第52話 光の女王
我はゴーレムなり。
お嬢様達と一緒に王都へと辿り着いた。我はぬかりなく【姿隠し】を発動させることを忘れない。お嬢様には我が見えているけど、メイド達からしたら我がいきなり消えてしまったと思ったらしい。
「えっ、ゴーレム様は!?」ときょろきょろしていたので、メイドの手を取ったら、「えっ、ゴーレム様? 先ほどまではどこに」って驚いていた。
べ、別にメイドさんの手を握りたかったから消えたわけじゃない。
我ってば心も体も硬派だから! それは間違いないのでアル!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
お嬢様が言うには、ちょうどお嬢様の父親である公爵が王都へ来ているらしい。なるほど、父親に会って、王子に世界の果てまで転送させられたことを訴えるのか。あのバカ王子に直接何か言っても無駄そうだし、公爵経由で国王に一言言ってもらった方がいいよね。さすがはお嬢様だ。
妹ちゃんとかも来ているのかと思ったら、母親と一緒に領地にいるそうだ。我が怖がられる心配もない。よかったよかった。
そして、公爵とお嬢様の話し合いが始まった。
我はメイド達の横に同じように立つ、こっそりと。こういう話の時は、メイドは席を外すのでは、と思ったが、今回は一緒に世界の果てまで飛ばされたし、お嬢様の信頼も厚いので同席することになったらしい。我には同席するかしないか、お嬢様からは何も聞かれなかった。でも、せっかくなので一緒に話を聞くことにした。
公爵は部屋に入ってきたお嬢様を見て開口一番に質問をする。
「リルリーゼ、お前何か変わったか? 今までとは雰囲気が明らかに違うようだが」
「はい、お父様。私は光の精霊王様にご加護をいただくことができました」
公爵は、大きく目を見開き、慌てたようにお嬢様を問いただす。
「光の精霊王様だと!? そんな、まさか!? いや、しかし、たしかにお前は今までとは明らかに。どういうことかもっと詳しく話しなさい」
「はい、私からもお父様にお願いしたいこともありますし、一から説明させていただきます」
それからお嬢様は、王子とイチャコに呼び出され、メイド達と一緒に世界の果てまで飛ばされてしまったこと、銀色のゴーレムに助けられたこと、銀色のゴーレムが精霊王を呼び出し、精霊界を通ってザイカルタまで帰って来られたこと、そして光の精霊王から加護をもらったことを詳しく、公爵に話をしていった。
公爵は、銀色のゴーレムに助けられたというところで、ぴくりと眉間にしわを寄せた。それを我は見逃さない。我がゴーレムアイはどんな小さい変化も見逃さないのだ!
{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}
んー、我はこのおっさんと接点はないのだけどな。眉間にしわを寄せられる理由がなにかあるだろうか。もしかして、妹ちゃんと母親から聞いたであろう海賊船の話を思い出したのかね。
公爵は重々しく「銀色のゴーレムか」と呟く。
お嬢様は「? 銀色のゴーレムに何か心当たりがあるのですか?」と尋ねる。
おお、お嬢様グッジョブ。我もそれを知りたい!
「いや、な。銀色のゴーレムについては、一年ほど前の伯爵家の一件と王城の離れの一件もあり、王都ではかなり噂になったことがあるのだ。今は大分落ち着いたがな。さらに教会に起こった奇蹟の話もあり、銀色のゴーレムは神の使いではないかという話すら出ていたほどだ」
お嬢様はちょっと目を大きく見開いて驚いている。横にいるメイド達も言葉には出していないけど、「まぁ」と驚いてくれている。でも、そんなお嬢様やメイドよりも我の方が驚いているのだ!
ま、マジか!? 我が神の使い! えっ、そんな神々しかったかな!? やっぱり我くらいになるとあふれ出るオーラがあるからわかっちゃう?うわぁ、参ったなぁ! 参っちゃうな!
