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第40話 復活する邪竜

あかん、あかんで。


人間達が戦ばかりしおってからに・・・・・・、この大陸に血が流れすぎた。もうワイらの力ではこいつを抑え切れん。ワイらが必死にこいつを抑えているが、それも時間の問題や。


こいつの力はどんどんと強まり、ワイらの力はどんどんと消耗し続けている。


「精霊王様方、もうダメです! 逃げましょう!」

「もう私たちにできることはありません!」


くそ、配下の精霊達も逃げ腰や。でも、それも仕方ない。ワイかていっぱいいっぱいなんやから。まだ逃げ出さずに一緒に抑えているだけでたいしたもんなんや。


「もう少し、もう少しだけ待ちぃ。ここで逃げても大陸が滅びたら、いずれワイらも生きてくことが出来んなるんや。ぎりぎりまで粘ろうやないか」


配下の精霊達は、「精霊王様」とつぶやき、強い決意を秘めて再びこいつを抑えつけ始めた。


ワイかて、この状態が長く続かんことくらいわかっとる。でも、最後まで粘らなあかん。それが光の精霊王としてのワイの矜恃や。


だれか、こいつを止めてくれ。


ワイは叶うことがないとわかっている願いを捧げた。





ーーとある草原


人の世はいつも戦いだ。

見よ。我の目の前に広がる草原には、多くの兵士達の亡骸が無造作に転がっている。所々で動いているのは、兵士達から武器をはぎ取る輩か、兵士達の屍肉をむさぼる鳥や獣のようだ。中には魔物もいるかもしれないな。


はー、やだやだ。


こんな所をわざわざ歩く必要もあるまいと違う方向へと歩き始める。


我には、最近とある方向からゾクゾクとした気配を感じるのだ。なんかこう魂がワクワクするような感じ。これは我がゴーレムになってから初めてのことだ。あー、ソワソワする。授業中にトイレに行こうか、行くまいか、手をあげるべきか、あげないべきかくらいソワソワしているよ。


もしかすると、我と似たような者がいるのかもしれない。そいつが我を呼んでいたりするのでは無いだろうか。


ワフー! いいじゃないか。人差し指と人差し指をつきあわせて意思疎通が出来たりするかもしれないよ。我はそんなことを考えると、我慢できなくなり駆け足で走っていくのだった。





ーー3日後


全力疾走を続けること3日。我は走りに走ったぜ。陸上選手なんて目じゃないくらいのスピードが出ていたよ、間違いない。途中、襲ってきたキラキラ大好きドラゴンも我のスピードを前にして、全く近づけなかったからね。ドラゴンよ、今はお前に関わっている時では無い。この胸のワクワクを確かめる方が優先順位が高いのだ。


四方に大きな大木がそびえ立つ森に到着した。結構、広い森だ。大きな大木は本当にでかい。大きな大木って何さって思うけど、なんか低い雲に届いておるのだ。幹の太さもものすごい。なんだこの木は。


で、そんな木に近づいたところ、根元に魔法陣が刻まれた立方体の大きな石があった。今回は黒じゃなくて白い。真っ白。触ると大変な事になるから触らない。


念のため、もう1本だけ違う大木の根元も確認しておこう。


あった。こちらの大木にも魔法陣の刻まれた立方体がある。こちらも白い。なんか燃え尽きたぜみたいなことを連想してしまうほど真っ白い。まさか、本当に力がなくなっている事なんてあるまい。これはきっと力がなくなっていると思って触ったら、痛い目を見るパターンだ。だって、光沢があってきれいだからね。


我に同じ手は通じない。ゴーレムには同じ手は通じないのだよ!


