒のようにしてほしいとアピールする。でも、無理だ無理だとおっさんはノーと言い続ける。ギルドに属しているヤツらは頑なだからな、こうなってしまっては断固としてノーと言い続けるだろう。ぐぬぬぬぬと思いつつ、我はブラックカードをないわーポーチに入れて、ギルドを後にした。


ジスポにはブラックカードを食べるなよと、むぎゅっとして念を押すことも忘れない。


こうして我は星無しのブラックカードを手に入れ、晴れて冒険者になったのだった。しかし、この日から「ブラックのゴーレムさんだ」と呼ばれることが多くなり、ブラック企業みたいで、なんだかなぁと思っている。



最近は、変わることなく迷宮に潜る日々を過ごしている。特別なことはないが、充実していると言えば充実した毎日だ。



一度だけ門番がいない迷宮に潜ったのだけどやばかった。あの迷宮だけは本当にやばかった。



地下1階に降りる階段の先が真っ暗で見えない。ジスポはすでにその階段を見た瞬間に全身の毛が逆立っていた。このまま一緒に進んだら、死ぬんじゃねと思うくらいに、ジスポの鼓動がばっくんばっくんしていたので、ジスポにはこのあたりで隠れておくように伝え、我だけで先へと進む。


我はゴーレムだから、何の問題もないけど、地下1階への階段には、多分、空気がなかったのではないかと思う。さすが迷宮と感心する。地下1階は広大な四角い部屋だった。ヒカルと一緒に邪竜と対峙した空間と同じぐらいの広さだ。奥の壁には多くの扉がある。


その部屋の中央には1体の真っ黒いゴムのような人型の何かがいた。


「ココハ様々ナ過去ヘト続ク道。一度進メバ帰ッテコラレヌ一本道」


いきなり、何かをしゃべり出した。過去へと続く道ってどういうことだろう。


「過去ニ戻リテ歴史ヲ変エタクバ我ヲ倒シテ進ムホカナシ」


そう言って、いきなりバチバチとした光をまとった黒い光線を放ってきた。黒いのに光線とはどうなんだろうと思いつつ、右手で受け止める。


すると我の右腕が消え去った。


!? は、はぁ!? マジか!? あの攻撃に触れると我の身体でも消え去るのかよ!! と、ゴーレム人生で初めて命の危機を感じる! どうする、どうする、と相手を見ながら考える。続けざまに放たれる黒い光線はすべてかわす。ないわーポーチだけはなぜか光線に当たらない。光線すらねじ曲がっていく。くそ。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}


くそ、片腕がないとバランスがとりづらいな。我はもう一度右腕があった場所を見る。そこにはいつもとかわらぬ右腕があった。


あっ、あった。復活している。 あっ、そうか復元か!? 我自身には自動で復元が働くのだろう。たまに黒い光線がかすって我の身体が欠けてもすぐに元通りになった。


ふっふっふ、さすがは我がメタルボディ。なんとかなるじゃないか。どの程度まで消えても大丈夫なのか興味はあるけど、試してみる気持ちはない。


我は全力のラインライトを黒いゴムの人型に向けて放つ。もうヒトガタと呼ぼう。チュドンとヒトガタを消し去り、奥の壁にぶつかる。ラインライトがぶつかった奥の壁は無傷だ。頑丈だな。


いつもなら世界の声が与えたダメージとかを教えてくれるけど、今回はない。どういうことだ? 我は、危なかったと思いつつドアの方へ進もうとすると、前方にまたヒトガタが現れた。今度は二体だ。


「我ヲ消シ去ルトハ此度ノ訪問者ハ今マデノ者達トハ違ウヨウダ」

「我ハ時ノ番人。何人ニモ我ハ倒セヌ」


そして2体のヒトガタが我に攻撃を繰り出してくる。我はヒトガタの攻撃をかわし、懐に入り込み全力で殴りつける。続けてもう一体は蹴り飛ばす。壁際まで吹き飛んだが、すぐさま2体とも攻撃を繰り出してくる。物理攻撃ではだめなのか。