ラインライトの使い方とか工夫したもんね! やっぱり、我の軌跡を残すラインライトとかがかっこよかったおかげもかなりあるんじゃないかな!! 神の使い、ゴーレム! くぁー、超かっこいい!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
はっ!? ちょっと浮かれてしまった。周りを見ると、お嬢様が我を生暖かい目で見つめてきているではないか。ふっ、そんなに見つめるなよ。照れるじゃないか。
公爵は、お嬢様の様子に少し首をかしげている。
そして、お嬢様は父親に向かって、「私はこの国をもっとよくしたいと考えています」と切り出した。
公爵も「うむ、わしも常々それを思っている。だが、今の王をなんとかなだめながら、悪い方向へ国が行かないようにすることで精一杯だ。王の離れの一件で、王城に巣くっていた魔術師どもが一掃されたおかげで戦争などに発展する事態も防げるようになった」と返事をするが、我には「ちょっと現状維持が精一杯だ」と言いたいように聞こえた。
「お父様、それではだめだと思います。この国では人知れず数々の悪行が行われていることを私は知っています。そして苦しんでいる人が多いことも知っています。私が次の王妃となることでそれを少しでも正せればと考えていましたが、それではダメだとわかりました」
公爵はお嬢様の言葉をじっと聞く。お嬢様はそんなことを考えていたのかと我はふむふむと頷く。
「私は精霊王様の加護をいただいて決心しました。私が王になると。突飛な発想だと思われるかもしれませんが、お父様は今の国王陛下の弟にあたりますし、その長女の私にも順位は低いですが王位継承権があります。民衆の心は今の王家から離れていっていますから、精霊王の加護を授けられた私が王座につくことも受け入れられましょう。」
公爵は半眼になり、お嬢様をにらみつける。
「王位を簒奪するというのか、未来に汚名を残すことになるぞ。そして、本当にできると思っているのか!? 王城にも、この周辺にも多くの騎士や兵士がいる! 逆臣として討ち取られてしまうぞ、リルリーゼよ」
「ええ、ですから、領地から兵を王都へと呼び寄せていただきたいのです。そうすればお父様は無断で兵を王都に近づけたということで、必ず王の前へと引き出されます。その際に私もついて行き、私が王の首を取ります」
えぇええ、マジかよ。お嬢様!! 王の首を取って王位を奪るのか! なんということを考えるのだ! ちょっとぶっ飛んでるぞ。まぁ、決意も固そうだしいいか。我も歴史の1ページに立ち会いたいし。
「本当にやるのか?」公爵はお嬢様に念を押す。
「えぇ、光の精霊王様の加護がありますし、銀色のゴーレム殿も私に協力してくださいます。最初は血で王座を得ることになろうと、私はそれがこの国をよくするためと考えております。もしもお父様が協力してくださらなくても、私は一人でも事を起こします」
公爵は黙り込む。しばしお嬢様をにらみつけ、重く口を開く。
「銀色のゴーレムが協力してくれるというのは、本当なのか?」
お嬢様はしっかりと頷き、「あそこにいらっしゃいますから」と我の方へ手をかざした。
おっ、これは我の姿をさらせって言うことか。いつのまにか我がお嬢様の戦力としてカウントされていることに驚いたが、お嬢様のことは嫌いではないので、我は力を貸そうではないか。
ふっふっふ、我はゴーレムなり! お嬢様を守護する者なり! ってね。
我は【姿隠し】を解き、公爵の前に姿を現した。公爵は突然現れた我に驚いている。やぁという感じで我は公爵に手を振った。公爵は固まったままだ。
「ゴーレム殿、私と共に戦ってくれるだろうか?」とお嬢様が今更ながらに訊いてくる。
ここで首を横に振るのも面白いかもとむくむくといたずら心が芽生えるが、我は空気をしっかり読めるゴーレムである。お嬢様の問いかけに我はしっかりと首を縦に振り、協力を約束するのだった。
「そうか、銀色のゴーレム、いやゴーレム殿が力を貸してくれるというのであればいいだろう。精霊王様の加護がある人間というのもおとぎ話でしか聞いたことがないが、これもお前の運命なのかもしれないな。公爵家の命運はお前に賭けることにしよう。リルリーゼ、お前の好きなように動きなさい」
「ありがとうございます、お父様」
そう言ってお嬢様は公爵に深く頭を下げた。
ーー1ヶ月後
領地から兵を呼び寄せた公爵は、お嬢様の思惑通り、王の前へと呼び出された。
呼び出されたのは公爵だけであったが、お嬢様も一緒に王の前へとついて行く。王の間では壁一面に近衛騎士団が完全武装で並んでおり、そして王の左右には宰相と近衛騎士団長が立っていた。
王子からお嬢様がいなくなったことを手紙で知らされていたのか、国王はお嬢様の姿を目にして、目を見開いて驚いている。
お嬢様が国王に向かって、「あなたの治世では国がよくなっていかない、私が王になるから退位しなさい」という内容のことを言い放ち退位を迫った。当然、王は「バカなことをいうな。なぜワシが退位をする必要がある! この逆賊めが!! 騎士達よ、この逆賊達を捕らえ、首をはねよ!」と命令を下す。
おお、まるで映画か時代劇を見ているような気分になるな。我はお嬢様の横で、これは歴史では、お嬢様の乱とか、お嬢様クーデターを起こすという風に残ってしまうのではないかとドキドキしてくる!なぜかって、我は今歴史の証人になろうとしているんだぜ! これを喜ばずに何を喜べって言うんだい!!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
焦るな、焦るな。バカップルの時は観戦に徹しすぎて、お嬢様を転送させてしまったのだ。我は歴史の証人になるためにここにいるのではない! 我は歴史の当事者となるためにここにいるのだ! それを忘れてはならいとフンと鼻息もあらく、我は気を引き締める。鼻も呼吸もできないけどさ。
一斉に抜剣する近衛騎士達。お嬢様も抜剣しようとするので、我は手で待てと示す。
待て、お嬢様、まだお嬢様が剣を抜くようなタイミングではないのだ!
