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第60話 主従関係

我はゴーレムなり。


休むことなく我は迷宮に潜ることにした働き者のゴーレムである。本当は宿屋にでも泊まっちゃうかなんて思ってたけど、星金貨しか持っていなかったので迷宮に潜って一稼ぎすることにした。


星金貨を両替してもよかったけど、あんまりジャラジャラと硬貨を持ちたくなかったので、両替はしなかった。無尽蔵にはいる道具入れが欲しいところだが、魔法の道具を我が装備すると消えてしまうから無理だろうなぁ。


我は以前入るのを断られた迷宮の入り口へと到着し、ギルド職員に入るねって片手をあげて挨拶をする。ギルドのおっさんが話を通してくれていたのだろう、ギルド職員から止められることはなかった。


迷宮内へと入ってみると、結構いろんな冒険者達がいる。みんなパーティーを組んで楽しそう。


罠とかに気を付けながら進んでいる冒険者達の姿を見ていると、実に参考になる。あれが冒険者の姿なのだ。やっぱり、罠にかかると危ないからな。


カチ。ビュン、カッ、ポト。


ほらね、気にしないで歩いていたらこういうスイッチを踏んでしまうのだ。今回は矢が飛んできた。我じゃなかったらケガをしていたよ。まったく。


せっかくなのでこの短めの矢は拾っておく。売れるかもしれないからな。矢を入れておいたら、ないわーポーチに穴があかないかと少し期待したが、さすがは呪いの一品。そんなにヤワじゃなかった。





我はてくてくと迷宮の奥へと進む、迷宮で出てくる魔物達をパシッと叩いてやっつける。


{ログ:ゴーレムはワルイドキャットに150のダメージを与えた}

{ログ:ワルイドキャットは息絶えた}


我が潜っていた初心者用のダンジョンより、このダンジョンで出てくる敵は弱い気がする。我からすると大差はないのでどうでもいいや。


我が倒したワルイドキャットは光となって消えていく。ドロップアイテムを落とすこともたまにあるが、本当にたまにだ。あっ、今回はちっちゃい石が落ちた。我はちっちゃい石をないわーポーチに放り込み先へと進む。


この迷宮内の魔物は何か食べ物を食べているのかね。たまにワルイドキャットが小さいもふもふした何かを襲って捕食している気がする。魔物同士だと倒しても身体が消えなかったりするのだろうか。




他の冒険者達を観察しつつ、我は10階までやってきた。我以外はみんなパーティーを組んでいて実に楽しそうだ。キャーキャーとか、ワァーとか、グワとか、俺が斬りかかるとか、実にパーティープレイを楽しんでいる。ちょっとうらやましいぜ!


我も『我がくいとめているうちに攻撃を集中させるんだ!』『横に飛べ! 我がラインライトで撃ち抜いてやる!』『我の事はいい、お前達だけでも撤退するんだ!』とパーティープレイを楽しんでみたいものだ。しゃべれないから、ハードルが高いけど。


おっと、そんな事を考えていたら、ボス部屋に到着した。


うむ、ここも初心者用ダンジョンと同じで、別にボスを倒さなくても先へ進めるみたいだ。ボスとはすでに他の冒険者が戦っているから、手出しはできない。人間だった頃に、どこかで見たけど、マナー違反とかなんとかで、あまりよろしくない行為だった気がする。


我はボスと楽しそうに戦っている冒険者たちの邪魔をしないように壁際を通り、階段を目指す。


「くっ」

「今回のボスは強いぞ」

「あぁ、色が違うからな!」

「きゃあ」

「メリッサ! グワァ」

「バカ野郎、よそ見をするな!」

「ガザリ! 一旦退こう! 無理をするべきじゃない!」

「わかってるよ! だが、コイツが見逃してくれないだろ! チッ」

「ガザリ!!」

「メリッサ達を連れてさっさと部屋の外にいけ!!」

「くっ、スマン」


我は階段へと向かいながら、実に冒険者してるなと感心する。危なくなったら、無理をせず撤退。これは大事なことだ。一つしかない命。死んだらそこでおしまいだからね。


でも、あのスキンヘッドの冒険者一人だと、危なそうだ。俺が時間を稼ぐから、お前達だけでも逃げろっていうピンチなシーンみたいだ。キンという音と共に、スキンヘッドの剣が飛ばされてしまった。うーん、マナー違反になるかもしれないけど、助けとくか。別に誰かに怒られてもいいしね。


ボスモンスターがスキンヘッドへ向かって腕を振り下ろそうとしている。我はラインライトを背中に発生させながら、その間に入り込んで、腕を弾く。どう、ちょっとかっこよかったと、スキンヘッドをチラ見する。防御態勢になっていたスキンヘッドは突然の我の登場に驚いている。ふっふっふ、驚いてくれていいんだぜ。


「えっ、銀色のゴーレム?」


我はスキンヘッドを無視して、ボスモンスターに攻撃をする。


パシ!

