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第56話 初めての装備

我はゴーレムなり。


ギルドを後にした我はさっそく迷宮に行ってみることにする。迷宮都市の中をきょろきょろしながら歩いていると、我は見つけてしまった!


あ、あれは! あれは雑貨屋ではないか! これはもう行くしかない! ブラシやタオルが売られているはずだ! お値段チェックしとかないと!!! うっひゃー!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


我は雑貨屋の前に辿り着く。入り口から商品をひとつひとつチェックしていく。ブラシはあるのか、タオルはあるのか、我はちょっとワクワクしながら探していく。あっ、あった! ブラシコーナーだよ。


茶色のたわし。これはイマイチだな。我はブラシには取っ手が欲しい。これだと背中まで我の手では届かない。我はそんなに柔らかくないからな。


白いモップだ。これは長すぎる。ダメだ。我の身長以上あるよ。持ち運びしにくい。我はもっとコンパクトなのが欲しい。


緑のトイレ用と思われるブラシ。く、や、やはりブラシの中ではこれが一番我の理想に近い! だが、おそらくトイレ用だ。いいのか、我はそんなので身体を洗ってしまって良いのか。「おい、あのゴーレム、トイレブラシで身体洗ってるぜ」とか、「ちょっとゴーレムさん近づかないでくれます?」とか言われちゃいそうだ。いかん、それはいかんぞ! このブラシも却下だ!!


我はトイレ用ブラシをそっと元に戻す。さらば、トイレ用ブラシ。君と同じような型のブラシを我は探すからな。


ガタ、と音がした。なんだと思い、音がした方向を見ると、カウンターに一人の女の子がいた。13歳くらいの女の子だ。顔にはちょっとそばかすがあり、髪の毛は三つ編みにしている。エプロンをつけているところを見ても、典型的なお手伝い少女Aと言ったところだな。我は冷静にゴーレムアイにて女の子の観察をする。


{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}


くっ、まだか。まだ我はゴーレムアイを開眼できぬのか。


女の子は我を見て固まっている。


んんー、ひょっとして我の事を警戒しているのか。はぐれの魔物だ!? とか思っているのかもしれないな。ここは、ギルドでもらったこのリストバンドの出番だろう。我は少女に近づき、リストバンドを見せようとしたら、少女は「おかあさーん」と叫んで、店の奥に引っ込んでしまった。


なんということだ。我のメタルボディはこんなにもキラキラとして愛くるしい姿をしているというのに。



しばらく待つと大人の女性の影に隠れるようにしながら少女が戻ってきた。これが少女のお母さんなのだろう。少女に比べて体型が横に広い。この少女も気を付けなければこういう肝っ玉母さんみたいな体型になるのだろうね。


「で、変な銀色のがいるってこれのことかい、オリヴィア?」

「そ、そうだよ、お母さん! 気がついたら、ブラシの所にいたんだよ!! それでトイレブラシばかり丹念にチェックしてたんだよ!!!」


やはり、あれはトイレブラシだったか。我の推測は当たってしまった。あれはお金ができても買わないでおこう。


おっと、そんな事じゃない。我が危険ではないとわかってもらわねば! これ、これ見てと我は左手首にしているリストバンドを前にだし、右手でそのリストバンドをアピールする。肝っ玉母さんはその様子に気づき、リストバンドをじっと見ている。


「安心安全、良いゴーレム。へぇ、お前さん良いゴーレムなのかい?」


おぉ、リストバンドを見てわかってくれた。やるじゃないか受付嬢! 我の中で受付嬢ちゃんの株は急上昇だぜ! でも安心安全って何のことだ?


我は、その通り、その通りなのだと大きく頷く。でも、少女は戸惑っている。


「お、お母さん、そんなの信じて大丈夫なの?」

「まぁ、本当に悪いゴーレムだったらこんなうさんくさいリストバンドはしないだろう。もうちょっとちゃんとした従魔の印っぽいのを付けているはずさ」


な、なに!? うさんくさいのか? これ! 何を書いたんだ受付嬢!!

少女は少しうーんと悩んだ後、「それもそうだね」と納得してくれた。我は少しどんよりとした気分になった。


「で、良いゴーレム。あんたはうちに何か用があるのかい?」


おお、この肝っ玉母さんはちゃんと接客してくれる。その見た目は伊達じゃない。我はせっかくなので、ブラシを探していることを伝える。お金はないけどモノくらいは見ておきたい。我は身体の前で手を動かし、ブラシで身体を洗っている様子を示す。


「んー、あぁ、それが欲しいのかい。うちの娘が失礼したし、いつまでたっても売れ残ってるものがあるから、あんたにあげるよ。ちょっと待ってな」


えっ! 伝わっちゃったよ。これは我のジェスチャーがよかったというより、肝っ玉母さんの理解力を褒めるべきだろう。なんという理解力だ。これが接客のプロということか!!! 的確に我の欲しいものを当てるとは! そして、売れ残りだというが、ブラシをくれるのか! どんなブラシだ? トイレブラシは勘弁願いたいぜ。


