第43話 王都探索
我はゴーレムなり。歩き続けること6日、我は王都へと到着した。
この国はヴィディー王国というらしい。ファンタジーだから、王国と無意識に思っていたけど、帝国や共和国もこの世界にはあるようだ。この国が王都でホントによかった。もしも帝都だったらちょっと恥ずかしかったよ。
王都にはドワーフの鍛冶屋やエルフの道具屋、獣人の奴隷屋とか色々な店があった。獣人の奴隷屋で獣人の奴隷が売られているんだぜ? なんでだろうね。人間がブイブイ言わせている国だけど、人間以外が全員奴隷って訳でも無いらしい。さすがに王都だけあって、人間の数が多いけどね。
我は王都についてから、人に触らぬように、建物の屋根の上を移動している。建物の壁面だってちょっとしたとっかかりがあればすいすい移動できる。ロックライミングをしていたあの2週間は決して無駄ではなかったのだ。
我は王城へも忍び込んだ。さすがに昼間には忍び込まず、夜になってから忍び込んだ。
王城をぐるりと囲む塀の上を通り過ぎる時、ちょっとした抵抗があったのだけど、我の【非接触】スキルが発動したのか、あっさり侵入できる。ふっ、我の前では王城の防御といえどたいしたことはない。
余裕ぶったのが悪かったのだろうか。
我は王城の屋根の上で取り囲まれております。黒ずくめの格好をしたいかにも怪しい者達に。その中には一人だけローブを着た魔法使いのような者もいる。ローブを深くかぶっているから男か女か、老人か若者かはわからない。
それにしてもなぜだろう。我の【姿隠し】のスキルは発動中だ。
こんなうさんくさい格好をした者達の心がきれいだとでも言うのだろうか。いや、待て。黒ずくめの格好をするというのは、逆に少年の、子供の心を持った者達なのかもしれない。すれた大人では恥ずかしくて着れないのではなかろうか。そう考えれば納得である。我の姿が見えるということも。
ばれてしまっては仕方がない。さて、どうしようかと考えていると、黒ずくめの者達が襲いかかってきた。容赦のない攻撃だ。我は当たっても傷つかないけど、こいつら殺すつもりで来てやがる。
どうする、そのまま当たるか!?
いや、我の特訓の成果を見せる時は今なのだ!
我はとっさに回避する。迫り来る刃という刃を華麗にかわす。スー、スーと流れるようにかわしていくその姿はかっこいい。そして忘れてはいけない。我はラインライトを発動している!
黒ずくめの者達の間を縫うように輝く光の軌跡。それこそが我の動いた跡。そして最後に魔法使いが放った風の刃をくるりとジャンプしてかわす。そうすることで縦にも光の軌跡が描かれた。
あっけにとられる黒ずくめの者と魔法使い。
ふっふっふ。そうであろう、そうであろう。我の開発したラインライトの使い方に目を奪われるであろう! 我もがんばった甲斐があるというものだ!
あっけにとられている一同を後に、我は身体全体からラインライトを放出する。攻撃力はない明るいだけのラインライト。突然、カッとまばゆく光った我。光ると同時に闇の中へと姿を隠した。そうして我は黒ずくめの襲撃者達を見事にまいたのであった。
我は王城から離れた建物の上に立っている。はー、忍び込むのに失敗した。ちょっと警戒されているだろうから、少し日を開けた方がいいかもしれないな。
王都の端にはスラムがあった。
なんか小汚い格好をした人間が多いなぁと思っていたら、スラムだった。大人はどうでもいいけど、子供達も結構スラムにはいるんだよね。建物の上から、そんなスラムに生きる子供達を見ていると、物乞いをしたり、盗みをしたり、毎日を生きるために必死のようだ。我はゴーレムだから、どうしようもないんだけどね。見なければよかった。
そんなスラムの子供達を見ている時に、ちょうど子供狩りが行われた。どうにも見た目が怪しい大人の一団が現れて、子供達を片っ端から袋に詰め込んで連れて行っている。スラムの子供達が減っていても誰も気にしないだろうから、定期的にこういう大人達が子供を連れ去っているのかも。なんとか逃げ延びた子供達もいたが、捕まった子供たちの方が多かった。
我はそのまま連れ去られていく子供達の後を付けていった。
結構でかい屋敷に辿り着いた。裏口から子供を連れ去った大人達が入っていく。身分の高いヤツが暮らしていそうな屋敷だぜ。我は大人達に姿が見えないのをいいことに、ほとんど一緒に屋敷の中へと入っていった。
屋敷には地下室があったかなりでかい。連れ去られた子供達は、牢屋みたいな所に詰め込まれている。子供達だけでなく、若い女性も多くいたことに驚いた。女性は冒険者のような格好をしている者が多い。王都に住んでいる者じゃなくて、流れの冒険者を狙ってさらっているのかもしれない。
子供達はめそめそと泣いている。女達は手と足を縛られて座らされていて、身動きができないようだ。ちっ、子供や女の涙は苦手だ。怪しい大人達がその地下室を後にした後、我は【姿隠し】のスキルを解いた。
