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第48話 世界の果てへ

我はゴーレムなり。


我は毎日学園に通っている。いや、学園内で寝起きをしているので、通っているというのも少し違うかもしれない。


そんな中、とうとうイベントが発生したようだ。我はこの日の為に学園に来たと言っても過言ではない!


お嬢様が放課後、ほとんど人が来ることのない学園の裏庭に呼び出されたのだ。我は基本、学園中を巡回しているので、どこに人の来ないスペースがあるかとか、ぼっちの人がよく休んでいる階段とか、黄昏れてしまう人がよく訪れる屋上とか、この学園のホットスポットにはかなり詳しい。


裏庭はきれいに整備されているのだが、学園の端の方にあってかなり遠いから人が来ない。我はそんな裏庭に向かうお嬢様の尾行を開始する。


尾行をしていて気付いたのだが、我以外にもお嬢様の後を付けている者がいる。お嬢様のおつきのメイド2人だ。だが、それも仕方がない。メイドたちも学園生活が暇なのだろう。私たちだって楽しんでいいじゃない! ってことなのさ、きっと。まぁ、お嬢様の告白イベントをのぞき見るとは、なんとも趣味の悪いことだと思うけどね。


好奇心とは罪なものだ。



裏庭に到着した。そこに待っていたのは、イチャコと王子の二人だった。あれ? これはすこし我の思い描いていた方向とは違うイベントの発生だ。


我はてっきり、「お嬢様、あなたのことが好きなのです!」「ダメよ、私にはすでに婚約者がいるのですから」「でも、俺はお嬢様のことしか考えられません!」みたいなイベントが巻き起こるのかと思っていたのだけど・・・・・・。



でも、これはこれでアリだ!


我はイチャコと王子の二人と、お嬢様のちょうど中間地点まで進み出る。イチャコと王子には我の姿が見えていないからね、この特等席で見せてもらおう。さらに我のすごいところは、ちゃんとメイド達の顔が見えるポジションに立っているのだ! これで、バカップルとお嬢様、のぞき魔のメイド達の全員を一望できる。ナイスポジショニング!


我が一人うんうんと頷いていると、お嬢様が、半眼で我をじーっと見てくる。なんかバカップルに対する視線よりもきつくないか。いや、気のせいだろう。我は何の邪魔もしていないのだから。我がここに立っていて悪い理由もないだろう。


さぁ、思う存分始めるがいい!

ワクワクが止まらない!

あぁ、この場の雰囲気にあった緊張感あふれる音楽が流れて欲しい!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}



王子がイチャコを庇いながら、お嬢様を非難し始めた。なんでもお嬢様がイチャコをいじめているらしい。うーん、お嬢様はイチャコをいじめてないけどね。イチャコの自作自演はあの後も続いていたけど、我もがんばってきれいにしたり、復元したりしたので、最近ではイチャコの持ち物だけが異様に輝いているのだ。もうキラッキラッだ。


いつ我に【掃除の帝王】という称号が世界から当てられてもおかしくないくらいに、この1年は掃除にいそしんだものであった。


おっと、話がそれた。そんな自称いじめられているイチャコがいつも王子に泣きついてきて、王子は毎日慰めているらしい。お嬢様にイチャコをいじめるのをやめろ。そんなにも王子とイチャコがくっつくのがイヤなのか! そんなにも王妃という立場が欲しいのか! 王子とイチャコの愛し合うラブストーリーを邪魔するなと騒ぎ立てている。


ふむふむ、なるほどね。王子とイチャコはバカップルで完全に二人の世界で生きていることがよくわかる。王子なのだったら、婚約者のお嬢様を大切にするべきだろうに。あと、このお嬢様はあんまり王子様のことを大好きってわけでもなさそうなのだ。我は一年間一緒の教室で共に学んでいたので何となくわかるのさ。


あっ、メイドの2人がぐぬぬって表情で、私たちのお嬢様がそんなことをするはずがないでしょと怒っている!


やはり我のポジショニングは間違っていなかった。うんうん、いいねいいねと一人頷いていると、お嬢様はバカップルではなく、我の方を見ているではないか!? なんとお嬢様らしくない行動だろう。目の前の事に集中すべきだろうに。


我の事など気にしている場合ではなかろう!

さぁ、遠慮なくバカップルとやり合うのだ!


