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第55話 ギルドマスターと受付嬢

我はゴーレムなり。


我の目の前には受付嬢ではなく、強面のごついおっさんが座っている。我はさきほどの騒ぎのせいで、なぜか奥の部屋へと連れてこられたのだ。そして、イスに座って待っていると、おっさんが来て我の前に座ったというわけだ。


おっさんはじろじろと我の姿を見てくる。こういう時はこっそり鑑定されるのではとドキドキしているが、鑑定されましたという世界の声は聞こえてこない。勝手に鑑定するようなマナー知らずではないようだ。少し感心した。


ようやくおっさんが我に声をかけてくる。


「ゴーレム、お前さんは何の目的でやってきたんだ? テイマーの姿もないし、従魔の印もない。ひょっとして冒険者にでもなりたいってのか?」


おぉ、このおっさんはなかなか話がわかるようだ。我はうんうんと頷いた。そんな様子にちょっと驚いたおっさんはさらに確認してくる。


「ん、お前さん、冒険者になりたいのか?」


我はさらにうんうんと頷く。おっさんはうーむとあごに手をやりながら何かを考えている。


「ゴーレム、お前さんはひょっとしてザイカルタ大陸にいたことがあるか?」


う、うむ? なんでここでいきなりザイカルタ大陸のことが出てくるのだろう。結構離れているし、我はあっちではかなり隠密行動を取っていたのだけどね。この質問にはどう答えるべきだろうかとちょっと考えてしまう。


我の戸惑う様子を見つつ、「ふーむ」というとおっさんは立ち上がり、ドアの外に出て行った。そしてしばらくすると受付嬢を伴ってまた部屋の中へと入ってきた。この受付嬢はキャモメとか言われてた子だな。なにかをお盆にのせている。そしておっさんは席に再び着いた。


「ゴーレム、お前さんを冒険者登録することはできない」


な、なにぃ!! 何故だ! 種族に関係なく冒険者になれるのではないのか!?

我は必死の思いでジェスチャーで抗議をする! ゴーレムにも冒険者をさせろ、と必死にアピールする!


我の慌てた様子を見て、おっさんが説明をしてくれるようだ。


「いや、魔物は冒険者登録できないんだよ。ギルドに登録されている魔物はテイマーの従魔って扱いなんだよ。だから、魔物単体、お前さん、ゴーレムだろ? ゴーレムを冒険者にすることはできないんだ」


な、なんてこった!? どこまでいこうと我は魔物というくくりになってしまうのか!? なぜだ、この愛らしいメタルボディが悪しきものに見えるというのか!? キラキラだし、ぴかぴかなんだぜ! よく見てくれよ、おっさん!!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}


はぁ、とでもいうように肩を落とす我におっさんはせめてもの情けみたいな感じで提案をしてきた。


「ゴーレムを冒険者登録することはできないが、今回のように冒険者どもとトラブルにならないように従魔の印だけお前さんにやるよ。それを付けていれば冒険者もむやみに手出しはしてこないはずだ」


従魔の印ねぇ。我は別に誰かに従っているわけではないし、誰にも縛られたくはないんだよな。悩むそぶりを見せる我におっさんは続けて声をかける。


「別に従魔の印をつけても、お前さんを縛るようなものじゃない。一応、魔道具ではあるが、認めた主人がいないとただの飾りみたいなもんだ」


そう言って、受付嬢が持っていた従魔の印を手に取り、我に渡してくる。うーん、おっさんの言葉を鵜呑みにしていいものかと思うけども、冒険者に絡まれるのも面倒だと思い、従魔の印を左手に付けた。支配の王錫にだって支配されなかった我だ。こんなものに支配されることはないだろう。


我の左手首につけた従魔の印が光輝き、シューッという音と共に消えて無くなった。我はああ、またかと思っただけだが、目の前のおっさんと受付嬢には衝撃的シーンだったようだ。大きく目を見開いている。やっぱり我は魔道具を装備出来ないみたいだな。常時装着するようなものだけダメなのだろうか、よくわからない。


さて、どうしたものかとおっさんと受付嬢の三人で考えていると、受付嬢が「あっ、そうだ!」と言って部屋の外に出て行った。何を閃いたのだろう。仕事ができるような子だとは思っていなかったが、案外できるのかもしれないな。


部屋に戻ってきた受付嬢は黒いゴムっぽい素材のリストバンドと筆と瓶を持ってきた。おっさんが、「なんだ、それは」って質問をしている。我も聞きたい。それをどうするのだ?