向かい合わせにある大木を線でつないで、その線が交差するところを目指すことにする。なんというか、封印されているモノがあるとしたら、そういうところのはずだからな。




森の中は静かだ。非常に静か。生き物の気配が無い。鳥のさえずりや動物の鳴き声が全くない。なんだ、これ? 雰囲気が異常だな。ひょっとして来ない方がよかったのかな。いや、胸のザワメキに従うべきなのだ。


そんな事を考えていると目の前に白い魔法陣の刻まれた立方体が見えてきた。やはりこの森の中心に何かがあったようだな。さすがは我だ。思わず自画自賛してしまう。名探偵ゴーレムと呼ばれることも遠くないのではなかろうか。


そんな立方体の周りをうろうろとする我。立方体には触るなかれ。痛い目を見るからね。


我の胸の高鳴りはここに来てから最高潮に達している。もうすごいソワソワする。ソワソワするんだよ! もうダメとわかっているけど、触っちゃうか立方体に? 触っちゃう? ちょーっとだけ触っちゃう?


そんな何回も痛い目に遭う訳がない。2度あることは3度あるというが、我ってばまだ1度しかあったことがないから、大丈夫なんじゃないかな! おし! やろう! やらずに後悔するよりも、やって後悔すべき!


はぁ!っと思いながら立方体に手を伸ばす!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


危ない。我の手が立方体に触れる寸前だ。我はゆっくりと手を引っ込める。落ち着け。そんなに急ぐ必要は無い。もうちょっと観察をするべきだ。


我は立方体の周囲をくるくると回る。じーっと観察をしているが変化はない。どうするべきなのかね。


はっ! 閃いた!


我は魔法を覚えたのだ。覚えたことは実戦で使わねばなるまい。立方体は頑強そうだから、魔力をそこそこ込めてもいいだろう。そしてラインライトを発射! 我はあえて目からラインライトを発射する! なぜならば、目からビームみたいでかっこいいから!


チュドンと音を立てて、白い立方体に穴が開いた。貫通している。思ったよりも柔らかかったみたい。まぁ、時にはこういうこともある。すると立方体がシュワシュワと光の泡となって消えていった。なんと! 消えちゃった。


立方体があった場所に行って見るも何も無い。単に壊しただけかと思ったら、足下から光が輝きだした。これはだめなヤツだと思うと同時に、我を中心に足下に直径3メートルほどの穴が開いた。


我は自由落下で落ちていく。やばい結構深い。



ーー


もう限界や。もうワイらにはこいつを抑えつけておくことはできん。


「みんな、もう無理や、精霊界に一時撤退するで」

「「「はい」」」


みんな声が暗い。当然や、これでこの大陸にこいつが解き放たれれば、ひどいことが起こってしまうのがわかってるんやから。


「小さい精霊から順次、帰っていき。王であるワイらが最後に帰るさかいな」


そう告げると、ふらふらになった小さい精霊達が一人、また一人と精霊界に帰って行った。


後残っているのは、光の精霊王であるワイと、闇、火、水、風、土、雷、木のそれぞれの精霊王たちだけや。


そんな時、突如、真上にあった封印石が砕け散った感じがした。ワイ以外の精霊王達も驚愕と共に上を向いているから、間違いないやろ。


信じられへん。


白の封印石はたとえ、こいつが出てきたとしても砕けることは無いはずや。こいつが解き放たれ、暴れ回った後、もしも封印することが出来る機会が万が一にもあった場合の切り札になるはずやのに。


これでこいつを再度封印することもできなくなった。ワイらにはもうどうしようも無い。



そんなことを考えていたら、真上から銀色の何かがが落ちてきた。ドーンと大きい音を立てたで。ここはかなり深いからな。しゃあないわ。小さい人型の形に地面に穴が開いてるわ。あんなのホンマにあるんやな。ギャグやと思っとったわ。


おっ、穴から出てきたで。銀色の何かが。あれはゴーレムっちゅうやつやな。銀色なんて珍しいゴーレムもいたもんや。



ちっ、よけいなことを考えてもうた。他の精霊王達を見回し、頷く。順次、精霊界に戻っていく精霊王達。最後に一人ワイだけ残る。ワイは無駄やとわかってるけど、最後まであがかなあかん。


少しでもこいつを抑えておくためにな。



ーー


穴に落ちた。深かった。地面に激突した。


いたたたた、と思わず言ってしまったが、痛くない。ふっふっふ。我のメタルボディの方が地面よりも固かったようだな。


我はよいしょと穴から出る。


!? うそ!? マジか!?


