SS第13話 ガモンガスの憂鬱
俺はガモンガス。
深く霧に包まれた大陸ジョーイサにある迷宮都市のひとつクワードロスにある冒険者ギルドのギルドマスターをしている。
今まではたいした問題もなく、このギルドの運営ができていた。だが、銀色のゴーレム、いや、あれは俺にとっては悪魔だ。銀色の悪魔がこの迷宮都市にやってきたことで、俺の平穏は終わりを迎えた。
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銀色のゴーレムは突然ギルドにやってきて騒ぎを起こした。騒ぎの内容と、ザイカルタにいたかっていう質問の反応を見て、以前連絡のあったゴーレムだとピンと来た。こういう時の俺の勘はなかなかさえている。
最初はあの野郎は適当にぶらぶらしたら、すぐに出て行くだろうと思って、キャモメに金をちらつかせてサポートを任せた。キャモメは金が大好きだから、すぐに飛びつくことはわかっていたからな。キャモメは念のためと言いつつ契約書を作ってくる念の入れようだ。
俺はキャモメはチョロいなとほくそ笑んでいたが、これが俺の胃に大ダメージを与える判断になろうとは、この時は夢にも思わなかった。
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それから、あの悪魔はぷっつりと姿を見せなくなった。最後に見たという報告は、上級者用のダンジョンの入り口に来たから初心者用のダンジョンに行くように伝えたというものだった。ダンジョンでやられたってことは無いだろう。多分、ダンジョンに飽きてこの都市を出て行ったんだろうな。
キャモメが「ゴーレムさん来ないですね。心配ですね」と言っていた。コイツはゴーレムじゃなく、お金が手に入らないことを心配しているのだと思う。貼り紙まで作ってサポートしているようだから、「そうだな」とだけ答えておいた。
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1ヶ月近く経ち、俺はゴーレムのことを完全に忘れていた。
ギルドの中にキャモメの叫び声がコダマした。なんかあったのかと思っていたら、キャモメと査定係が2人で俺の部屋に飛び込んできた。
「ノックぐらいしろよ」
と文句を言いつつ、2人の様子を見る。
「こ、こ、これを見てください」
とキャモメがおそるおそる赤く輝く宝玉を俺の机の上に置いた。俺は目の前にあるような宝玉を今までに見たことがない。なんという圧倒的なオーラを醸し出している宝玉なんだ。
「まさか、伝説級のアイテムか?」
と尋ねると、査定係が質問に答える。
「おそらくはその通りです。支払い金額は星金貨21枚です」
「星金貨21枚!? まぁ、それくらいするか。伝説級だしな」
「ギルドマスター、支払い金額が21枚なので、査定金額は星金貨30枚ですよ」
「なっ、査定金額が30枚!? 星金貨21枚を一度に払ったら大事じゃねぇか! ま、まぁ、その持ってきた冒険者に、ギルドの口座にそのまま預けてもらうように頼み込むしかねぇな」
俺がどうやって冒険者にそのまま金を預けてもらおうかと考えを巡らせていると、キャモメが「それは無理です」と言ってきやがった。査定係は仕事があるからと部屋を出て行く。
「無理ってどういうことだ? 冒険者が今すぐ現金でよこせって言ってるのか?」
「ふっふっふ、これを持ってきたのがゴーレムさんだからですよ!」
「はぁ!? あのやろう、まだこの都市にいたのか!? ゴーレムは冒険者じゃないから口座がないってことだな。まずいな。運用資金がかつかつになる、どうすっかな。ちなみに、どこで手に入れたか聞いたか?」
「ええ、ゴーレムさんは1ヶ月ほど初心者用ダンジョンに潜って手に入れたとアピールしてました」
「初心者用ダンジョン? 違うだろ。とりあえず、ゴーレムに直接聞いてみるから、ここに案内してくれ」
「はい、わかりました!」
えらく元気にキャモメが出て行ったな。それにしても星金貨21枚の支払いか、きついな。こんな事なら適当な理由をつけてゴーレムを冒険者にしておいた方がよかったかもしれん。
ゴーレムが入ってきて、どの迷宮にはいったのか聞いたら、絶望の迷宮に潜っていたらしい。
信じられん、何やってんだこのゴーレム。
結界があって限られた者しか出入りができないのに……なんて非常識なヤツなんだと思ったが、このゴーレムの行動力は俺の想像の範囲を超えていた。
何階まで潜ったのか聞いたら、キャモメが冗談で言った700階に、そうだと答えやがった。700階なんて階層があるのかよ。絶望の迷宮は1000年近くあるらしいが50階層以降に到達した者がいないんだぜ。1ヶ月で700階、1日平均23階層以上潜り続けたって事か? 何を求めてんだ、こいつ。
ゴーレムの非常識さに俺の頭がパンクしている横で、キャモメがゴーレムに買い取り金額を伝え、褒め称えている。俺はようやく現実にもどり、なんとかゴーレムに絶望の迷宮にはもう潜らないように頼み込んだ。こんなアイテムばかり持ってこられたら、このギルドの運営がなりたたん。キャモメは、なんでこのゴーレムに様なんてつけてんだ?
