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第45話 後悔

今回の話の後半は胸くそが悪くなるかもしれません。グロい描写はないんですが、暗いお話です。


我は支配の王錫による精神攻撃を受けたようだ。なんてこった。我は今まで精神攻撃を受けたことはない! どうなる!? どうなってしまうんだ、我が心は!? 我が魂は!?


ぐぬぬぬぬ! ぐわわわわあ! ぐぐっ! まだか!? まだなのか!?


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


うむ、いつまで経ってもなにも変わらない。精神攻撃を受けた感じのリアクションを心の中で取ったのがとても悲しい。



ゴーレムは謎の黒いローブを着た男から支配の王錫に隷属を受けてしまった。

ゴーレムの明日は如何に!?


アニメとかならそんな風にひっぱったり、実際に隷属させられて、仲間達が必死の思いでその隷属を解くために行動するっていうのが多いのではないだろうか。しかし、我がそんなストーリー通りに動く必要はないのである。助けてくれる仲間もいないのに。


・・・・・・い、いや、忘れるな。我にはマブダチがいる。マブダチが2人もいるからさ! ほんとに我が困ったときはヒカルとか来てくれると思うよ! 多分ね。


世界の声も「試みられました」とはいったけど、「隷属させられました」とはいっていない。ちょっと、愕然とした方が盛り上がってしまうのではないだろうかと、とっさに我は計算しちゃったわけだ。我は空気を読めるゴーレムだからな! まぁ、だから何って感じだけど。


せっかくなので、ここは隷属させられました作戦を実行したいと思う。


ふっふっふ、まるでスパイのようじゃないか。


今の我にはラインライトがあるから、銃撃戦のようなマネもできてしまう。いつオファーが来てもいいように、シュタッと着地したりとか、ゴロゴロ回転しなが ら相手の魔法を避けたりとか、いろんな場面を想定して隠れたところで練習していたのが役に立ちそうだ。今ならブラシ3本くらいでオファーを受けてもいいと 考えている。


黒ローブは、よほど支配の王錫の力に自信があるのだろう。我が隷属されたことを疑うことなく、「ついてこい」と短く呟く。声の感じからすると女みたいだ。我はカクっとうなずき、黒ローブの後についていく。そして、そのまま王城へと入ることに成功した。


王城の中は、さすがに王城だといった感じの作りになっていた。ゴージャスな作りだ。まったく、こんな所に金をかけるなら、少しはスラムの子供達を何とかしてやってほしい。数少ない我のファンだからな。


黒ローブはさらに王城の奥へと進む。きょろきょろすることは出来ないのがちょっともどかしい。もっとよく見たいのに。この黒ローブは結構お偉いさんみたいだ。途中ですれ違う人間達が頭を下げて道を譲っている。我についても何も言わないしね。


王城の離れにある塔にやってきた。ここが目的地か。塔の上に昇っていくのかと思ったら逆だった。地下へと降りていっている。ちょっとじめじめしている。換気はしっかりしているのだろうか。地下深くまで降りていったところ、頑丈そうな扉の前にやってきた。


黒ローブはその扉の前で何か呪文を唱えている。我には「開け、ゴマ」と聞こえた。【通訳】が正常に機能しているのか非常に気になる。だが、今まで【通訳】 が間違っていたことはないし、たしかに「開け、ゴマ」と言ったのだろう。あり得ないと思うことが起こるのがファンタジーの常道だ。


扉の奥に進んでいく黒ローブ。我はその黒ローブの後について奥へと進んでいった。





あぁ、我は隷属させられました作戦なんてするんじゃなかったと後悔した。


そこには、何人ものローブを着た人間達がいた。そして、おびただしい数の巨大な檻や巨大な水槽があった。檻や水槽には色々な改造をされた者達が入れられている。水槽の中に入れられている者はほとんどが元は人魚だったみたいだ。