ここは我の登場する場面なのだ。ちょっと邪魔をしないでくれ!
我は、近衛騎士達の抜剣に合わせて、ラインライトをお嬢様の前のあたりに発生させた。そして光が消え去ると中からかっこよく我が登場する。どどーんって感じでお嬢様の前で仁王立ちさ!
近衛騎士達はもちろん、王様達も驚いている。みんな動きが止まっている。
ふっふっふ、ラインライトを選んでよかった。我は今、実に満足しているよ!
{ログ:ゴーレムは鑑定された}
我が、いざかかってこいというポーズを取るのと同時に誰かが我を鑑定した。ん、誰だ、我を鑑定したのは。
我がきょろきょろすると、王が突然震えだし、大声で「や、やめよ!!! そ、そ、その銀色のゴーレム、いやゴーレム様に手を出してはならぬ!!!! よいか、決して手を出してはならぬぞ!!! これは前振りではない! 命令である!!!」と叫んだではないか。
前振りではないって、そんなギャグみたいに攻撃してくる騎士がいるのか? 我はちょっと首をかしげた。
騎士団長が王に問いただす。
「なぜ、いきなり攻撃を止められたのですか!? これだけの騎士達でかかれば、ゴーレムと小娘の一人や二人何の問題もないでしょう!!」
王は、その手から一つの指輪を外し、騎士団長に渡す。
「これをつけてゴーレム様を鑑定してみよ。ご、ゴーレム様、どうか騎士団長が鑑定するのをお許しください」
? 我は首をかしげながら、まぁ、鑑定くらい好きにしたらいいよと頷いておいた。騎士団長は王から指輪を受け取り、その手にはめると、我を鑑定してくる。
{ログ:ゴーレムは鑑定された}
「なっ、なんだと!?」騎士団長は驚愕にその目を見開いている。
「わ、わかったか、ご、ゴーレム様が公爵の娘に手を貸すというのであれば、ワシらもそれに従うしかないのだ。わ、ワシはまだ死にたくはない」
「は、はい。わかりました。ご、ゴーレム、様がこれほどの力とスキルを持たれていると知ってしまっては、私も騎士達を無駄に殺すわけにもいきません・・・・・・」
あれ、何? 我のステータスを見てそんなに驚いちゃった? やっぱり、攻撃力255、防御力255とかはこの世界では、そんなにすごいのか。ふっふっふ。ちょっと我は得意になっちゃうよ。
そんな王と騎士団長に向かって、抜剣した騎士の一人から声がかかる。
「団長! なぜ止めるのですか!? たかがゴーレムが1体と小娘が一人です! 我らの力はそれほど信用ならぬのですか!!?」
王と騎士団長は眉間にしわを寄せる。王と騎士団長は頷きあった後、騎士団長が理由を述べた。
「お前達の力を信用するしないの問題ではない! そのゴーレム様と敵対することは、すなわち死ぬことを意味するから止めたのだ! お前達【虐殺】されるぞ!!! そのゴーレム様は【虐殺】のスキルを持っておられる!!! お前達が勝手に死ぬだけならば、あえて止めはせぬが、お前達の家族も友人も皆【虐殺】されてもかまわぬのであればゴーレム様に斬りかかればよい!!!! 国王陛下と私は止めたぞ!!! この国の民が【虐殺】されてお前達に責任がとれるのか!!!」
えっ、ステータスというよりは【虐殺】のスキルの方がまずかったの?