ゴーレムは軽く頷き、出て行った。案外、ものわかりがいいやつで助かった。でも、星金貨21枚の支払いはきついな。なんとかなるかな。俺が思案にくれていると、キャモメが一枚の紙を持って入ってきた。
思い出した!!
そうだ、俺はなんて約束をしちまったんだ!! ゴーレムが持ってきたアイテムの金額に応じて、キャモメにも金が入る約束をしちまったんだ! 契約書まで作ってるから、反故にすることもできない。だから、キャモメのやつ、いやに元気だったんだ! そりゃ、ゴーレムに様付けしたくもなるわな!!
キャモメにその契約はなしにしてくれないかと伝える間も無く、振り込みだけお願いしますねと言われ逃げられた。この日から2日寝込んでしまった。
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なんとか気力を振り絞り、キャモメにも延々と頼み込み、伝説級のアイテム分だけ契約書の通りに金を支払うことで納得してもらう。伝説級のアイテムの取り分だけで星金貨6枚だからな、正直、納得してもらわなかったら、俺はキャモメを殺していたかもしれん。俺はそこまで追い込まれていた。
俺の後頭部の髪の毛が丸く抜けてしまったくらいだからな。くそ。
さらに今後の買い取りについてはキャモメの取り分はなしにした。正直、このギルドが回らなくなる。ちなみに、支払いも伝説級のアイテムを売り払って金ができるまで待ってもらうことになった。これで運営のメドがたった。他のギルドにも頭をさげて、金をなんとか工面したからな。
犯罪に手を染めないで本当によかった。
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あのゴーレムが何で絶望の迷宮に入れたのか調査するために、迷宮へ訪れると何もなくなっていた。文字通り跡形もなく消えていたのだ。
勘弁してくれ……。
あのゴーレムは迷宮を攻略してしまったのか? いや、迷宮を攻略しても、迷宮がなくなることなんてない。いったい何をしやがったんだ。
各国のギルドに連絡しないといけないが、信じてくれるだろうか。
あと、ゴーレムに冒険者登録を特例でさせることを認めさせよう。あのゴーレムを放置してはダメだ。行動を監視するためにも冒険者に登録してしまう必要がある。
あー、でも、本部にいるあいつが納得しないだろうな。下手したら、この都市に来てゴーレムとやり合うとかいいかねん。
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ゴーレムの冒険者登録をすることの許可が下りない。もう勝手に発行するか?
ゴーレムは完全にこの都市に居着いてやがる。そして、この都市の住人や冒険者たちに受け入れられつつあるのが、なぜか腹立たしい。どいつもこいつも、最近はゴーレムさん、ゴーレムさんとうるさいんだ。
「ゴーレムさんを慕う会」まであると聞いて、俺には乾いた笑いしか出てこなかった。
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ゴーレムが冒険者登録をすることを審査するために、本部からあいつがこの迷宮都市に来るらしい。許可だけ出せばいいのに、わざわざ来て揉め事を起こすなよな。ゴーレムだけで、俺の胃は限界なんだよ。
どっかのギルドと勤務地を交代させてくれないかな、ほんとに。