我はソワソワしつつ、その場で待つ。少女はそんな我の姿を黙って見ているばかりであった。


少し待つと肝っ玉母さんが帰ってきた。その手には、我が長い間求めていたブラシが……ない。その代わりに手に持っているのは、肩紐がついているそこそこいろんなものが入りそうなポーチだ。そして柄がちょっとひどい。我のセンスでは、その柄はないわー、と言わざるをえない。多分、売れ残ったのは、その柄が問題だったのだろう。


少女も、「えっ、それをあげるの? さすがにそれはいらないんじゃ」って言っている。そうだよね。我もいらないよ。そんな変なポーチ。我は少女に同意すべく、深く静かに頷いた。しかし、肝っ玉母さんは動じることがない。


「何言ってんだい。あれだけ身体の前で手を動かして、斜めがけのカバンが欲しいってアピールしてきてたじゃないか。ねぇ、あんたもこれが欲しかったんだろ!」


自信満々に我に迫ってくる肝っ玉母さん。


く、なんという圧迫感と自信、思わず我は頷いてしまいそうになる。負けてはだめだ。こんな圧迫に負けてはダメだ! 思い出せ! 就活であった圧迫面接の数々を!! 採用する者とされる者という圧倒的な立場の違いを利用して、追い詰めてきた面接官達を!!! おのれ! あのメガネ!! なにが我が社で君のような者がやっていけると思っているの、だ!! お前みたいなメガネがやって行けているのであれば我につとまらぬはずがないであろうがぁあああああ!!!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


いかん、思わず過去を思い出してしまった。我はNOとはっきり言えるゴーレムだ。しゃべれないけど。今度こそジェスチャーで伝えてみせる! 我は両手を前にやり、掌を肝っ玉母さんに向け、いらんいらんと必死で断るアピールをする。でも、肝っ玉母さんは動じない。肝っ玉母さんには通じない。


「なんだい、遠慮してんのかい。お代なんていらないから、受けとんな。最近はどんなカバンでも魔法がかかるようになったから、魔法がかかってないこのポーチは売れないんだよ。だからあんたがもらってくれれば、こっちも助かるよ!」


我は必死でいらないと伝える。肝っ玉母さんが助かっても、我が助からない! そんなポーチはホントにいらない! しかし、肝っ玉母さんはポーチの肩紐を目測で調節し、我の首に素早くポーチをかけた。


{WARNING! WARNING! WARNING!}


えっ、何? 世界の声がバグったのか? 今までこんな風に世界の声が聞こえてきたことはないよ。


{警告:ゴーレムはのろいのアイテムを装備しました}

{警告:のろいのアイテムは一度装備すると条件を満たすまで装備を外せません}


えっ?

のろいのアイテム?

条件って何? 我ってば、これを外せないの?


はは。嘘だろ。なんちゃってーって言うに決まっている。我にはお見通しなんだからね!


よいしょとポーチを外そうとしても外れない。我は力任せにポーチのヒモを切ろうとするが、特別な力が働いているようだ。まがまがしい黒いオーラがあふれ出し、引きちぎることができない……。このオーラは肝っ玉母さんと少女には見えていないのだろう。何の反応も示さない。我が必死にあがくその様子を見て肝っ玉母さんは良い笑顔だ。実にうれしそうだ。


「そんなに気に入ってくれたのか! それは見た目はすぐ壊れそうだけど、かなり頑丈なポーチだからね。ちょっとやそっとじゃ壊れないよ! 安心しな!」


絶望した。我はがっくりとその場に崩れ落ちる。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、絶望状態が解消しました。諦めないでください!}


なんと! 世界の声から応援されてしまった。初めてだよ。そうさ、諦めたらダメなんだ! 我は【諦めぬモノ】だから、諦めなければきっとこの呪いを解くことができるはずなんだ!


我がきっと呪いを解くぞと決意したのを、肝っ玉母さんは我がすごい喜んでいると勘違いして実に満足そうだ。少女だけが、えええって呟きながらその様子を見ている。


我はしかたないとポーチを斜めがけにする。身体から離すことはできないが、持ち方を変えることはできるらしい。


まったく、我の身体はどうなっているのだ。マジックアイテムは勝手に消えていくのにな。のろいのアイテムは装備出来るとは。なんという理不尽。理不尽以外の言葉が思い浮かばないよ。


「また、何かあったらきなよ、良いゴーレム!」と、肝っ玉母さんが見送ってくれた。


我はよわよわしく手を振り、雑貨屋を後にした。



えらいものを押しつけられてしまった。我はとぼとぼと歩く。今度は寄り道をすることなく、まっすぐ迷宮へと向かうのであった。

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