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第44話 復元

我はゴーレムなり。ちょっと昨夜はやり過ぎてしまったかもしれないと、反省中のゴーレムである。


冷静に考えると、人間達からしたら昨夜のラインライトは脅威に感じてしまうのではなかろうか。まぁ、過ぎたことはどうしようもない。これから先の行動を変えればいい。街中ではでかいラインライトを放たないようにしよう。


子供達や女冒険者が連れ込まれていた屋敷を少し離れた建物の屋根から見ていると、騎士団と思われる一行が屋敷の中に入っていく。色々と悪いことをしてそうな者達だったからな、しっかりと調べておいて欲しいものだ。


布にくるまれた人くらいの大きさのものがいくつも屋敷の中から運び出されていった。それを見ると何ともイヤな気分になる。せめて安らかに眠れと我は祈るのだった。



・・・・・・ログが出なかった。ということは、やはり我はあの時、祈ったことでセバスチャンに攻撃をしてしまったのかもしれない。ゴーストには祈りでダメージを与えられるのか。なんと残酷な世界なのだ。我の善意が誰かを傷つける結果になってしまうとはな。


でも、それが、それこそが生きるってことさ。多分。




我は今、教会に来ている。


昨日助けた子供達がどうなったのかなぁと思ってスラムに行ったら、やっぱり子供達はスラムに帰っていた。そんな子供達がみんなで集まって移動している。何があるのかと思い、建物の屋根の上から後を付けていく。どうやら子供達は前方に見える教会に用があるようだ。


どうも教会で炊き出しがある日なのだろうね。結構な人だかりが出来ている。ただ教会もそんなに余裕があるわけではないみたい。建物には痛みが目立っているし、炊き出しは正直にいえば粗末なものだ。


子供達は炊き出しの食事を美味しそうに食べ終えると、教会のシスターに後についていった。シスターの周りに集まって座り、子供向けの神の教えを聞いているようだ。シスターからの話が終わると子供達はまたスラムへと帰って行った。


我のファンである子供達によくしてくれているのだな、この教会は。情けは人の為ならず。巡り巡っていいことが起こるべきであろう。この世界が残酷であるならば、我だけでも情け深く行こうではないか。


うむ、誰にもこの思いが伝わらないのが悲しい。



夜になった。


我は抜き足差し足で教会へと近づいていく。ふっふっふ、まずはこのガタが来ている門からだ。我は門を持ってぼーっと立つ。少し時間が経つと門がきれいに【復元】された。我の【復元】スキルは何とも便利なものだ。門を直した後は、教会の周りにある崩れた塀も1カ所1カ所直していく。直すといっても、壊れた場所に手を触れて立っているだけなんだけどね。


ん? 視線を感じる。誰だ!? 我は塀に手を置いたままあたりを見回すも、誰の姿も見えない。


・・・・・・気のせいということもないだろう。ピンキーのストーキングにも気付いたこの我の第六感だ。誰かが見ていたのは間違いないだろう。まぁ、いいや。【姿隠し】のスキルを発動中なので、心のきれいなのぞき魔のはずだ。のぞきたければのぞくがいい。我は大抵のことはオープンにしているからな。やましいことのない我には見られて困ることはないんだぜ!


さて、塀もきれいになった。自分のスキルが怖い。超便利。


次は教会の建物自体を直していこう。ヒビの入った窓ガラスや、教会の屋根についているエンブレム。屋根の穴が開いているところも丁寧に一つ一つ直している。ただ触ってじーっとしているだけなのだが、我はしっかりと働いているのだよ!