我の姿通りの穴が開いているよ。こんなのホントにあるんだな。マンガやアニメの中だけの話かと思っていたよ。写真、写真を撮らないとそう思って強くその穴を見つめた。


{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。ゴーレムの落下跡を記録した}


そういえば、ルーフやイチロウ、ジロウとかは心のシャッターを押していないな。忘れてたわけじゃないけどね。ほら、目をつむって思い出せば、すぐに思い浮かぶさ。


{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。イチロウとジロウとのハイタッチを記録した}


!? なんと!?


目の前のことじゃなくても心のシャッターは押せるのかよ! 我って実に高機能じゃないか! いや、落ち着け。こういうのはあげて落とされることが多い。喜んでいたら、バーカって感じでたたき落とされることが多いのが常だ。


セバスチャンとの事も思い浮かべてみよう。あぁ、だめだ、ガイコツのメイドにいたずらするダメなセバスチャンを想像してしまう。これは我の想像であり、妄想だ。さすがに心のシャッターは押せまい。


{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。執事のパワセクハラを記録した}


!!? まじか!


我の想像も記録できるのかよ! 妄想の自由バンザイだ!

それにしても、執事のパワセクハラとは。パワハラとセクハラを合体した意味なんだろうか。


こんなダメなセバスチャンは見たことないね。プリントアウト機能が無いのが救いだな。ほんとにスマンセバスチャン! 我が悪いのでは無い! そしてセバスチャンも悪くない! これは想像力を持つが故に起こった悲劇なのだ!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


ちょっとだけ写真をガンガン撮る人の気持ちがわかってしまった気がするよ。写真は楽しいね! 我はどちらかというとCANON派だったよ。


さて、それにしてもなぜ、落ちてしまったのか。こういうときは何かが起こっているはず。周りを探ってみよう。ものすごい広大な空間だ。地面の下にこんなに広大な空間があるとはね。どうなってるんだ。


その空間の中央には、光っているヤツ、真っ黒なヤツ、燃えているヤツ、みずみずしいヤツ、つむじ風みたいなヤツ、ごつごつしたヤツ、ぴかぴか放電しているヤツがいた。



不思議な空間だし、不思議なヤツらだ。さすがファンタジー。ファンタジーという言葉は便利だな。魔法の言葉だ。それですべてがなんとなく納得できてしまう。ファンタジーだからありだよねって。ゴーレムが何言ってるんだって感じもするけどね。


ちなみに不思議な格好をしたヤツらは結構でかい。我が小さいだけでなく純粋にでかい。セバスチャンよりもでかい。3〜5メートルくらいの大きさがあるんじゃないだろうか。そいつらが輪になって集まっている。はっきり言って異様な光景だ。何かの儀式でもしているのかな。


あっ、なんかどんどん消えていく。最後に一人だけ光っているヤツが残った。何しているんだろうね。


我は光っているヤツに近づく。野生の野良猫に私は危険じゃありませんよーってアピールしながら近づくのと同じように慎重に近づく。光っているヤツはなんか疲れている。光っているヤツとずっと呼ぶのも何だな。そうだ、ヒカルって呼ぶことにしよう。


ヒカルは必死の形相で手を身体の前に水平にあげてうなっている。ヒカルがいぶかしげな表情で我を見る。我もじっとヒカルを見る。


こんな時はコミュニケーションが必要だろう。我はヒカルの前に進み、前に出されている手をめがけてハイタッチする。


パチンとヒカルの手と我の手が触れあった。


どう? どうよ? って感じでヒカルを見るもいぶかしげな表情のままだ。なんとハイタッチで笑顔のコミュニケーションができなかった。ヒカルは気むずかしいのだね。



「ゴーレムのお前さんや。いったい何がしたいんや? ここは危ないからとっとと出て行った方がええで」


ヒカルが我に話しかけてきた。いきなりハイタッチをしたことは間違いではなかったようだ。こうしてヒカルが話しかけてきたのだから、計算通りだ!


