第46話 貿易都市兼学園都市ザイホード
我はゴーレムなり。
王城での事件は、我にとってなんともやるせない事件だった。
振り返ってみるとピンキーとの約束もあまり果たせなかった。人魚の国で売り払われたという人数と比較すると、売り払われた人魚はそのほとんどが王城に集められていたようだったな。もう他には残っていないと考えて良いだろう。
結局救えた人魚は、商船で出会った3人だけだ。我がもっと早く王城に着いていたら、もっと助けることはできたろうか。うーん、厳しいだろうな。あれだけの人魚をどうやって海まで連れて行く? いや、今更そんなことを考えても仕方が無い。我は所詮ただのゴーレムだ。万能でもなければ、神のような目もないのだから。すべてを救えるなんて思うのは、驕り以外のなにものでもない。
はぁ、とため息の一つもつきたくなる。つけないけど。
すまぬな、ピンキーよ。
こうして、売り払われた人魚の件は、なんとも後味の悪い終わり方になってしまった。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、悲痛状態が解消しました}
そんな我は王都で仕入れた情報を基にとある場所を目指している。最初は、深く霧に包まれた大陸ジョーイサにあるという迷宮にでも行ってみようかとも思ったが、ちょっと遠い。王都から北西に行った海に近いところに貿易都市ザイホードがあるそうだ。またの名を学園都市ザイホードという。そこには大きな学園もあるらしい。その学園では13歳から18歳くらいまでの者が入学して魔法や戦い方など色々な事を学んでいるとのことだ。
貿易都市だけあって、王国以外からも結構な数の者達が入学するのだそうだ。もちろん人間以外の種族も入っている。なんというか、楽しそうじゃねと思い、我は学園へと向かうことにした。もしかしたら、学園ラブコメとかが見れるかもしれない。最近流行ってるらしい昼ドラばりのどろどろ婚約破棄系もあるかもって思いながら、うひょーって浮かれてワクワクしながら学園へ向かうのだった。
ーー6ヶ月後
ふー、ようやく貿易都市についた。
王都からここまで6ヶ月もかかってしまった。あちこち道草をしてしまったので仕方ない。だって、我を呼ぶ声がしたんだから。『ちょっと待って、ゴーレム、 あっちに行った方が面白いんじゃない? 学園都市は逃げないけど、あれはこの機会を逃したら2度と出会うことがないかもしれないよ!』って我の内なる悪魔がささやいたのだ。
我の中に内なる悪魔がいれば、もちろん内なる天使もいる。内なる天使は『それもそうだ。学園都市はまだまだ大丈夫。むしろ新学期くらいを狙っていった方がいいよ。入学イベントから入った方が面白いんじゃない。あっちに行っちゃいなよ』と勧めてくるのだ。
我の内なる悪魔と天使がそろって勧めてくる。くそ、我の鋼の意思も揺らいでいくぜ。
悪魔と天使がささやく。
『やらずに後悔するより』『やって後悔したほうが』『『かっこいいんじゃない』』
と、見事に声をそろえてささやいてきたのだ。くっそ、その通りさ! 我は何を迷っているのだ! 起こるかもしれない面白いことよりも、目の前に起こっている面白いことに飛び込むんだ! それで後悔したっていいじゃないか! たった一度の人生なんだから!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
あっ、我はゴーレムだから、ゴーレム生だ。まぁ、よい。目の前の事を大事にしようと思い、我は結果として6ヶ月も回り道をしてしまった。ドンマイドンマイ。面白かったからいいじゃないか。
回り道のおかげで新たな称号【竜のトモダチ】をゲットした。そして【ブレス】というスキルもゲットした。しかし我には口がないのでブレスを使うことができ なかった。なんだ、それ。【遠吠え】といい、【ブレス】といい、まったく使えぬとは。いったい世界は我に何を期待しているのであろうか。
それはまた別のお話だ。
今は目の前に見える貿易都市、いや、学園都市ザイホードに集中しようではないか!
貿易都市だから、金と欲望が渦巻いているだろう。心のきれいな大人はおるまい。学生の中に我の姿が見える者がいるかもしれない。だが、13歳以上なのだ。 そんなに心のきれいなヤツもおるまい。思春期まっただ中の子供達の心だ、きっとよからぬことを考えて汚れ始めていることだろう。
ふっふっふ。そう考えれば【姿隠し】を使っておけば何の問題もないであろう。
いざ、行かん! 学園へ。
ーー学園前
学園の前に来ると門が閉じられている。門には何か貼り紙が1枚貼り付けられている。
? 何? どういう事だ!?
ま、まさか、閉校か!? つぶれちゃったか!? 我が寄り道しちゃったばかりにつぶれちゃったのか!!?