{ログ:ゴーレムはオレンジワルイドパンサーに200のダメージを与えた}

{ログ:オレンジワルイドパンサーは息絶えた}


ボスモンスターは光となって消えていき、その場には小さい石が落ちた。我は小さい石を拾うと、スキンヘッドに渡そうとする。スキンヘッドは呆然として、「えっ、えっ?」と混乱しているようだ。落ち着けとジェスチャーで示すとようやくスキンヘッドが我に声をかけてきた。


「す、すまねぇ。銀色のゴーレム。助かった」


我はうむと頷き、小さい石を受け取れと催促する。


「いや、助けてもらった上に、この魔石までもらうことはできねぇ。それはあんたが持って行ってくれ」


スキンヘッドがそういうならば、我がもらっておくことにしよう。我はないわーポーチに小さい石を放り込み、スキンヘッドにじゃあなと手を上げて下への階段を下りていった。




うーむ、なんか視線を感じる。この感覚は誰かが我を見つめているのだと思う。でも、周囲を見回しても誰もいないしな。気にしても仕方が無い。先に進もう。




13階まで降りると魔剣を持っていた冒険者ファイーナとそのパーティーがいた。我に気づいたファイーナが「あっ」と声を上げて近寄ってくる。


ひょっとして、魔剣を折ったことをまだ怒っているのだろうか。でも、元通りに直したから、文句はないと思うんだけど。


ハッ!


もしかして、迷宮内なのをいいことに我を闇討ちしようというのだろうか!! いいだろう。かかってこい! 返り討ちにしてくれるわ!!


とファイティングポーズを取ったら、ファイーナは我の前に来ると頭を下げた。えっ、なに? とちょっとドキドキする。かかってくるのではないのか!?


「ゴーレムさん、この間はごめんなさい。いきなり斬りかかったのは私なのに、魔剣を元通りにしてもらって本当に助かった。ありがとう」


ああ、お礼を言いたかったのね。気にするなと、我はゆっくりと頷く。ファイーナが握手を求めてきたので、その手を握り返す。じゃあねと手を振って我は迷宮の奥へと進んでいく。


ファイーナからまだ見えるくらいの位置で、なんかでっかい斧を持った馬の頭の魔物が襲いかかってきた。我は斧をさっとかわし、馬の頭の魔物に一撃をくらわせる。


ドン!

{ログ:ゴーレムは彷徨う迷宮の狩人マウーマに200のダメージを与えた}

{ログ:彷徨う迷宮の狩人マウーマは息絶えた}



馬の頭の魔物は光となって消えていき、緑の葉っぱに包まれた馬肉が後には残された。えっ、馬肉なんていらないぞ。てっきり、でっかい斧が残るのかと思って期待したのに、斧は消えてしまった。


馬肉を拾い上げ、ないわーポーチに入れようかと迷うが、我は食べられないし、ないわーポーチに生肉の匂いがついてもイヤだし。どうしよう。おいていくか?


我はファイーナと別れた方を見ると、彼女たちはまだ見える範囲にいた。うむ、置いておくくらいならファイーナにあげておこう。我はファイーナのもとまで戻り、えっ、えっ、もらえないよといやがる彼女に無理矢理押しつけて先へ進んだ。


追いかけてこられて、突き返されても困るから、その場からはダッシュで離れる。


離れることに必死で、途中で、落とし穴に落ちてしまった。やはり迷宮は危険だな。ちょっと気を抜くとすぐに命の危険が迫る。本当に何があるかわからないぜ。


落ちた先には魔物がうじゃうじゃいた。他の冒険者たちはいないようだったので、一匹ずつ叩いて倒すのは時間がかかりそうだと思い、ラインライトで一掃する。


その後、ちっちゃい石や爪や牙などのドロップアイテムをこつこつと拾い集めるのに苦労した。まるで、ひとり落穂拾いだ。近づいてきたところをパシッと叩いた方が拾う手間がかからなかったとちょっと後悔した。



さすが上級者用ダンジョン。宝箱が普通にある。初心者用ダンジョンとは違うね! おし、開けてみよう。


どぉおん!