我は『このあたりから魂がゾクゾク、ワクワクする感じを受けたから来ただけだ』と思いながら、ジェスチャーで伝えようと必死にがんばる。魂がゾクゾク、ワクワクというところを表現するのが実に難しい。ヒカルにこの思いは伝わるだろうか。


「ゾクゾク、ワクワクする感じやて?」


!!! うっそ! 伝わってるよ! マジか! 我の今のジェスチャーでゾクゾクとかワクワクとか伝わっちゃった? おいおいおい! 今日は素晴らしい日だ! もしかして、我はヒカルと出会うためにここに来たのかもしれない! いや、間違いなくヒカルに出会うためにここに来たのだ!


我はこの世界に来て初めてとも言える興奮を覚える! 興奮のあまりバク宙をしようとして、失敗した。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


「なんや、いきなり踊り出しおって。ワイはお前さんのジェスチャー? とやらで理解したんやないで。お前さんの心を読んだんや。ワイは光の精霊王やさかい、そういうのもできるんや」


なんと、このうさんくさい関西弁を使うヒカルは精霊王らしい。まぁ、あくまでも自称・精霊王だ。ヒカルが精霊王というのを示す証拠はない。自己申告の役職を信じるほど我は甘くないんだからな。


「なんや自称・精霊王って。そんなん言われたんは初めてや」


!? 的確に我の思考を読み取っている。ホントに、ヒカルは我の心が読めるのか。試しにセバスチャンとガイコツメイドのカップのパワセクハラの一場面を想像してみた。


「もしかして、ヒカルってワイのことかいな・・・・・・。執事とガイコツメイドのワンシーンとか見せてくれんでええで」


おお。本当にヒカルは我の心を読めるらしい。久しぶりにコミュニケーションができるよ。ちょっとうれしいね。


「いや、うれしいとか、どうでもいいから、はよ逃げや。もうすぐここでえらいもんが復活してまうからな。命が惜しいやろ。はよ逃げとき」


えらいもんって何なんだ。フラグか? でも、こんな疲れているんだから、嘘なんてつかないよな。


『えらいもんってなんだよ、ヒカル?』


半眼になって我を見てくるヒカル。


「ヒカルって・・・・・・。えらいなれなれしいゴーレムや。こんなゴーレム初めてやで」


我の質問を軽く無視してくるなんて、ヒカルはホントに精霊王なのかもしれない。人の話を聞かないヤツはバカかえらいヤツかのどちらかだ。


「バカって・・・・・・。えらいやつっちゅうのはな、邪竜ヤマタノオオドラゴーンちゅう化け物や。こいつは古の神々や精霊達がぎょうさん集まってやっとの思いで封じた化け物や。そいつがもうじき復活してしまうんや」


『ふーん、じゃあ、またみんなで集まって封印すればよいのでは? ヒカルが精霊王なら神々や他の精霊を集められるんじゃないの? 』


それともやっぱり自称なのか。


「自称やないわ! 古の神々はもうおらん。信仰もされず、自然の力も弱った今の世界では、精霊達だけでは邪竜を封印できないんや。それに封印しようにも、白の封印石が壊れてもうた。もうおしまいや」


我はちょっとドキっとする。白の封印石って上にあったやつかな。


『ち、ちょ、ちょっと聞きたいんだけど、白の封印石って何?』


「なんでちょっと、どもっとるんかはしらんが、この上に白い立方体があったやろ。あれが邪竜を封印する5つの封印石の要やったんやが、なんでかさっき壊れてしもうたんや」


『そ、そうか、不思議なこともあるものだな』


我は必死に心を空っぽにする。【悟りしモノ】の称号が飾りでは無いことを見せつける時は今だ。




我はヒカルの横に座り瞑想する。


「なんで座る? 逃げろやって言ってるやろ?」


我はヒカルの横に座ったまま瞑想する。


「無視か・・・・・・まぁ、ええわ。好きにしいや。もうすぐ邪竜が復活するわ」


我はヒカルの横に座ったまま瞑想を続ける。



程なく、大地が揺れはじめ、地面がひび割れる。地下にある広大な空間すべてを埋め尽くすほどの巨大な竜が姿を現した。ヒカルが我をつかみあげ、空間の端の方まで下がる。うむ、ヒカルはよいヤツだな。なんだかんだで面倒見がよい。うさんくさいけどさ。


