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第50話 お嬢様との長い会話

我はゴーレムなり。


森の木々の隙間から光が当たるポジションを見極めそっと座る。いい感じの自然光が入るように、ちょっとだけラインライトで木々の枝を蹴散らしたのは内緒だ。


お嬢様とメイド達が目を覚ました。そして、我の方を見る。ちょうど朝日が反射して眩しかったのか、目を背けられてしまった。なんということだ、きらきらと輝く我のメタルボディを見て、「まぁ、素敵」となる予定だったのに。


ままならぬ。ままならぬからこそ、生きていると言えるのではなかろうか。



朝ご飯とかどうするのかなって思っていたら、メイドがカロリーメイトのような非常食を取り出したではないか。どこから取り出したんだと思っていたら、メイドたちのエプロンは魔法のエプロンらしい。エプロンのポケットからヤカンを取り出し、水魔法で水を入れ、集めた木の枝に火魔法で火をつけてお湯を沸かし始めた。


なんと! 我はてっきり、ドジっ娘メイドかと思っていたけど、ちゃんと仕事のできるメイドのようだ。我にも食べますかと聞いてきたが、食べれないので断った。


それでどうするのかなと思っていたら、お嬢様が解説をしてくれはじめた。


なんでもここは王子が言っていたように世界の最果てと呼ばれる大陸らしい。このあたりの森はまだ浅いところらしく、生息する生物たちも1匹1匹ならお嬢様でも何とかなるレベルだが、昨日の猿のようにまとまってこられると無理なのだそうだ。なんとか川を見つけ出し、海岸を目指そうとなった。海岸に沿って進むことで、港町へと辿り着きたいということらしい。


世界の果てと呼ばれていても港町があるのかと疑問に思っていたら、お嬢様が察してくれた。この大陸で採れる魔物の素材や鉱石は貴重なものがあるので、冒険者が来ることが多いらしい。なるほどね、ラストダンジョン後に来れるようになる町のようなものか。やはり、このお嬢様はなかなかできる子だったようだ。


さて、そんなこんなで、森の中を川を探して歩いている。だけど、なかなか見つからない。たまにじゃれついてくる猿や蛇は我がパシッと叩いて追い払っていく。どうしたものかね。


森の中を歩いているだけだが、お嬢様とメイド達は結構疲れが溜まるらしい。仕方ないね、人間だもの。お嬢様がメイド達を励ましながら進んでいる。メイド達はがんばっているけど辛そうだ。日が暮れる前だが休んだ方がよさそうだ。


我はそろそろ休もうと、お嬢様とメイド達に提案し、本日はここまでで休むこととなった。夜になった。メイド達はよほど疲れているのだろう。すーすーと静かに寝息を立てている。


たき火を間にして、お嬢様が我に話しかけてきた。


「銀色のゴーレム、私が学園の寮に入った日、私はあなたを初めて見た。勝手にエレベータに乗り込んできて、勝手に私の部屋に入ってきたのには驚いた。そして部屋の中を一通り見て回りおじぎをして出て行った事を覚えている。あなたが出て行った後に、あなたの姿が見えたかとエルザとシュシュア、あの二人のメイドに聞いたが、見えていなかった。最初は私にだけ見える幻なのかと思っていた」


お、おぅ。やっぱりお嬢様には我が最初から見えていたよ。なんか、過去の悪さを暴かれているようで実に居心地が悪い。


「でも、入学式の日に列の最後尾について入ってくるあなたを見て、やはり幻ではないと思うようになった。体力測定の時も反復横跳びで風を巻き起こしたり、100メル走を何回も走ったり、このゴーレムは何がしたいのか私にはさっぱり理解できなかった」


そ、そんなに見えていたのなら声をかけてくれればよかったのに。何それ、超恥ずかしいのだけど。


「魔物狩り演習のキャンプにもあなたはついてきていた。夜、我々だけで相手にしたらかなり被害が出てしまいそうなキングブラックパンサーをあなたが人知れず追い払ってくれている姿を見た」


ま、マジか!? あの黒い虎の時もお嬢様は気付いていたのか!? 我ってば全く気付かなかった。お嬢様、畏るべし! お嬢様は伊達にお嬢様をしてないぜ!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}


「そして、以前母と妹から聞いた話を思い出した」


母と妹? 我の知り合いなんてほとんどいないんだけど、誰さ?


