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第54話 迷宮都市にやってきた

我はゴーレムなり。


我は貿易都市ザイホードから出る船にこっそり乗り込み、深く霧に包まれた大陸ジョーイサへと渡ってきた。なんでもこの大陸には数多くの迷宮があるそうなのだ。我はそんな迷宮の側にある都市クワードロスを目指している。


この大陸では種族はあまり意味がないらしい。迷宮に挑むのに種族は関係ないからだ。ただどれだけ潜れるか、迷宮を攻略していけるかだけが問題なのだ。人間でも、獣人でも、蜥蜴人でも、さらには蟲人、鬼人、魔人だろうと関係ない。力を持っているかいないかだけが重要なんだそうだ。


我は船でその話を聞いて、鬼人や魔人が大丈夫なら、ゴーレムでも大丈夫なのではと淡い期待を胸にクワードロスを目指している。



迷宮都市クワードロスへと辿り着いた我は念のため、【姿隠し】を発動させ、街の様子を遠目に確認する。ふむふむ、確かにいろんな種族のヤツらがいる。あ、あいつなんてガイコツだ! おっ、魔物っぽいヤツもいる。魔物っぽいヤツの側には、獣人もいたけど、パーティーとかを組んでいるのかもしれないな。


うむ、これなら我も姿を隠す必要はなさそうだ。冒険者ゴーレムの伝説が今、幕を開くのだ!


我は【姿隠し】を解き、クワードロスの中へと入っていくのだった。




迷宮都市に入った我は、我の少し前を歩く冒険者達の後をついて行く。


おそらく冒険者達は拠点となるような建物へと行くはずだ。まず行くとしたら冒険者ギルドだろう。道を聞くこともできない我に取ってはこれが最善の方法なのである。


ちらちらと視線を感じる。ふふふ、我のメタルボディの美しさに目を奪われているのだろう。仕方ない! それは仕方ないことだ! 我は視線を無視して冒険者達の後を追っていくのであった。


さて冒険者達はちょっと大きめの建物の中に入っていった。建物の入り口の横には剣がクロスした紋章が描かれている看板がある。きっとここがこの大陸の冒険者ギルドのはずだ。我は中に入る。


するとそこは武器屋だった。いろいろな武器がおかれている。けっこうでかい剣、槍、ハルバード、メイス。何でもござれだ!


なんてこった。失敗した。


あの冒険者達は、なんでまず武器屋に来ちゃうかな。冒険者ギルドを目指そうぜ!


我はせっかくなので、店の中の武器を色々と見て回る。剣や斧などを持ってみる。しかし、どれも軽い。先ほどの冒険者達は買い物が終わったのか、カウンターの中にいた店員に「またのお越しを」と声をかけられて出て行った。我も出て行くかと思ったら、カウンターの中にいる店員と目が合った。


もじゃもじゃの髪を後ろでちょんまげのようにピンとくくっている。髭もボーボーだ。身体はごついが、身長はそんなに高くない。この男はひょっとしてドワーフなのではなかろうか。武器屋にドワーフ。定番と言えば定番だな、と一人納得していると、男はカウンターの下からおもむろにハンマーを取り出した。


? なんでハンマーを?


我は首をかしげる。ドワーフが目を見開き、ちょっと鼻息も荒くなっている。目を見開きすぎてて、ちょっと怖い。充血し出しているよ。


「メ、メタルゴーレム」とドワーフが呟く。


うむ、それは我の事だ。我はうむと頷く。ドワーフがゆっくりと、ジリジリと近づいてくる。我もジリジリと後ずさる。な、なんだ。このおっさんは! 何が目的なんだ!


すると店の中なのにハンマーを振り下ろしてきたではないか! 当たっても問題ないだろうけど、両手を挙げて反射的に避けてしまった。このドワーフ、今のは確実に我をつぶしに来ていた気がする。


つばを飲み込むことはできないが、我はゴクリと息を飲む。当然、口がないから息も飲めない。我は雰囲気を大事にするゴーレムなのだ。


ドワーフは「チッ」と舌打ちをし、何度も何度も我をめがけてハンマーを叩き付ける! 我はモグラたたきのモグラになったように、ひょいひょいとかわす。ちょっと楽しくなってきた!


ドン! ヒョイ。 ドン! スカ。 ドン! ヒョイ。 ドン! ゴロゴロ。ふっふっふ、その程度の攻撃では、我に攻撃を当てることはできぬぞ! モジャオ、もっと根性見せてみろ!