受付嬢は「ふふ」と得意げに笑って、筆に白い塗料っぽいものを付け、黒いゴムにさっと何かを書いた。我にはなんと書いているのか読めない。だが、あんまり上手ではないことはなんとなくわかる。おっさんの顔を見ると、ちょっと渋面になっている。受付嬢が得意げに説明をしてくれだした。


「ゴーレムさんにはこれを付けてもらえば、誰も襲ってきませんよ! 従魔の印のような魔道具じゃないですけど、これを付けておけば危険はないとわかりますから!」


なんという自信! そして、この機転! この受付嬢はやはりけっこうできる子なのかもしれん!

我は受付嬢からリストバンドを受け取り、左の手首にはめる。おお! 今度は消えない! 魔道具じゃなかったら大丈夫なのか、なるほどね。


受付嬢が良い笑顔で、我に親指を立ててくる。我も受付嬢にぐっと親指を立て返す。その姿を見ておっさんは、「まぁ、いいか」と一人頷いた。


受付嬢もおっさんの横に座り、説明をし始めてくれた。


「ゴーレムさんは冒険者登録できないので、ダンジョンカードをお渡しできません。なので、ダンジョンカードの説明はしないで、迷宮について説明させてもらいますね」


我はちょっとダンジョンカードも気になると思ったが、もらえないものについて聞いても仕方ないと割り切り、うむっと先を話すように頷いた。


「このあたりにはいくつもの迷宮、ダンジョンとよばれるものがあります。基本的に迷宮に入るのに許可はいらないです」


なんと、許可はいらないのか。へぇ、じゃあ勝手に入ってよかったのか。冒険者になれなくても困らないや。それにしてもこの受付嬢は胸が大きい。やっぱり、冒険者とかの男を相手にするから、お色気があった方がいいんだろうな。胸の谷間をチラ見せすれば、ころりということ聞いてくれる冒険者が多いんだろう。でも、我はそんな胸の谷間なんかにだまされないんだからなと、いろいろなことを胸を見ながら考えていた。


「ゴーレムさん! ゴーレムさん! 私の話を聞いていましたか?」


あれ。いつのまにか説明が終わっていた。なんということだ、受付嬢の胸について思いを巡らせている内に説明が終わってしまうとは。まさかとは思うが、この受付嬢、時を操れるのではないだろうか!? 畏るべし! 畏るべし! ギルドの受付嬢。


受付嬢はちょっと半眼になりつつ、我に話しかけてくる。


「私からの説明がし終わりましたけど、何か質問などありますか?」


うーん、説明を聞いてなかったから質問することなどあろうはずがない。我は質問することは何もないと首を左右に振り席を立った。そしてギルドから出て行くのだった。




ゴーレムが出て行った後のギルドの一室では、ギルドマスターのガモンガスと受付嬢のキャモメが残って話をしていた。


「おい、キャモメ。なんだよ、あのリストバンドの【安全安心! 良いゴーレム! 】って」

「えっ、危険がないというのを周りの人に伝えるために書いたんですけど、ダメでしたか? ゴーレムさんだって喜んでいましたよ」

「うーん、あのゴーレムはなんて書かれたのかわかってなかったんじゃないのかね」

「そうでしょうか? でも、満足されてたようですし」

「まぁ、そうだな」


キャモメはガモンガスに自身の疑問をぶつけた。


「でも、ギルドマスター、あのゴーレムは本当に危険じゃないんですか? テイムされていない魔物ですよ。いきなり登録されていない従魔の印を持ってこいって言われて驚いたんですから」