牢屋の中に閉じ込められた子供や女達は突然現れた我に驚いている。我は気にせず、牢屋に近づく。扉を力任せにこじ開けた。我が出てこいとジェスチャーで示すと、子供達はおそるおそる牢屋の外に出てきた。そこで待つように身振り手振りで伝える。
我は牢屋の中の女たちに近づき、手足を縛っていたロープを引きちぎっていく。我が近づいた時にちょっと怯えられた。なんとも寂しい。言葉が伝わらないからコミュニケーションができないのはやはり困ると実感した。
我は一同についてこいと手を振り、先頭を歩き始める。子供達は我に従い、おそるおそるといった感じでついてくる。その後ろに女達が続くと思ったら、ついてきていない。どうやら我について行ってもいいものか判断しかねているようだ。
もう一度、来い来いとジェスチャーで伝えて、我は先へと進むことにした。別について来ないなら、ついてこないでいいのだ。我についてくる子供達だけでも外に逃がせればそれでいい。
我は子供達をつれて先に進む。結構進んだところで、振り返ると女達も子供達の後をついてきている。うむ、それでいい。
我は地下室をでて、屋敷の裏口へと進む。そこには骨のようにやせた貴族みたいな格好をした男と、その男に従うように、先ほどの怪しい男達がいた。子供や女達に命が惜しければとっとと地下室に戻れと脅している。我の事は眼中になさそうだ。
我は前に進み出る。そして、ラインライトを周囲に発動させ、道をふさいでいる者達全員に向けて放った。命までは取る気がないので、足や腕を一撃ずつ打ち抜いて戦闘不能に追い込んでいく。
我の後ろでは、子供達がすごい、すごいと大はしゃぎだ! ふっふっふ、もっと褒め称えるがよい! 我が余韻に浸っていると、足を打ち抜かれたやせた貴族がまだぶつくさ言っている。お前こんなことをしてただですむと思うなよ、みたいなことを。これほどの力量差を見せつけても、バカには理解できぬのか。
しかたあるまい。貴様にもわかるように力の差を見せつけてやろう。
我は屋敷の前に広がる広い庭の上空に向かって開いた手を向ける。そして、でかいラインライトを3本ほどまとめて発動させた。魔力を結構込めた甲斐があり、あたりは夜の闇に包まれていたが、昼間のように明るくなった。そして、我はその手をそのまま振り下ろす。
チュ、チュ、チュドン!!! と地面に大穴が開いた。
これを見て言葉をなくすやせた貴族。怪しい者達も痛みを忘れてぽかんとしている。我の後ろにいた女達も目を見開いて固まっている。子供達だけが、マジかよ!? 、すげー! 、すごおい! と歓声をあげて喜んでいる。
ふっふっふ、そうであろう、そうであろう。我の魔法はすごかろう! ラインライトはレア魔法だからなかなか見る機会もないであろう。しっかりとその目に焼き付けるがよい!
子供達に囲まれてちやほやと歓声を上げられる。我は両手をあげ、落ち着けよ、たいしたことじゃないからさと大人の余裕をアピールする! 子供達がしきりにもう一度、もう一度見たいと声を上げ始めた。
こ、これは、アンコールというものだろうか!? 我もついにアンコールをされるほどになっちゃったのか!?
よかろう! それほどまでに見たいと言うならば応えねばなるまい! しかとその目に焼き付けよ!
我は子供達のアンコールに応えるため、空に向かって両手を掲げた。先ほどよりも魔力を込めて、20本ほどのラインライトを発生させる。空に向かって手を上げたのは、ラインライトがよく見えるように空高くに発生させたためだ。王都全体が昼間のように照らされている。
我は行くぜっという意思を込めて子供達の方を向いて頷く。子供達もゴクリとつばを飲み込んで頷く。我は両手を勢いよく下ろす。ラインライトは天より、光の軌跡を描きながら、1本1本少しの時間差をおきながら屋敷の庭に降り注いでいく。
チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!! チュドン!!!
子供達はそんな光景に、うわぁああああああ!! と歓声を上げて大盛り上がりだ! ふははははは、見よ、これが我のラインライトだ! とくとその目に、その心に刻みつけよ!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
まずいな、屋敷の庭には結構深い穴が開いているし、大きな音がしてしまった。これってば人が集まってしまうフラグなのではないだろうか。我がそんな事を考えていると、通りの方からガチャガチャと鎧がぶつかるような音が聞こえてきた。
うむ、少しばかり調子に乗ってしまったかもしれん。我は我の周りを取り囲む子供達に頷きながら、その場を後にするのだった。背中からはラインライトを発生させていたので、我の後ろには光の軌跡が見えたことだろう。
かっこいいという声が我の耳にはしっかりと聞こえてきたぜ!
ふっふっふ、夜の闇の中にきらめく一筋の閃光。それこそが我、きらきらときらめく、きらめきのゴーレムなのである!
後は任せて、とっとと逃げるか。