我はクイクイとドワーフのモジャオに向かって手を動かす。かかってこいという我の余裕の態度の前に、モジャオはより悔しそうに歯がみをする。


「くっそー、メタルゴーレムはいい武器の材料になるんだ!」


えっ! 我ってばそんな理由で狙われてたの!? 我を材料扱いするとは、畏るべし、モジャオ。メタルゴーレムは材料なのか、我は一つ賢くなってしまった。


「こんだけ逃げねぇ、メタルゴーレムはめずらしい。俺のハンマーがあたれば、あたりさえすれば何とでもなるのに!」


ハンマーを手に持って、少し息を切らせながら、雑魚キャラのような台詞を吐いているモジャオ。ふっふっふ、あたりさえすれば我を倒せると思っているのか! 甘い! 甘いぞ! モジャオ! お前の考えはメープルシロップよりも甘ったるいわ!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


しかたない、あたればどうにかなると思っているのなら、避けずにおいてやろう。モジャオが渾身の力でハンマーを振り下ろしてくる。我は何の防御をすることもなくそのハンマーを我が身で受ける。


ガーン!!! という大きな音を立ててハンマーは我の頭にぶつかった。


ちょっと衝撃はあったけど、まったく痛くない。むしろモジャオの方が痛そうだ。ハンマーを持っていられずドンと床に落としてしまった。モジャオもぐぅうとうなりながら、床に膝をついている。


我はそんなモジャオの肩にそっと手をやる。モジャオは我の方を見上げてくる。我はモジャオの肩から手を離し、首をふるふると左右に振り、両手を身体の横で掌を上にして無駄だよってジェスチャーをする。


我のジェスチャーはきちんとモジャオに伝わったらしい。モジャオはそんな我を見て、顔を真っ赤にして「く、くそがぁあ!!」と怒鳴ってくるが、手がしびれてハンマーは持てないらしい。


我は、モジャオが荒らした店内の床を見渡す。土間のように地面が向きだしな床だから、まぁ、大丈夫だろう。モジャオに、じゃあと手を上げて我は店を後にするのだった。




まったく、あの冒険者たちがまっすぐ冒険者ギルドに行かないからえらい目にあってしまった。モジャオの店は我にとって危険スポットだな。近づくのはやめておこう。


我は街の大通りへと出て、あっちこっちへと歩いてみる。おっ、冒険者っぽい者たちが入っていく建物があった。さっきの武器屋よりも大きい建物だ。うむ、今度こそ冒険者ギルドに間違いあるまい。我はゆっくりと扉を開けて中に入っていく。


ギルドの中に入った直後は視線を向けられたが、しばらくするとみんな視線を外していった。なるほどなるほど、新入りを観察するってことか。我は一つのカウンターの前へと進む。カウンターは我の身長と同じくらいだ。ちなみに我の身長は1メートルくらいである。我は背伸びをしてなんとか受付嬢から顔が見えるようにする。


カウンターの中にいた受付嬢が、えっ、何って感じで我を見てくる。ギルドの受付嬢といえば、鉄壁の笑顔でぬかりない対応をしているものだとばかり思っていたが、我の買いかぶりだったみたいだ。


我は受付嬢に冒険者登録したいのだがと手だけでアピールする。受付嬢は、えっ、えっと困惑している。やはり手だけでは伝わらぬか。なんということだろう。


そんなやりとりをしていると、周りの注目を集めてしまったらしい。なんかちゃらい感じの冒険者が我に声をかけてくる。チャラオだな。


「おいおい、キャモメちゃんが困っているじゃねぇか。ゴーレム。お前の主人のテイマーはどこにいるんだよ?」


我はチャラオが言っていることがよくわからない。キャモメちゃんとは我とやりとりをしている受付嬢のことだろう。ただ主人のテイマーとはどういうことだろう?


「んん〜? まさか野良ゴーレムなのかお前? いや、そんなわけねぇだろうがなぁ」


とぶつぶつ言いながら我をじろじろと見てくる。なんだ、このチャラオは。ちょっと我の手助けをしてくれてるのかと思ったが、ちがうみたいだな。


「でも、お前には従魔の印がねぇな。ふーん」


チャラオがにやりとして剣を抜いた。受付嬢が「ギュリオさん! ギルド内で剣を抜かれては困ります!!」と声を上げる。


「キャモメちゃん、俺はギルドに突然現れたはぐれモンスターを退治してやろうって言うんだぜ? 感謝こそされ、止められるってのはねぇだろう!」


チャラオはそういうといきなり斬りかかってきた。我はチャラオの手を取り、力任せに扉の方に投げた。もちろん全力ではない。腕がもげた、なんて事になったら大変だからね。チャラオはきっと受付嬢にいいところを見せたかっただけさ。ガッという音を立てチャラオはドアを突き破り消えていった。


ドアが大きく壊れてしまった。


チャラオめ、なんということを。我に修理代の請求がきたりしないよね。我はお金なんてまったくもっていない。むしろ、お金に限らず、今の我は何も持っていない。ブラシかタオルが欲しい。この迷宮都市で絶対手に入れてやる!