教会の外観もきれいになった。次は教会の中だろう。どうやって入ろうかな。さすがに教会の正面の扉とかはしまっているだろうしと思いつつ、扉を押してみると、開いた。


!!? 開いてしまったよ。鍵はかけていないのか。実に不用心である。おじゃましますと心の中で呟き、我はそっと中に入る。


教会の中にある長イスも傷んだ箇所を触って復元していく。長イスの数もなかなか数が多い。だけど、今夜中には終わるはず。なぜならば、【復元】スキルにも熟練度とかがあるのかもしれない。復元させるスピードがどんどん早くなっているのだ。


やはり何事も小さな事の積み重ねなのだ。いきなり早くなるのではない。ジリジリと早くなるのさ。


何より今晩中に直しきりたい理由がある。それは一夜で直った方がインパクトが大きいと思うのだ。一夜でいきなりきれいになってたら、マジで、なにこれって思っちゃうはずだよ。ふふふ。サプライズは仕掛けるのが楽しいのだ! がんばろう。


長いすに教会内の壁のヒビとかもきれいに直した。教会の顔であるステンドグラスもちょっと割れてヒビが入っている。ロッククライミングがこんな時にも役に立つ。我は壁をするすると登り、ステンドグラスも無事直すことに成功した。


そのステンドグラスの前には結構大きい石像がある。


この教会で信仰を捧げている神を表しているのかな。指先とか、ちょっとした箇所がかけている。右腕とかは丸々折れてなくなっている。これはひどい。我はじっと触り復元していく。ただ、かけた先の腕とかがないので、復元に時間がかかっている。


これってどうやって復元しているんだろう。我の魔力でも使っているのだろうか。ちっちっち、ここは異世界ファンタジー。不思議パワーは不思議だから不思議パワーっていうんだぜ。そんな野暮なことを考えてちゃぁ無粋ってもんさ。うむ、考えてもわからないことは考えないでおこう。ようは直ればいいのだよ。


さて、石像も直したし他の部屋もちょっと見るかな。ただし、シスターがこの教会にはいるから、見つからないように気を付けないと。台所のような部屋に来た。お椀の数が多い。木でできているけど欠けたりヒビが入っているものがほとんどだ。我はそれらの食器類1つ1つをすべて復元していった。小さいところも手を抜かない。まさか、こんなところまでっていうところまできっちりかっちり直している。その方が驚きが大きいはずだ。


我は最後まで手を抜かないよ!


我は見事に、夜明け前に教会をきれいに復元した。きっちりと締め切りを守るゴーレム、それが我。我は門まで進み、振り返って自分の仕事ぶりを確認する。うむうむと一人頷く。納得の仕事ぶりである。そうして一人余韻に浸っていると、教会の扉が開いて、中から女性の司祭とシスターが出てきて一礼して来るでは無いか!?


!? ま、まさか、我は行動がずっと見られていたのか!? あの時感じた視線は彼女らか!? だから、教会の扉が開いていたのか!!? サプライズが失敗してしまった!!! サプライズが露見することほど恥ずかしいことはない。我は、ぐわーっと思いながら、教会を後にした。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}


ふー、サプライズが失敗してしまうとはなんたること。もうしばらくは教会には行かないでおこう。もう、あの司祭達も空気を読んで、まぁ、なんということでしょうって驚いてくれたらよかったのに!


そう考えながら、王城が見える建物の屋根に座っている。朝日がまぶしい。そんな朝日に照らされる我はもっとまぶしい。


すると王城からこの間、我の前に立ちはだかった黒いローブを着た者が出てきた。ん、我の方を見た気がするな。その黒いローブを着た者、長いから黒ローブでいいか黒ローブは我がいる建物の近くまで歩いてくる。


んー、絶対我に気付いてるよね。来るならば来るがいい。そう考えていると、黒ローブがふわっと浮いて、我の座っている屋根の上までやってきた。空を飛ぶとはなかなかやるな。ローブのはためきがちょっとかっこいいではないか。我は一応立ち上がった。


すると黒ローブは右手に黒い不気味な宝玉をはめ込んだ杖を取り出した。なんだろう、その趣味の悪い杖は。さらに我に向かって何かを呟いてくる。


「隷属せよ、汝、我が力の前に隷属せよ」


隷属せよって? 何がしたいのだ? 我は黒ローブの行動に首をかしげる。次に響いた世界の声に愕然とするのだった。


{ログ:ゴーレムは支配の王錫による隷属を試みられました}


な、なんだと!? 支配の王錫!? 我が、隷属だ、と!? そ、そんなことが・・・・・・。

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