これほどの人魚がここに集められていたなんて、人魚の国から売り払われた人魚のほぼ全員がここに集められたのではないだろうか。改造された者達は理性はあまり残っていなさそうだ。目に光が、意思があまり感じられない。


奥の方の部屋からはちょっと屍臭が漂ってくる。香を焚いて匂いをごまかしているけど、我にはわかってしまうよ。我はその部屋を隙間から覗くと、おびただしい亡骸があった。骨だけになった人魚の亡骸もある。


水槽の中の改造された人魚とこの亡骸をあわせると売り払われたという人魚は、ほぼ全員がここに集められたと考えて良いだろう。我が商船で人魚を助けることができたのは本当に偶然だったようだ。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、激昂状態が沈静化しました}


なんて胸くその悪い場所なんだろう。これが人間のする所業なのか。いや、人間だからする所業なのか。我にはわからない。


そんな場所なのに、黒ローブは部屋の中にいたローブを着た者達に、我を隷属させてきたとうれしそうに話をしている。それを聞いたローブを着た者達は、感嘆と共に黒ローブを褒め称えている。さすがは、支配の王錫だなんて言葉も聞こえてくる。


なんで、こんなところでそんなにうれしそうにできるんだ。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、激昂状態が沈静化しました}


水槽の中の者が呟いている声が聞こえてきた。


「イタい・・・・・・助ケテ、もウ殺シて」


我に言っている訳ではない。誰に向かって言っているのかはわからない。

でもその声を聞いてしまったのは我だ。あぁ、くそ、なんだ。この気持ちは。


檻や水槽の中にいる他の者達にも意識を向けると、頭に思いが響いてくる。


「イタイ」「苦しイ」「イタイ」「タスケテ」「もウイヤダ」「死ナセテ」「眠リタイ」「帰リたい」「マァマ」「コロシテ」「苦しイ」


!!? ぐ、なんだ。これ。なんなんだよ。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、悲痛状態が解消しました}


今までこんな思いを聞いたことはなかった。この檻や水槽の中にいる者達の思いや感情なのだろうか。


{ログ:称号【トモダチ】シリーズの効果により救いを求める願いが周辺から拾い集められました}


称号の【トモダチ】シリーズにはまだこんな効果があったのか。

我はこんな効果があることを知りたくなかった。知らずにいたかった。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、激昂状態が沈静化しました}


あぁ、もうわかった。我がお前達の望みを叶えてやる。

傷みを感じる暇もないくらい一瞬で終わらせてやる。

だから、とっとと安らかに眠れよ。


我は我を中心とした極大のラインライトを発生させた。我の周囲にあったすべてが光に飲み込まれる。檻や水槽の中にいた者も、黒ローブも、その周りにいたローブを着た者達も、すべてを一瞬で飲み込んだ。傷みも恐怖も何も感じることなく消滅しただろう。


我は発生させたラインライトをそのまま空に向かって打ち上げた。王城の離れにあった塔は完全に消滅する。この塔に誰かがいたかもしれないが、その者は一緒に消えてしまったことだろう。許せとはいわない。ただ、すまない。


{ログ:ゴーレムは黒の魔女<ディザイーア>に400のダメージを与えた}

{ログ:黒の魔女<ディザイーア>は息絶えた}

{ログ:ゴーレムは魔女の弟子達に平均500のダメージを与えた}

{ログ:魔女の弟子達は息絶えた}

{ログ:ゴーレムは改造されし異形の者達に平均500のダメージを与えた}

{ログ:改造されし異形の者達は息絶えた}


塔の地下だった場所だが、天井に穴が開いたことにより、太陽の光が差し込んできた。

その光とは別に我の周りに小さな光がふわふわと集まる。


「アリガト」「モウイタクナイ」「苦シクナイ」「ありがとう」「有り難う」


その思いが聞こえた後、光が一つ一つ消えていった。


我はこんなことでお礼を言われたくない。

何がありがとうだよ、このバカ野郎どもが。

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