第41話 2人目のマブダチ
我はゴーレムなり
今、我は一仕事を終えて立っている。天井から降り注ぐ光を反射させながら立っている。その姿はとてもかっこいいはず! あっ、でもこんな直射日光に当たっていたら、光を反射しすぎてまぶしいかもしれん。
うさんくさい関西弁をしゃべる自称・精霊王のヒカル。
悪い奴ではない。むしろなかなかにいい奴だ。我と会話ができるだけでも、その存在はかけがえのないものだ。でもヒカルの話は話半分くらいに聞いていた方がいいのでは無いかと思う。なぜならば、邪竜ヤマタノオオドラゴーンはそんなにたいした相手ではなかったからね。我のラインライトの前にあっけなく沈んだ。
やっぱり、ちょっとオーバーに言ってたんだろう。星を食い尽くすって相当だよ。物語でいえばラスボスレベルだ。我の物語は始まったばかりなのに、序盤からそんなに強い敵が出てくる理由も無いわけさ。ヒカルは関西弁を使うくらいだから、オーバーに言っていろいろなことをアピールをしていたんだと思う。なんてったって、精霊王と自称するくらいだ。見栄っ張りなのだ。
でも、我はそんなことを思っても口には出さない。
おっと、ヒカルは心も読めるから、考えるのはこのあたりでやめておいた方がいいな。白の立方体がとても大切なものらしかったので、それを壊しちゃった我は責任を感じたのだ。責任を背負うのも一人前の証なのである。
ちなみに、ヒカルを守ったのはラインライトを威力を高めてログハウスみたいに積み重ねただけのものである。特別な魔法では無い。いや、間違った。ラインライトは特別なレア魔法だ。我ってばラインライト特化型だから。
ヒカルはぼーっと我を見つめてくる。
なんだろう。ひょっとして天井に大穴を開けたのはまずかっただろうか。ラインライトの実戦初投入だったので、張り切ってしまったからな。我も内心やりすぎたかもとは思っている。だが、ここではそんな弱気な所を見せたらダメだ。あくまでも問題ないよね、当たり前だよねと強気に平然としておくべきなのだ。
{ログ:ゴーレムは邪竜ヤマタノオオドラゴーンに合計280,000のダメージを与えた}
{ログ:邪竜ヤマタノオオドラゴーンは息絶えた}
{ログ:ゴーレムはLv28に上がった}
お、ログが聞こえた。28万のダメージとはなかなかだ。我の過去最大のダメージだ。ただこのダメージは合計だから1発1発は300程度のダメージだったのではないだろうか。かっこいいかなと思って1000発近く打ち続けたからな!
レベルも一気に28まで上がった。なかなか強かったみたいだ、あの邪竜は。ダメージも28万だったし、今回は28という数字にそこはかとない縁を感じる。
{称号【屠りしモノ】を得ました}
{称号【屠りしモノ】を得たことにより、スキル【虐殺】を得ました}
なっ、なんだと!? 虐殺!!? ちょっと勘弁して! この世界には鑑定スキルがあるんだよ。【バカになる】よりも、【虐殺】の方が、スキルを見た相手をどん引きさせるんじゃなかろうか・・・・・・。我は両手を頭にやり、くねくねと苦悩する。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、憂鬱状態が解消しました}
まぁ、仕方がない。ゲットしちゃったものは仕方がない。称号は気軽にキャッチアンドリリースできないのだ。一度得てしまったからには、前向きにつきあっていくしかない。
我はヒカルの近くまで進んでいく。ヒカルはいつまでぼーっとしているのだろう。
『おい、ヒカル。いつまでぼうっとしているのだ。邪竜は滅んだぞ。これで良かったのだろう?』
「あ、ああ。よかったんや、が。お前さんはいったい何者や?」
おっ、これはついに言えるんじゃないか、あの台詞が。
『我はゴーレムなり!』
ようやく言えた! 伝わった。これで我が一人称を我にした甲斐もあったというものだ! キャラ作りはこつこつと小さなところから続いているのだ。我はようやく言えた台詞に一人感動に浸る。
「? そりゃ見りゃわかるで」
なんと、ヒカルの求めていた答えとは違ったらしい。何者やってゴーレム以外の何者でもないんだが。種族名でも聞きたいのか。
『よくわからんが、我の名前はゴーレム。種族はメタルゴーレム。それ以外の何者でもない』
ヒカルはなんとも微妙な顔つきになる。ちょっと納得していない感じ。
『? 我はヒカルが何を考えているのかよくわからないぞ』
「奇遇やな、ワイもお前さんが何を考えているのかまったくわからん。邪竜に立ち向かってあっさりと倒すなんてワイはそんな非常識な存在をしらん」
『そうか、ヒカルはひとつ物知りになったんだな。良かったじゃん』
「・・・・・・まぁ、もうええわ。ゴーレム、ありがとさん。お前さんのおかげでほんまに助かったで。死ぬんを覚悟しとったけど、こうして生きながらえとるからには、夢や幻じゃないんやろ。ほんまにありがとう」
そういってヒカルは深々と頭を下げる。我はそっとヒカルの肩に手を置き、頭を上げさせる。
『気にするな、我とヒカルの仲だ。目の前で困っている者がいるのなら助けるのは当たり前だ』
「ゴーレム、お前さん。そんなにもワイのことを」
ちょっとうるうるしているヒカル。おっと我のイケてる発言がヒカルの琴線に触れたのかな。ふっふっふ。遠慮するな。泣きたい時には泣いていいんだぜ。
{称号【精霊のトモダチ】を得ました}
{称号【精霊のトモダチ】を得たことにより、スキル【姿隠し】を得ました}
おぉ、トモダチの称号を得たよ。これで我とヒカルは世界の声も公認のトモダチだ! やったね。
{ログ:光の精霊王との親睦度30を超えました}
{ログ:規定値を超えましたので、マブダチとして登録されました}
{ログ:称号【精霊のトモダチ】の効果が発動。光の精霊王と念話が可能になりました}
さらにマブダチ登録がされた。この世界で2人目のマブダチだ! これで念話もできるね! って、ヒカルとは問題なく意思疎通ができているから、今までと何かが変わるわけではない。
しかし、世界の声が光の精霊王と言っていた。マジか。マジでヒカルは精霊王だったのか。念のために聞いておこうかな。ちょっとドキドキするよ。マジで王様なのか?