【虐殺】されるぞって・・・・・・、どこのメタル系バンドだ。我はそんなに虐殺しないよ?
こんな愛くるしいメタルボディのゴーレムが【虐殺】するように見えるのか?
我はそんな事を考えて騎士達をぐるりと見回した。
するとなんということでしょう、騎士達は即座に剣を鞘にしまい、その場に跪いたではありませんか。さらに剣を自分の前に横に置き、恭順の姿勢を示してきます。
ええぇえええええ!? マジか!? なに、この状況。騎士達の鎧からガチャガチャと音が聞こえてくる。みんな震えているのだ。さきほど、団長に質問した騎士が突然、ゴツっと頭を地面に付けひれ伏した。
「ご、ゴーレム様、先ほどは失礼致しました。ど、どうか、家族には手を出さないでください。私の命だけでさきほどの非礼が許されるとは思いませんが、どうか、私の命だけでお許しください!!!」
お嬢様も、公爵も、ぽかーんとしている。いざ、王の首をはねんと決死の思いで臨んでみて、結果がこれだとそんな表情にもなってしまうか。我だってまさかこんな事になろうとは。これでは、まるで印籠みたいだよ。
王がお嬢様に声をかける。
「リ、リルリーゼ。ワシは次の王におぬしを指名して退位する。だから、どうか、ワシも、ここにいるすべての騎士達にも、寛大な処置をお願いしたい。ワシは王国の端に死なぬ程度の食い扶持が得られる領地をもらえれば、それだけでよい」
お嬢様は、わかりました、と声をかける。こうしてお嬢様のクーデターはあっけなく成功した。あとでお嬢様から、【虐殺】というのは伝説の魔王だけが持っていた最恐のスキルだと教えられ、我はかなりショックを受けた。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}
国王の退位とお嬢様の即位は国民にはあっさりと受け入れられる。
お嬢様が光の精霊王の加護を受けたと言う話が国中に拡がったのも、国民がお嬢様を支持した一因だろう。お嬢様の即位の際、国民の前で演説をした際には我もちょっとした演出に協力をした。お嬢様の周りにラインライトを発生させ、光に包まれる女王を演出したのだ。さらに演説の終わりと同時にラインライトを天高くへと打ち上げた。ふっふっふ、イカした演出だ!
あとでお嬢様からやりすぎだと怒られた。
{称号【女王の守護者】を得ました}
{称号【女王の守護者】を得たことにより、スキル【バリア】を得ました}
お、おお! 久々の新しい称号だ! しかも新しいスキルは【バリア】か。心躍るではないか! ちょっと非接触と似てるのかとも思ったけど、今度使ってみよう。
お嬢様の仕事っぷりを側で見つつ、時折スラムに行って子供達の様子を見たり、教会に行って司祭に見つかって慌てたりと王都での日々が過ぎていく。しかし、我は大事なことを思い出したので王都から旅立つことにした。
お嬢様も大丈夫そうだし、我は内政に興味がないのだ。シムシティも続けられないくらいなのだ。それに早くしないと見れなくなってしまう可能性がある。すでにかなり時間が経っているけど、間に合って欲しい。
我はお嬢様に別れを告げ、王都を旅立つ。お嬢様とメイド達が涙を目にためつつ見送ってくれる。我はぬかりなくラインライトを発生させ、かっこよくその場を後にしたのだった。
お嬢様はその後「光の女王」と呼ばれ、ヴィディー王国は平和と調和を掲げた国へと生まれ変わっていっているらしいと、我は遠く離れた大陸で聞くことになる。
◆
間に合え、間に合ってくれと我は学園都市へと急ぐ。
今までにないくらいの速度で我は駆ける。
学園都市についた我は、イチャコと王子、いや、元王子の姿を探す。しかし、そこにはすでに彼らの姿はなかった。
もっと、もっと早く気付いていれば。もっと、もっと早く思い出していればと悔やんでも悔やみきれない。そう、我はバカップルの結末を見逃してしまったのだ!
ぷぷぷと笑える結末だったかもしれない。ざまぁと思える結末だったかもしれない。はたまた純愛ラブストーリーを突き進んだかもしれない。
逃した魚は大きい。
我は肩を落とし、静かに貿易都市兼学園都市ザイホードを後にするのだった。