「私の母と妹が乗っていた客船が、海賊船に襲われて、もうだめだと思った時に、銀色の人形が海賊達に襲いかかり返り血を浴びながら何人も殺し、海賊船も簡単に沈めてしまったという話を。人形は海賊達を殺戮したことで満足したのか、母たちに興味を示さず去って行ったので助かったと聞かされた」


なんと、やはり、あの時の縦ロール少女はお嬢様の妹だったか。縦ロールは貴族の証なのだろう。きっと貴族として譲れぬ髪型が縦ロールなのだ。


「妹はすごい怖がっていたし、母も恐ろしがっていたけれど、私はその話を聞いて、人形は海賊達から客船を助けてくれる為に現れたのではないかと思った。でも、そんな人形が本当にいるのかと疑問に思ったことも覚えている。キングブラックパンサーを追い払ってくれたあなたを見て本当にいたのかと納得することができた」


やっぱり、縦ロール少女にはトラウマを与えていたか、申し訳ない。でも、生かしておいても海賊達は別の誰かを襲いそうだったので殺したことに後悔はない。


「母と妹に代わって、お礼を言いたい。本当にありがとう。おかげで今も母と妹に会うことができる」


我はうむと厳かに頷く。改めてお礼を言われると照れくさい。


「それからは私は、あなたが何をするために学園にいるのかと思い、目で追うようになった。メスラードが自分で机や下駄箱を汚しても、それをせっせときれいにするあなたの行動も時折見ていた。私には何の為にしていたのかはわからない」


うむ、単なる我の趣味とは思わないだろう。イチャコに関しては完全に我の負けず嫌いな心故だ。わかろうはずもない。最初はいじめられている子がいるのなら、少しでもイヤな思いをしないようにという我の優しさ故だったが、自作自演だったので方針を転換したからね。


「そして今回の王子に転送させられた私たち追いかけて助けに来てくれて、本当にありがとう」


お嬢様は居住まいを正し、深く頭を下げた。我はその様子をじっと見ていた。


「私たちだけでは、あの猿どもに囲まれた時にやられていた。私にはまだやるべき事があるから、まだ死ぬわけにはいかない。私の一方的なお願いで申し訳ないが、もう少し私たちと一緒に行動をして助けてもらえないだろうか」


お嬢様が我の目をじっと見てくる。我は是を表すためにゆっくりと頷く。お嬢様はそんな我を見て、「ありがとう」と言って眠りについた。


我はそんなお嬢様を見て思う。このお嬢様ガチでスペックが高い。マジか、我が人間だったときに、お嬢様くらいの年齢でこんなにしっかりしていただろうか、いや、していない。立場がお嬢様をここまでしたのか、お嬢様だからここまで強くなれたのか、その両方なのかな。


少しの間、お嬢様がどう行動して行くのかを側で見ていこうと、我はたき火の炎を見つめながら静かに思った。



ーー2日後


森の中を歩けど、川に出くわさない。川ってあるのだろうか。心配になってくる。メイドはもちろん、お嬢様も疲れが隠せていない。


はっ!? 精霊に聞けばいいんでは!?


我ってばうっかりしていた。ドンマイ、ドンマイ。たまに精霊達に挨拶されていたんだけどね。


ということで精霊に聞いてみました。突如、精霊とジェスチャーを始めた我にお嬢様とメイド達は、えっ、何という視線を向けてくる。疲れているのか、そんなに大きなリアクションを取ることはない。


我が川ってどこにあるの? とジェスチャーで聞くと、うーんうーんと悩む精霊。なかなか伝わらない。我はなおも必死に聞く。悩む精霊は、周りの精霊に助けを求めた。川って知らない? 水が流れている所なんだけど? とジェスチャーをするも、なかなか伝わらない。難しいな。


20分ほど精霊達とやりとりをしていると、我の周りにはいつのまにかすごい精霊が集まってきているではないか。びっくりした。


お嬢様やメイド達は近くの木陰で休んでいるけど、我の周りの様子に驚いている。精霊達も我のジェスチャーを解読するために、姿隠しをいつのまにか解いて悩んでいるために、彼女たちにも姿が見えているのだろう。


そんな中、精霊達の中の一人がわかったよ、ついてこいって感じで我にアピールしてくる。ようやくか、ようやくわかってくれたのか。我はうむうむと頷き、お嬢様とメイド達に着いてくるように身振りで伝えるのだった。



案内された場所は川ではなかった。これはどういうことだろう。でっかい木だ。幹もふとくてがっしりしている。実はなっていないが、所々にきれいな花が咲いている。我を先導するように進んでいた精霊達が一斉にでっかい木へと帰っていった。


えっ、ちょっと待ってよ! 川だよ。我は川に行きたいのだよ!

なんてこった!? だまされた!? 我の思いは精霊達に全く伝わっていなかったよ。どんよりとした雰囲気を漂わす我。でも、お嬢様とメイド達には好評のようだ。


「なんて立派な樹なのだ。こんな樹は初めて見た」

「えぇ、とても暖かい力をこの樹からは感じます」

「それにちょっと疲れがとれていくような気がしますね」


? ほんとなのだろうか? 3人の表情を見る限り嘘を言っている様子でもないし、我をきづかっている様子でもない。我にはよくわからないが、3人は本当にそう感じているみたいだ。


エルフっぽいメイドのエルザが「もしかするとここは精霊の住処なのかもしれませんね」と言うのを聞いて、我はマブダチの事を思い出したのだった。


そうさ、困ったときにはマブダチに相談するのだ!

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