我は必死にこの願いを、この思いをお嬢様に伝えようとジェスチャーをする。ボクシングの審判のように、ファイ、ファイと両手をクロスさせるが、お嬢様には伝わらない。くそぉ、なんと、もどかしいのだ! 言葉が、思いが伝わらないのは、なんとももどかしいな!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}



お嬢様がようやくバカップルに向き合い、私はそんなことをしておりません、イチャコにわざわざそんな嫌がらせをするほど王子のことを意識しておりません、私はこの国を立て直すために王子と婚約したのです、すべては傾いていくこの国を何とかするためです、それが公爵の娘たる私のつとめです、と話している。


な、なんと、お嬢様は本当にお嬢様だった。公爵の娘だったのか。我と一年間共に学んだというのに、公爵令嬢という立場を隠しきるとは、なかなかやるではないか! メイドが二人いる理由も納得だね。



さぁ、どうする? バカップルをちらりと見る。

さぁ、どうなる? お嬢様をちらりと見る。

さぁ、どうみる? のぞき魔のメイド達をちらりと見る。


動いたのは、バカップルの片割れ王子だ。なんかその手にはあまりよろしくない雰囲気を醸し出す水晶玉のようなものを持っている。なんなのだろう、あれは。しかし、心配する事なかれ、我のゴーレムアイならあんなアイテムの効果はお見通しなのだ!


{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}


くそ、やはり、無理か。そろそろ異世界に十分になじんだ頃なので、ノリで言ってみれば使えるのではないかと考えたのは甘かったようだ。やはり我にはゴーレムアイが使えぬのか。世界の声は的確な仕事をしてくれるぜ。


そんな我の嘆きは関係なく、目の前ではイベントが進んでいく。


王子が得意げに語り始めた。これは転送の水晶球だ、これでお前を世界の果てに飛ばしてやる、二度と帰ってくることはできまい、みたいなことを言っている。


我の思った通りだ。こういうアイテムを使うヤツは何故か自分で説明をしてくれるのだ。黙って使えばいいと思うのだが、説明しなければならないという様式美でもあるのだろうか。いやいや、そんなことを思ってはいけない。説明した方が、相手の反応を楽しむことができるからな、ある意味上級テクニックなのだろう。


お嬢様はそんな王子の言葉に眉をひそめる。そんなことをして大丈夫だと思っているのですか、と。我もその意見に賛成だ。公爵令嬢を世界の果てに飛ばすとか、王子様の頭は大丈夫なのだろうか。


王子は得意げに、転送された証拠はどこにも残らない。これは黒の魔女から学園に入る前にもらった特別製だ。お前一人がいなくなってもどうとでも理由はつけられると語ってくる。


なんと!? こんなところで黒の魔女の名を聞くことになろうとは。あのろくでもない魔女は、なんというアイテムを王子に渡しているのだろう。お嬢様が王妃になったら、あの魔女もやりにくいだろうから、すごく考えて渡したのかもしれないな。


それにしても、なんだ、王子のこの自信は。こんなバカな王子のマネはしたくないが、あれだけ根拠のない自信を持てるのは一つの才能だ。我も見習うべきなのかもしれない。



おっと、忘れてはいけない。イチャコの表情も確認しておかないと。


そんな王子の後ろに隠れているイチャコ。その笑顔がにやにやしているのが少し腹立たしい。くそぉ、昼ドラを見ている気分になる。昼ドラはもっとドロドロしているけど、それに負けていないぜ!


さらばだ、と声を上げて水晶をお嬢様の足下にたたきつけた。お嬢様の足下で広がる魔法陣。お嬢様は落ち着いた様子で、魔法陣から離れようとする。しかし、メイドの二人がお嬢様と叫んで、お嬢様のもとへ走っていく。えっ、なんであなたたちがいるの、と驚くお嬢様。


あぁ!?


驚いたからお嬢様が魔法陣から逃げるのがちょっと遅れた。さらにメイドがお嬢様に抱きついた! お嬢様が身動きができなくなった。お嬢様一人ならあんな魔法陣かわせたのに。当たらなければ関係なかったのに。魔法陣の転送が開始されてしまうぞ! どうなる、どうなるのだ、お嬢様!?


キュイーンと魔法陣が光輝き、お嬢様達は転送されてしまった。


後に残っていたのは、イチャコと王子のバカップル二人だけだった。その二人は互いに見つめ合い、これで邪魔者はいなくなったなと抱きしめ合うのだった。

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