そうか、宝箱は開けると爆発することもあるのか。さすがだね。冒険者達を殺しに来ているな!




さて、とうとう20階だ。次のボスを我が倒すことができたら、そこで引き返そう。初心者用ダンジョンと同じ失敗はしないのだ。


幸いな事にボスに挑戦している冒険者はいない。


この階層のボスは狼で、その群れと一緒に襲いかかってくるようだ。うぉおおおーんとボスが叫び、見事な連携で我に襲いかかってくる。なかなかやるではないか!


しかし、侮るなよ! お前達が群れで攻めてくるように、我にも群れを相手にする方法があるのだ!


くらえ!


我は両手を大きく広げてラインライトをすべての狼に向けて発射する! チュイン、チュインとラインライトがすべての狼の眉間を撃ち抜く。一斉に倒れる狼たち。


我がラインライトに打ち抜けぬものなどないわ、とかっこよくポーズをとる!


{ログ:ゴーレムはキングホワイトハンティングウルフに180のダメージを与えた}

{ログ:キングホワイトハンティングウルフは息絶えた}

{ログ:ゴーレムはハンティングウルフ達に平均200のダメージを与えた}

{ログ:ハンティングウルフ達は息絶えた}

{ログ:ゴーレムはLv29に上がった}


おお、レベルアップした。久しぶりだな。でも、レベルの数字が上がるだけだから、たいした感動はない。



あああ、しまった!!


さっき、コツコツ拾い集めるのが大変だったから、パシッと叩こうと思ってたのに。なんてこった。目先のかっこよさを気にするあまり、またラインライトを使ってしまった。


しかたない。我は再びコツコツとドロップアイテムを探して拾い集めていく。



ボスも倒せたので、我は今回の探索を切り上げ、地上を目指す。すれ違う他の冒険者は、やはりみんなパーティーで楽しそうだ。いかにも冒険してますよって感じである。やはり、ソロプレイよりパーティープレイのほうが楽しいということだろうかね。ソロプレイヤーの姿はほとんどない。


いや、ソロにはソロの楽しさがあるのだ! どちらが上などと比べること自体が間違っている。大切なのは自分が楽しめているかどうかさ。うむ、今、我は良いこと言ったよ。多分。



12階まで戻ると、やはり視線を感じる。何だ? このあたりに何かいるのだろうか。しかし、なにもない。きょろきょろしていると、白い小さい物体が目の前へとかけよってくる。何だ? 毛玉?


つんつんとつついてみると、毛玉からハムスターが現れた! さっきまでふわふわの毛玉だったのに、今までの毛玉はどこに行った!?


「ちゅちゅーちゅちゅちゅ!」

(いと強きお方! どうかボク、ジスポをあなたの子分にしてください!)


子分ってどういうことだと首をひねると、ハムスターはさらに必死に思いを伝えてくる。


「ちゅちゅちゅちゅちゅ。ちゅっちゅ、ちゅっちゅちゅちゅちゅ!」

(ボクらソフティスマウスはこの迷宮では最弱の魔物です。ワルイドキャットたちに食べられ、冒険者達には毛玉目当てに狩られる雑魚なのです!)


こやつ、自分で自分のことを雑魚呼ばわりとは。なかなかの自虐癖だな。


「ちゅちゅっちゅっちゅ!ちゅちゅ」

(他の仲間はダンジョンに生きる魔物の定めと受け入れていますが、ボクには受け入れられません! どうか、どうかボクを一緒に連れて行ってください!)


うーん。我はペットの世話をちゃんとする自信がないからな。ここは断るべきだ。餌とか大変そうだし。我は餌とかの世話が大変そうなので無理とジェスチャーで伝える。ハムスターはなおも懸命に頼んでくる!


「ちゅちゅちゅっちゅちゅ! ちゅちゅちゅちゅー!!」

(そこをなんとか、なんとかお願いします! 餌だって贅沢を言いません! 3食プラス15時におやつだけで十分です! 夜食なんて贅沢はいいませんから!!)