「んー、でも、お前、あのゴーレムが悪さするように見えたか?」


キャモメは少し考えて答える。


「いえ、あんまり悪いことをするようには見えませんでした。でも、私の胸ばかり見て説明を聞いてなかったみたいでしたけどね」

「ああ、なんか余計なことを考えて上の空だったな」


ガモンガスは少し考えて声を落として、話をしはじめる。


「実はな、かなり前に、ザイカルタ大陸のヴィディー王国の王都にあるギルドから、世界各地のギルドに向かって連絡があったんだよ。よくわからない銀色のゴーレムが現れたってな。それで、そのゴーレムと敵対しない限りは何も問題が無いらしい。むしろ、しっぽをつかめず、手出しができなかった貴族や、王城の魔法使いとかを始末してくれたらしいんだよ。なぜか教会を修復したって話もあったしな」


キャモメはその話を静かに聞く。


「それでお前達からギルドであった話を聞いて、まさかと思いつつ聞いてみた。そしたら、やっぱりザイカルタから来たみたいだったからな。下手に追い出すよりは、従魔の印でも渡して、適当に迷宮都市で過ごしてもらってとっとと出て行ってもらおうって思ったわけさ」


「そんな話があったんですね」

「あぁ、ギルドマスタークラスにしか、この情報は流れてきてないからな」

「そんな情報を、私に話してよかったんですか?」

「ああ、必要だからな」

「必要、ですか?」


ガモンガスはきりっとした表情でキャモメに言う。


「ああ、キャモメ! お前にはあのゴーレムがギルド内で騒ぎを起こさないようにサポートしてやってくれ!」

「ええ!!? そ、そんな!? 無理ですよ!」

「いや、キャモメ。お前ならできる。ゴーレムと親指を立て合ってた姿は、俺には心が通じ合っていたように見えたぞ! 大丈夫! きっとお前なら大丈夫だ!」

「いや、あれはその場のノリで。心なんて」


渋るキャモメに、仕方ないとガモンガスは切り札を切ることにした。キャモメならこの札を切れば大丈夫だという確信を持って。


「キャモメ、お前をゴーレムの担当にするからには、ゴーレムが迷宮から持ってきたアイテムや魔物の素材を買い取った時にはギルドの取り分である3割の内の3分の2をお前にやる。これは特別だぜ」

「えっ!?」

「あのゴーレムは、相当強いらしいからな。ヴィディー王国からの話を聞く限り、5つ星、いや6つ星くらいの力を持っているかもしれん。そんなあいつが持っ」「やります! 私がゴーレムさんをサポートします!」


キャモメはガモンガスの言葉を遮って意欲を見せる。


「あんなかわいらしいゴーレムさんが悪い魔物のはずがありません! 私が立派にサポートしてギルドに貢献しますから見ていてください!」

「お、おう。がんばってくれ」

「はい!!」


そういうとキャモメはとても張り切って部屋を出て行った。そしてキャモメはすぐさま10枚ほど同じ内容の貼り紙を作り、ギルドの掲示板、各カウンターの前に貼っていく。


その貼り紙には、「【安全安心! 良いゴーレム!】銀色のゴーレムは、はぐれの魔物ではありません! 冒険者ではありませんが、受付嬢キャモメが担当になりました。銀色のゴーレムには手出し無用です! 銀色のゴーレムに手出しする場合は、ギルドから制裁がありますので注意してください! 受付嬢キャモメより」と書かれていた。


当然、ギルドからの制裁という部分は、キャモメの独断であり、そんな権限などはなかった。しかし、ガモンガスは、これでもめ事が減るならと見て見ぬ振りをするのだった。



しかし、ガモンガスはしばらくしてこの日の判断を後悔することになる。


ゴーレムがガモンガスの思いに反して、迷宮都市に住み着いてしまったために。

そして、ゴーレムがたまに持ってくるアイテムがものすごい金額のものばかりだったために。


キャモメは非常に満足していたが、それ以外の受付嬢からのガモンガスの判断への非難がものすごいことになり、地獄を見ることをガモンガスはまだ知らない。


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