ありえぬ!! 我が王都で聞いた話では、歴史と伝統のある学園で100年ほどの歴史があるって話だったよ! どんだけ無能なのさ、今の理事長! いや、学園長なのか! うぉおおお、勘弁してよ! マジ? ホント? どっきりだったら、フリップを持って早く出てきてよ、我は今なら怒らないからさ!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
うーむ、なんということだ。こんなところで、始まる前に学園編が終わってしまうのか。我のドキドキワクワクの学園ライフが・・・・・・。我は力なく肩を落とし、門に貼られた貼り紙を見つめ続けるのであった。
すると後ろに一台の馬車が止まった。御者が一人降りて、貼り紙を確認して、馬車へと戻った。そして、馬車の中へと声をかける。
「お嬢様、どうやら今まで使われていた校舎は古くなったので、新しく都市の外側に大きな校舎と宿舎が建てられたそうです。今年からそちらで授業が行われるようです。それでは出発しますね」
!!? ワフー! 聞いた。聞こえちゃった! 何だ。学園がなくなったわけじゃないんだな。新しい大きい校舎ができたのか。ふっふっふ、我の回り道は無駄ではなかったようだ。新しい校舎とかいいよ。そこで巻き起こる青春の数々のイベント。それこそが我の求めるものだ。
我は、さっと動き出した馬車の上に登り、新たな校舎となった学園を目指すのであった。
ザイホードの街から少し離れた所に、学園は建っていた。これが学園かよ。超広い。そりゃ街中に作れませんな。グラウンドも広いし、校舎もかなりでかい。奥 にあるのが学生たちが入る宿舎だろう。なんという金持ちの学園なんだ。どれだけの学費を取っているんだろうか。歴史と伝統は伊達じゃなかったって事か。
お嬢様の馬車は宿舎前まで乗り付ける。馬車の中からは、まずメイドが降りてきた。2人だ。1人は耳が少しとがっているエルフっぽいメイド。もう1人は普通 の人間のメイド。お嬢様は身分が高いのか、メイドの2人はかなり整った顔をしている。女優みたいだ。そして、最後にお嬢様が降りてきた。ちょっときつい目をしているけど、かなりきれいな顔をしたお嬢様だ。そして縦ロール。ドリルヘアーだ。
・・・・・・あっ、あの海賊船に襲われていた商船に乗っていた縦ロールの子に似てる。似てるけど、こんなに身長が伸びるはずもないし。別人だね。あの子だったら大変だった。あの子には血まみれの我の姿を見られているから、トラウマになっているかもしれないからな。別人で良かった。
我も静かに馬車から降りる。お嬢様が宿舎の中に入っていくのでその後に続いて入っていく。学生の宿舎なのに、超広い。なんだこれ。どこの一流ホテルだよ。 どういう仕組みなのかわからないけど、エレベータもある。マジか。異世界畏るべし。お嬢様達が中に入る。ドアが閉まる前に我もエレベータの中に駆け込む。 危なかった。挟まれるところだった。
ん、なんか視線を感じる。振り返るとお嬢様だけが我をいぶかしげな表情で見ている気がする。うーん、もしかして見えているのだろうか、いや、そんなはずはない。声にも出さないし、触ってこようともしない。つまりは、見えていないのだろう。やっぱり、なんか鬱屈したものが心の中に溜まっているんだろうな。 ちょっときつい顔で人生損してるのかもなと思い、我は1人静かに頷いていた。
さて、せっかくだ。お嬢様がどんな部屋に住むのか見せてもらおう。人の部屋に勝手に忍び込むのは気がひけるけど、これから住み始める新しい部屋に一緒に入って見せてもらうんなら大丈夫なのではなかろうか。
メイドの2人が部屋に入る。お嬢様も部屋に入る。我も部屋に入る。うわ、超広い! ホテルのスウィートルームなんて利用したことがないけど、これがスウィートルームというものなのではないだろうか。
1人テンションが上がって部屋の中を色々と見て回る。おお、メイド達用の部屋もあるよ。さすがだな。お嬢様はひと味違うぜ!
我は一通り見学させてもらうと、お嬢様に向かってありがとうの気持ちを込めておじぎをし、そっと部屋から出て行った。我が部屋の中を見て回っている時、たまにお嬢様が我を見ているような気がしたけど、気のせいだろう。もしかして見えてたのかもね。確認する方法がないけどさ。
「ねぇ、エルザにシュシュア」
「はい、何でしょうかお嬢様?」
「あなた達、さっきまで銀色のゴーレムがいたのを気がついている?」
「? 銀色の、ゴーレムですか?」
「すいません、何のことでしょうか?」
「・・・・・・いえ、いいわ。忘れてちょうだい」




