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第53話 迷宮都市の冒険者の話

俺の名前はガザリ。

2つ星冒険者の人間だ。


ここは深く霧に包まれた大陸ジョーイサにある迷宮都市のひとつクワードロスだ。命知らずが集まっては迷宮でその命を散らしていく。


最近、ふらりとこの街に一人の新入りが現れた。そしてまたたく間に実力でこの街でのし上がっていきやがった。しかも、一人でだ。


そんなあの人のことを俺たち、大手クランに属さない冒険者は敬意と畏敬の念、そして親しみを込めて、「ゴーレムさん」と呼んでいる。ゴーレムさんってのは、その名の通り、銀色の1メルくらいのメタルゴーレムだ。最初はゴーレムさんに絡んでいったバカもいたけど、ゴーレムさんの前にあっけなく沈められていた。


そんなゴーレムさんには力あるものにしか付けられない二つ名まである。光魔法を使い、光の軌跡を描いてきらきらと輝きながら戦うゴーレムさん。その姿を見た者が誰とはなしに、「きらめきのゴーレム」というイカした二つ名を付けやがった。


おっと、ゴーレムさんの話をしていたら、とうのゴーレムさんが酒場の入り口から入ってきたぜ。まわりのヤツらもちょっとざわめいてやがる。


「ゴーレムさんだ」

「今日もぴかぴかだな」

「さすがゴーレムさんだ。歩く姿に隙が無い」

「なんとか俺たちのパーティーに入ってもらえないかな」

「無理だろ。俺たちじゃゴーレムさんの足手まといにしかならない」


クランに入っていないヤツらにとってはゴーレムさんはヒーローだからな。ゴーレムさんは知らないだろうが、「ゴーレムさんを慕う会」ってのもできてるんだぜ。どれだけゴーレムさんが影響力を持っているかわかるだろう。


ゴーレムさんはそんな周囲の声に反応することなく、カウンターのいつもの定位置に座った。もうあの席はゴーレムさん専用席なんだ。それを知らないヤツが座ろうとすると、周りにいるやつらが座るのを止めに入るのさ。


ゴーレムさんはマスターに目配せをし、左手の人差し指と中指をピンと立ててマスターに注文をする。あれはゴーレムさんのための特注のアルコールの量を指で伝えているのさ。なんともイカしているだろ。


マスターも手慣れたものさ。


いつもの容器にアルコールを入れてさっとゴーレムさんの方へとカウンターを滑らせる。ゴーレムさんは容器を受け取ると、いつものように、斜めがけにしたポーチから、魔法の磨き布を取り出し、アルコールをさっと磨き布にかける。そして店の金属製のグラスを1つ1つ丁寧に磨いていくのさ。その流れるような一連の動作に周りにいる俺たちは見ほれてしまう。さっきまでうるさかった店内に、キュッキュッキュッキュとゴーレムさんがグラスを磨く音が鳴り響くのが何よりの証拠だ。


ゴーレムさんがグラスをきれいに磨いてくれる。そのおかげで、この店のグラスはいつも光り輝いてるんだぜ。だから俺たちも毎日気分よく酒を飲めるって訳だ。



そんなゴーレムさんは、冒険者登録をしていない。いやできていないんだ。ギルドの規約のせいでな。魔物は魔物使いが使役していないとギルドに登録できないかららしい。まったく杓子定規に対応しやがって。ゴーレムさんはゴーレムさんだ。魔物だとか、そんなの関係ねぇだろうに。


でも、俺たちの間じゃ、もうじきギルドもゴーレムさんを認めざるをえないと話し合っている。


なぜなら、冒険者登録をしてダンジョンカードを持っていないと、何階層まで潜ったのかわからないからだ。ゴーレムさんはソロでどんどんと進んでいくんだ。それでいて、窮地に陥っている冒険者がいたら何も言わずに助けて、地上まで連れ出してくれるんだぜ。圧倒的ってのはゴーレムさんのことを言うんだ。


俺も2つ星の冒険者になって、俺は強いって勘違いしかけてたけど、上には上がいるって教えられた。ゴーレムさんがいなかったら、俺はもう迷宮でのたれ死んでたはずだ。ゴーレムさんにはホントに頭があがらねぇ。


おっと、話がそれた。


つまり、俺たち、「ゴーレムさんを慕う会」では、ゴーレムさんはひょっとすると誰も到達したことのない階層まで辿り着いているんじゃないのかと思ってるのさ。ゴーレムさんがたまに持って帰ってくる魔物の素材や魔石は、大手クランでも手に入れたことがないものが山ほどあるからな。


ギルドはゴーレムさんからの情報をのどから手が出るほどほしがってるはずだぜ。でも、冒険者として登録させていないから、情報をくれとも言えない。ギルドの方が先にゴーレムさんに頭を下げにいくってのが俺たちの予想だ。


あっ、ゴーレムさんがグラスを磨き終わったみたいだ。マスターに手をあげて、店の奥へと入っていった。この店はゴーレムさんが拠点にしているんだ。だから、ゴーレムさんを慕うヤツらは自然とこの店に足を運ぶようになっちまった。


さて、俺たちも明日に備えてそろそろ切り上げよう。

金をテーブルの上に置いて、俺たちは店から宿へと引き上げた。


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