『おぉ、でかいドラゴンだ。頭が8つあるし、背中には翼もあるんだな。こんなのが外に出たら大変だね』


軽い調子でヒカルに言うと、ヒカルは苦しげに応えてきた。


「アホウ。大変どころの騒ぎや無いわ。この大陸、いや、下手したらこの星が食い尽くされてまうわ」


『じゃあ、倒すしかないな』


「倒せたら苦労はないわ。古でも倒せなんだからこその、今の状況や。最後にワイのすべての力を振り絞って攻撃するさかい、お前さんはその間に逃げときや」


そう言って、我を地面に下ろすヒカル。逃げるも何も空を飛べないからさ。ロッククライミングでのぼろうにも、落ちてきた穴まで結構あるんだよ。鈍角になっているこの壁をのぼれるかな、我ってばロッククライミングしたことないんだよね。


そんな我の思いはヒカルに届かない。ヒカルはまばゆく光輝き呪文を唱えた。


「インフィニットシューティングスター!!」


きらめく幾つもの光の玉が邪竜に襲いかかる。ドドドドドドドドドと轟音が鳴り響く。しかし、邪竜には傷一つついていない。


ヒカルが絶望するかのように、「やっぱりか、ここまでやな」と呟いた。


邪竜は8つの頭をすべてヒカルの方に向けた。大きく口を開き、ヒカルに向かって破壊の炎を吐き出した。迫る炎に目をつむるヒカル。


ごぉっという音と共にヒカルは炎に飲み込まれた。邪竜は炎を吐き終えると静かに羽を羽ばたかせ始める。ゆっくりと宙に浮く邪竜。邪竜が天井を突き破り、外に飛び立とうとした時、地面に光輝く箱が出来ていることに気がついた。



ーー


邪竜の炎が迫り、死んだと諦めたが、いつまでたっても痛みが訪れない。「あつうない」とワイは思わず声に出してしまう。


周りを見ると光がまるで守ってくれているかのように自分の周りを囲んでいる。光の精霊王である自分でもこんな芸当はできないやろう。ワイには何が起こったのか理解できん。


ただ目の前に小さい銀色のゴーレムが立っているんや。いきなり落ちてきて、やけになれなれしいゴーレムやった。人の忠告も聞かないやつやった。


そんなゴーレムが話しかけてきた。このゴーレムはしゃべれないようなんで、思いを伝えてきたという方が正しいんやが。


『大丈夫か、ヒカル』


「あ、ああ、大丈夫や」


『あの邪竜を倒したいのだろう? ならば我も力を貸そう』


「は? 何をいってるんや、お前さ・・・・・・」


ツッコむ暇も無く、周りを取り囲んでいた光が棒のようになって、ゴーレムの周囲に移動していく。まさか、このゴーレムがこの光を操っているのやろうか。


『ふっふっふ、とくと見よ。我が魔法ラインライトの威力を!』


その台詞と共に、ゴーレムはさらに数百にも上る巨大な光を周囲に生み出した。ラインライトは単なる棒状の光をだす魔法や。こんなのはラインライトとはいわへんやろ。


その光が一斉に邪竜に襲いかかる。いや、光は次から次に生まれ息をつく暇もなく邪竜に向かって突き進んでいく。それは途切れることが無い。しかも一撃一撃が邪竜の身体を貫いている。さらにはその先の天井までも貫いて止まることは無い。


ワイは目の前の光景に理解が追いつかへん。古の神々と精霊達でさえ封印するのがやっとやった邪竜をこれほど一方的に追い詰めていくことがあり得るのやろうか。


なおもチュイン、チュインと打ち出され続ける光によって、邪竜は反撃することもできずに消え去った。肉片一つ残さずに。なんともあっけない終わりかたや。天井に開いた大きな穴からはまばゆい光が降り注いでくる。


その光の真ん中に佇むゴーレム。きらきらときらめくゴーレム。その姿をワイはただ見つめることしかできんかった。

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