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SS第11話 素敵な夜

私はメマリーア。


ヴィディー王国の王都にある教会でシスターをやってます。

22歳の乙女です。


10年ほど前から王国はちょっと雰囲気が変わりました。とても雰囲気が悪いです。隣国との戦争を繰り広げてばかりいます。この間も戦争があり多くの男の人が兵士として連れて行かれました。そして、その多くが帰ってくることはありませんでした。王都には孤児が増える一方です。


私たちの教会では週に1度だけ炊き出しをしています。本当は毎日でもしてあげたいのですが、お金もありませんし、お布施もどんどん少なくなっていく一方です。女司祭のアンナ様が王様や貴族達に頭を下げて、少ない援助をもらって細々となんとか運営できているのが実情です。


炊き出しの後に孤児の子供達に神の教えを説くので、子供達の名前や顔も覚えているのですが、突然来なくなる子供達がいます。どうかしたの?、何かあったの?、と聞くと連れて行かれちゃったとうつむきながら答えます。どうやら人攫いが孤児が増えると、これ幸いにと攫っていくそうなのです。司祭様にも相談し、騎士団や自衛団の方にも、見回りや攫われた孤児を助けられないかとお願いをしましたが、きちんと取り合ってはもらえませんでした。


むしろ孤児がいなくなってよかったという騎士様の声を聞いたことがあります。私は悔しくて涙がでました。できるだけ孤児達の見回りをするようにしていたのですが、一人でスラムに行くのはおやめなさいと、司祭様に禁止されてしまいました。



そんなある日の夜。私はいつもの如く、一人で神への祈りを捧げていると突然、夜空が明るくなりました。私は慌てて教会の建物の外にでてみました。すると王都の上空に輝く巨大な光の柱が浮かんでいるではありませんか!?


そして、光の柱は一本、また一本と地面へと降り注いでいきます。地面にあたった音でしょうか、チュドン!、チュドン!という轟音がここまで響いてきます。司祭様がいつのまにか私の隣にいて、肩を抱いてくださっていました。私はその光景にいつのまにか震えていたようです。


「神に祈りましょう」という司祭様の言葉を聞いて、司祭様と一緒に神に祈りました。



ーー翌朝


昨日の光は悪い噂の絶えない伯爵の屋敷の上空で発生していたそうです。


なんでも伯爵の屋敷を見に行った人の話によると、屋敷の庭には底の見えない大きな穴がいくつも開いていたとのことでした。さらに伯爵の屋敷では孤児の子供や冒険者の女性達が捕らわれていたそうで、あの騒ぎのおかげで、囚われていた者達がみんな助けられたそうです。


悪い噂のあった伯爵の家には調査が入りました。屋敷の中からは見るも無惨な姿になったおびただしい遺体が見つかったそうです。調査に入った騎士様の中にもその光景を見て吐いてしまう方が多かったと噂になりました。


もしかすると、あの光の柱は神様が、屋敷に囚われて殺されてしまった人たちの無念の声を聞き届けて起こしてくださった奇蹟なのかもしれません。私は亡くなられた人たちの冥福を祈りました。


炊き出しをすると、元気に孤児の子供達が集まってきました。伯爵の屋敷でも孤児が見つかったということだったので心配していたのですが、大丈夫だったみたいです。安心しました。


炊き出しの後に、神の教えを説くために、子供達を集めて話を始めようとしたら、子供達がうれしそうに昨日の夜の出来事を話してくれました。


「私たちね、悪い人につかまっちゃったの」と、いきなり小さい子供から聞かされて私はものすごく驚きました。驚いていると次から次へと子供達が話しかけてきます。


「でね、牢屋の中に閉じ込められたの。だから泣いちゃった」

「僕は泣いてないよ!」

「嘘だー! 泣いてたよ」

「みんな泣いてたら、突然、銀色の人形が現れたんだよな」

「僕は泣いてないってば!」

「うん、それでドアを壊して牢屋から出してくれたの!」

「女の大人の人たちも何人も捕まっててね」

「一緒に助けてくれたのよね」

「うん、そうなの!」

「外に出たら怖そうな大人がいっぱいいて、オレたちを脅かしてきたんだぜ」

「でもね、銀色の人形さんがね、私たちの前に出てくれてね、ピカッと光を出したの!!」

「そしたら、怖い大人達がイタイ、イタイと泣いて転がり始めたんだよな」

「それでもわめくえらそうなやせっぱちな人がいたんだ」

「人形さんが手を上げると、空が明るくなったんだよ!」

「光の柱が空に浮かんでた!」

「人形さんが手を下げたら、光の柱が空から地面にチュドーンって落ちてきたの!!」

「すごかったんだから! 」

「ほんとすごかったね! 」

「もう一度みたいって言ったら一杯やって見せてくれたよな!」

「うん、チュドン! チュドン! って一杯やってくれた!!」

「楽しかったね!」

「うん」

「楽しかった!」

「で、鎧の人たちが来たら、銀色の人形さんはどっか行っちゃった」

「また会えるかな?」

「会いたいねー!」

「うん、会いたい!」


われもわれもとみんなが一斉に話しかけてきたので私はちょっと混乱してしまいました。子供達の話をまとめると、銀色の人形が、牢屋から助け出してくれ、光の柱もその銀色の人形さんが操っていたそうです。