受付嬢の方を向くと受付嬢もちょっとびっくりしているではないか。まぁ、今のは我は悪くない流れだろう。むしろいきなり襲いかかられた被害者だ。


我は再び受付嬢の方に向き、再度、冒険者登録したいのだがとアピールする。だけど、受付嬢は眉間にしわを寄せるばかりだ。我の思いは伝わらない。


はー、どうしたものか。我は少し困っていると、今度は頭に布を巻いている黒髪の女が受付嬢に声をかけてきた。


「なんだい、キャモメ。困ってるみたいだね」


受付嬢は答えにくそうに、「えぇ、このゴーレムが何を伝えたいのかわからないんです」と黒髪の女に告げる。黒髪の女は、「さっきのギュリオが言ってたけど、はぐれの魔物なんだろ。片付けちまえばいいじゃないか」と言って、チャラオと同じように漆黒の剣を抜いた。


うーむ、さっきから、人のことをはぐれモンスターとか、はぐれの魔物とか好き放題言ってくる。そもそも、はぐれるほど我の仲間はいないというのに。我は大抵の場合、一人で行動しているのだ。はぐれているわけではないぞ。


「私の魔剣に切れないものはないからね、私が始末してやるよ」と女は軽く笑って剣を振ってきた。


なんで冒険者は手を先に出してくるのだろう。我はただ冒険者登録したいだけなのに。我は魔剣を片手でパシッと受け止める。黒髪の女が「なっ」と目を見開いて驚いている。女は剣を手元に戻そうとするが、我は魔剣を離さない。また斬りかかられてきたら面倒だ。周りの冒険者が驚いている。


「おい、ファイーナの魔剣を止めたぞ、あのゴーレム」

「あぁ、しかも、傷一つついてない」

「ファイーナはもうすぐ4つ星になるかもって言われてる3つ星冒険者だよな」

「そうだぜ、ああ見えてあの女はかなり強い」


4つ星? 3つ星冒険者? 冒険者のランクのようなものだろうか。我も冒険者になって、あ、あれは最速で5つ星になったゴーレムだぜとか言われてみたい! 我は思わず手に力が入ってしまう。


パッキーン。


何かが折れたような音がギルド内に響いた。我は手を開いてみると、漆黒の魔剣の先の方がカランと落ちたではないか! 折れちゃったみたいだな。ドンマイドンマイ。


「えっ、あれって魔剣だろ?」

「嘘? あの魔剣が折れたのか?」

「ファイーナはあの魔剣のおかげで4つ星になれそうだったんだろ」

「あぁ、その魔剣が折れちまったとなったら」


周りからはおどろきと黒髪の女への同情の視線が集まっている。我は黒髪の女を見ると、ぽかーんとした顔をしている。しかし、魔剣が折れたことに気づいたのか、徐々に目に涙が溜まってくる。


「わ、私の魔剣が……。やっとの思いで手に入れたのに、そ、そんな」


折れた剣を見つめながら、涙をぽとり、ぽとりと落としだしたじゃないか。周りは彼女に同情的だ。受付嬢も、「ファイーナさん」って言うだけで、誰も黒髪の女に声をかけられるような雰囲気ではない。


なんだこれ。我は攻撃されて防いだだけなのに、まるで我が悪役のようではないか。被害者なのに、いつのまにか加害者のような立場に追い込まれてしまった。その場の雰囲気とはなんと恐ろしいものなのだろう。


ま、まぁ、ちょーっと剣を折ったのはやり過ぎだったかもと思ったが、我の命を狙ってきたのだ。過剰な対応ともいえない。むしろ優しいくらいだと思う。


黒髪の女は未だに魔剣を見つめて呆然としている。涙もポタッ、ポタッと落ち続けている。


う、うーむ。仕方ない。我は折れた魔剣の先を拾い上げ、黒髪の女が持っている魔剣の先へとくっつける。そして折れた箇所を両手で包む。黒髪の女が「そ、そんなことをしたって直るわけがないだろうが! このバカゴーレム!!」と我に暴言を吐いてくる。さらに魔剣を持っていない方の手でばしばしと叩いてくる。


人がせっかく直そうとしているのに。ひどい。

しばらくして我は魔剣から手を離す。


するとなんということでしょう、先ほどまで折れていた魔剣がつながったではありませんか!


黒髪の女は、直った魔剣を見つめて固まっている。受付嬢や周りの冒険者も、「えっ、直った?」「嘘だろ?」とか言っている。ふっふっふ、この程度のものを直すのは造作もないことだ。



黒髪の女は慌てたように、魔剣を持ち上げ、振り回す。えっ、ちょっと何してるんだよ。我は華麗なバックステップで黒髪の女と距離をとる。受付嬢も後ろに離れながら「あ、あぶない!! ファイーナさん! 剣を振り回すなら訓練場でやってください!」と声を荒げる。黒髪の女はハッとしたように魔剣を抜き身で持ったまま、ギルドの奥へと消えていった。



なんとも冒険者達はクセの強いヤツが多い。

困ったものだ。

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