我は再び全力のラインライトでヒトガタ2体を消し去った。


やれやれ、恐ろしい敵もいたものだと先へ進もうとするも、すでに前方にはヒトガタが現れている。今度は3体だ。


「恐ルベキ訪問者ガイタモノダ」

「我ヲ2度モ退ケルトハ」

「ダガ我ハ時ノ番人。何人ニモ我ハ倒セヌ」


うーん、ひょっとしてこいつらは、無限に増えていくのだろうか。いや、そんなバカな存在がいてはたまらないぞ。我は全力のラインライトで3体のヒトガタをまとめて消し飛ばす。


悪い考えは現実になるようだ。4体のヒトガタがすぐさま現れた。


「ナントイウパワー」

「恐ルベキ敵ナリ」

「我ヲ3度モ退ケタ」

「ダガ我ハ時ノ番人。何人ニモ我ハ倒セヌ」



その後、我はヒトガタを倒し続ける。相手の黒い光線を食らうわけにはいけないので、なんとかかわしつつ、こちらもラインライトで応戦する。100体まで増えたヒトガタと向かい合う。もう、ちょっと帰りたい。過去とか言ってたけど、別に過去に帰りたいと思ってないし。


我は、右手をさっと上げる。なんだ? 、とヒトガタが行動を止めてくれた。我はもう帰っていいでしょうかとジェスチャーでヒトガタに質問をする。


「帰リタイトイウノカ。……ヨカロウ。帰ルガヨイ」


100体のヒトガタは1体だけを残してすーっと消えていく。


「オ前ガ初メテノ帰還者ダ」


おお、我が初めてだったか。ちなみに過去に戻れた者はいるのかと身振りで尋ねると、「誰モイナイ」とただ一言告げられただけだった。我はヒトガタを警戒しつつ、もと来た道を引き返す。


我が階段を上りきると、ジスポが物陰から飛び出してきた。


「ちゅちゅちゅ!?」

(親分、3日間も潜ってましたが、何かあったのですか?)


そうか、我は3日も戦い続けていたのか。ゴーレムになって初めて死ぬかと思った。もう、ここには来ないでおこう。我は死にかけたとだけジェスチャーで伝えたが、ジスポはご冗談をと信じていない様子だ。



そんなある日、ギルドからまた呼び出しがかかった。もうって思いつつギルドへ向かう。


なんでも鬼族が住む島国で何かが起こっているらしい。他種族とあまり交流を持たない鬼達が、相当な危機に陥って救援要請を出したきたそうなのだ。5つ星以上の冒険者を送り込んでいるが、事態は思わしくないそうだ。そのため、我に鬼族が住む島国に向かってくれないかということだった。


迷宮都市は十分楽しんだ。我はOKと軽く頷き、ギルドの手配した移動手段ですぐさま街から旅立つことになった。旅立ちは急だったが、思いの外、大勢の者達が見送りに来てくれた。


「ご、ゴーレムさん! いつかまた帰ってきてください!!」

「ゴーレムさん、あんたから受けた恩は忘れないから!」

「ごーれむちゃん! げんきでねー!!」

「ゴーレムさん、あたいもきっとあんたみたいなイカした冒険者になってみせるよ!」


我は大きく手を振る。ジスポもひょっこり顔を出して手を振っている。この光景が我の迷宮都市での成果ということだな。我は目の前の光景をしっかり心に焼き付け、迷宮都市を後にした。


{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。さらば迷宮都市を記録した}


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[良い点] ジスポついてくるんですねえ、かわいい ちょっとは強くなれたかな?いや、食っちゃ寝してるから変わってないかな……でも魔石とか沢山食べてますもんね 未到達の迷宮?雰囲気が怖いですねえ 終わり…
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