そんな事があるのでしょうか。そういえば、少し前に、アセリッシュ山で不思議な発光現象があったと噂になりました。もしかすると銀色の人形と何か関係があるのかもしれません。


子供達がまたねーと元気よく帰って行きます。私は子供たちから聞いた話を司祭様に話しました。そんなことがあるのでしょうかと尋ねる私に、司祭様はにこりとほほえみ答えてくれました。


「ありますよ。神はいつでも私たちを見守ってくれているのですから」



ーーその夜


私はいつものように、一人で神への祈りを捧げ、教会の戸締まりを確認して、眠りにつこうとしていました。ふと、外を見ると銀色の何かが塀の側に佇んでいます。ひっと声が出そうになりましたが、私は必死で声を殺し、司祭様を呼びに行きました。


司祭様を呼んできて一緒に外を見ます。銀色の人形が先ほどとは違う場所に立っていました。塀に手をあててじっと立っています。何をしているのでしょうか。全くわかりません。


すると銀色の人形は突然きょろきょろあたりを見回します。ひょっとして私たちが見ていることに気付いたのかもしれません。ちょっと緊張します。でも、人形は再び壁に手をつきじっとしているようなので安心しました。


司祭様がおっしゃるには、あの銀色の人形は悪いモノではないみたいです。


「かなり暗いけどよく見てみなさい。傷んでいた塀が直っているでしょう」

と、司祭様が塀を指さして私に教えてくれます。


私は驚きました。確かに塀のあのあたりは少し崩れていたのですが、今はきれいに直っています!


「あの人形様が直してくれているのかもしれないわね」

と、司祭様が私に優しくほほえみました。


銀色の人形は塀を一通り直し終えたのか、教会の建物にも近づいてきます。銀色の人形が建物に手を触れると建物の傷も直っていきます! 私は目の前の光景に呆然としてしまいますが、昼間、子供達が言っていたことは本当のことだったに違いありません! 疑ってごめんね。


さらに銀色の人形様は屋根に登って行かれました。司祭様が銀色の人形様が屋根に登った隙に、正面の扉の鍵を外しました。


「こうしておけば、中に入ってきてくれるかもしれないでしょ」

と、司祭様がお茶目に笑ったのが印象的です。その後は、私と司祭様が普段寝ている部屋に戻り、その部屋の中から、そっと正面の扉の様子をうかがっていました。


すると、本当に銀色の人形様が入ってきました。人形様は痛んだ長イスを全部直していってくれています。壁をするすると登ったと思ったら、ステンドグラスもきれいに直してくれました。


さらに、私が教会にお世話になった時から壊れていた神様の石像の前でちょっと佇んでいます。さすがにあれだけ壊れていて古いと直せないのかもしれません。


でも人形様は石像に触れられてじっとされています。なんと石像がじわじわと直っていきました。私は、初めて石像はあんなきれいな形をしていたのだと知ることができました。


「すごい」と私が呟くと、ポタッと水滴が落ちる音が聞こえたので、なんだろうと見てみると、司祭様がちょっと涙ぐんでいらっしゃいます。きっと私以上に石像が直ったことがうれしかったのでしょう。


人形様はさらに台所に入って行きました。私は好奇心を抑えきれず、音を立てないようにこっそりと台所の扉の隙間から中を覗きます。人形様は炊き出しの時に使うお椀を一つ一つ直していってくれています。なんでこの人形様はここまでの事をしてくれているのでしょうか。私たちとは何の関係もないはずなのに。


人形様の行動を見ていると、いつのまにか夜が明けてきています。人形様は全部の食器類を直し終えたのか、教会を出て行かれました。私と司祭様は教会の正面の入り口を少しだけ開けて、人形様の様子をうかがいます。


教会の門のあたりで、人形様はなぜかしきりに頷いていらっしゃいます。私たちが覗いていたのがばれていたのでしょうか。私たちに挨拶をしているようにも見えます。


司祭様が「お礼をいいましょう」と扉を大きくあけて、人形様に深くおじぎをしました。私もあわてて司祭様と同じように深く深くおじぎをしました。私と司祭様が頭を上げるとそこにはもう人形様の姿はありません。


「素敵な夜だったわ。もしかすると、神様が私たちの行いを見て、あの銀色の人形様を使わしてくださったのかもしれないわね」と司祭様がほほえまれました。


私もつられてほほえんでしまいます。私もそうだったらいいなと思いました。


神様! 私は今日も一日がんばります!

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