『おい、ヒカル。おぬしは本当に精霊王なのか? 本当の本当に光の精霊王なのか?』
「ん、あぁ、そうやで。光の精霊王や。ただ、まぁ、お前さんの力の前では、精霊王も形無しやけどな」
なんと、自称・精霊王ではなく、本当に精霊王だった。ちょっとなれなれしかったかも。ははー、精霊王様であらせられましたか、とでも言ってひれ伏した方がいいのだろうか。でも、ここは空気を読まずに、このまま接しよう。マブダチだからな!
『そうか、自称なんて言ってすまなかったな』
「気にせんといて。お前さんからしたら、ワイの力はたいしたもんやない」
『うむ、それもそうだな』
「いや、もうちょっと気にしてくれてもいいんやで」
気にしなくていいとか、気にしてくれとか注文の多いやつだ。あっ、今までスキルについては自分で試したり、スキルの名前から判断してたけど、コミュニケーションがとれるヒカルになら、新しく得たスキルのことを聞ける。聞いてみよ。
『ヒカルに1つ聞きたいのだが、【姿隠し】というスキルについて知っているか? 知っているなら教えて欲しい』
「【姿隠し】いうたら、ワイら妖精が普段使ってるスキルやで。その名の通り姿を隠すスキルや。ただし、きれいな心の者には効果がないスキルやな。きれいな心を持っとったらワイらの姿はそのまま見える。ワイらの姿がそのまま見えたお前さんは、心がきれいっちゅうわけやな」
ふっふっふ。我が心がきれいか。我の心はラムネのA玉くらいに澄んでいるからな。そしてA玉のようにゆがみのない丸い心なのだよ。
「A玉ってなんやねん?」
ヒカルが突っ込んできた。心を読めるというのは便利なものだ。でも、コミュニケーションがとれている事がちょっとうれしい! これだよ、これ! 会話が大切なのだよ。A玉について説明しようかとも思ったが、ラムネなどを説明するのも面倒だったので話題を変えよう。
『ヒカル、それでおぬしはこれからどうするんだ?』
「ワイか? ワイは精霊界に帰ることにするわ。他の精霊達も心配しとるやろうからな。はよ、安心させてやりたいんや」
『そうか、帰るのか。名残惜しいが、また何かあったら我を呼ぶといい。今回のように簡単に命を投げだそうとするのではないぞ』
「あぁ、ありがと。普段はその台詞はワイが誰かにいうんやけどね、今回はほんまにその通りや。なんかあったら、お前さんに相談するわ」
『うむ、そうするがいい』
ヒカルはちょっと苦笑しながら、我に手を差し出す。我はその手をしっかりと握り返す。
「おまえさんが精霊の住処に行くことがあったら、ワイを思い浮かべてや。その時は特別に精霊界に案内したるさかいな。ほな、またな」
『またな、ヒカル』
そう言ってヒカルは精霊界に帰っていった。我は一人、穴の中に取り残された。ヒカルは空を飛べるみたいだったから、我を穴の上に運んでもらえば良かった。失敗した。
天井を見上げて、はぁ、と思いながら首を左右に振った。その後、ちょっとロッククライミングが楽しくなり、我が穴から出たのは邪竜を屠ってから2週間後だった。
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名前 ゴーレム
種族 メタルゴーレム
Lv 28
ステータス
最大HP:578
最大MP:551
攻撃力:255(+0)
防御力:255(+0)
素早さ:213
頭 脳:209
運 :255
スキル
【ステータス固定】
【復元】
【覚醒】
【悪あがき】
【非接触】
【バカになる】
【水泳】
【遠吠え】
【通訳】
【祈り】
【ラインライト】
【虐殺】
【姿隠し】
称号
【変わらぬモノ】
【悟りしモノ】
【諦めぬモノ】
【愛でるモノ】
【煽りしモノ】
【人魚のトモダチ】
【犬のトモダチ】
【声のトモダチ】
【死者のトモダチ】
【屠りしモノ】
【精霊のトモダチ】
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