えっ、夜食まで期待してたのか、このハムスター。ちょっと驚いた。こやつ、いままでどんな生活してたんだ? 十分、迷宮になじんでるじゃないか。


我はムリムリと首を振る。ハムスターのアピールは続く。身振り手振りをまじえてのアピールだ。ハムスターの必死さはよく伝わってくるが、最後まで責任が持てないならペットは飼うべきではないのだ。


「ちゅちゅちゅ! ちゅちゅ! ちゅちゅちゅ!」

(ボクはあなたのお役に立てますから! ほんとすごいお役に立てますから! ボクを子分にしたらすごいお役に立ちますから!)


すごい役に立てるしかアピールしていない。そこまでいうなら、しかたない、もう少しだけ話を聞こう。具体的にはどんなことができるのさと、ハムスターに先を促す。


「ちゅちゅちゅ! ちゅちゅっちゅ! ちゅちゅちゅ! 」

(磨けますよ! そりゃもうぴかぴかに磨けますから! 見ていてください!)


なぬ、磨けるとな。それはいったい。


「ちゅちゅーちゅ!」

(もふももーふ!)


ボンとハムスターの体中が柔らかそうな毛に包まれた。そして、我の腕に飛びつき、きゅっきゅっきゅっきゅと毛をこすりつけて磨いていくではないか。ぱっとハムスターが腕から飛び降りる。


そこには他の所とはひと味違う輝きを放っている我の腕があった。な、なんということだ!?


これほどの輝きを我がメタルボディは放つことができるのか! ぴかぴかだ。これはひとつのぴかぴかの到達点じゃないだろうか。う、うぬぅ、このハムスターはなかなか使えるヤツかもしれん。


我がハムスターに目をやると、いつのまにか毛玉がなくなり元の姿に戻っている。


「ちゅっちゅちゅ! ちゅちゅちゅちゅちゅ!」

(どうです! 素晴らしい輝きでしょう! ボクらの毛皮はすごい高級なんですから!)


く、くやしいがこれは認めざるをえない。このハムスターを子分にすることで我の身体はぴかぴかになる。餌を用意するのはちょっと面倒だが、このぴかぴかは捨てがたい。幸運の女神には前髪しかないともいうし。よかろう! 我はおぬしを子分としよう! ハムスターに向かって重々しく頷く!


「ちゅちゅちゅ!」

(後悔はさせませんから!)


我はハムスターを左手の掌の上に乗せ、よろしくなと右手で握手をする。するとハムスターは光に包まれ、ちょっとだけ毛並みがよくなった。


{ログ:ゴーレムとソフティスマウスが主従関係でつながれました}

{ログ:称号【愛でるモノ】の効果が発動。ソフティスマウスはアクティブソフティスマウスに進化しました}


「ちゅちゅ!? ちゅちゅちゅ」

(こ、これは!? 力がみなぎってくる)


我には毛並みがよくなったようにしか見えないが、ハムスター自身には違いがわかるらしい。そんな我の注目に気づかず、ハムスターは再び魔法を唱えた。


「ちゅちゅーちゅ!」

(もふもふもーふ!)


呪文の途中の「ふ」が1つ増えたけど、見た目は先ほどと変わらない毛玉だ。


んん、と待っていると毛玉がブイーンって振動を始めた。な、なんだと、まるで電動歯ブラシだ! 当てるだけで磨けるようになったということか!? こ、こやつの役に立つという言葉にたしかに嘘はなかったみたいだぜ! しかたない! こやつがここまでの力を見せるならばしかたない!! 我も約束を果たしてこやつの面倒をしっかりみようではないか!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


ハムスター、たしかジスポって名乗った気がする。ジスポをないわーポーチに入れる。


「ちゅ! ちゅっちゅっちゅ!」

(親分! これからよろしくお願いします!)


ジスポは満足げにポーチから顔を出し、元気に挨拶をしてくる。我はゆっくりと頷く!


「ちゅちゅちゅっちゅちゅ! ちゅちゅちゅちゅー!!」

(3食プラス15時におやつ! そしてお昼寝自由! これでお願いします!)


えっ、お昼寝自由とか、ここで追加条件を盛り込んでくるの? 我はしぶしぶ、うむとうなずき、迷宮を後にする。ぴかぴかにはかえられない。ぴかぴかは大切なのだ。



こうして我はソロプレイからパーティープレイへと切り替えることに成功した。


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