表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/151

第33話 別れ

イチロウとジロウの2匹は獣人の奴隷の側に寄り添うようにして寝ている。


我はそんな1人と2匹を見ながら、今日の昼間の事を振り返る。


昼間、芸を教える前に、この2匹とはスキンシップをした。最初はツンツンしていたけど、我の隠しきれぬオーラか威圧感に屈したのだろう、途中から我の事を銀色の旦那、略してダンナと呼んでくる。


その時に気付いたのだが、この2匹はなかなかの毛並みを持っている。素材はいいってやつだ。だが、いかんせん手入れがされていない。ブラッシングとかがされていないために、すこしごわごわになっている。もったいない。奴隷の飼い犬だから手入れにまで、手が回らないのかもしれない。



翌朝、木々の隙間からか朝日が差し込んできた。我は寝る必要もないのでずっと寝ずの番をしていた。血のにおいが魔物を呼び寄せるかなと心配していたが、特に襲撃はない。オークジェネラルが縄張りだ、なんだと言っていたから、このあたりには魔物が少ないのかもね。


イチロウとジロウが起き上がり、我に挨拶をしてくる。


「ガウ!」

(おはようございます! ダンナ)


「ガウ!」

(おはようごぜぇます! ダンナ)


我はそれに応えるように右手を挙げて、おはようを示す。しかし、そんな思いは伝わらなかったのか、はたまた条件反射か、我の近くにいたジロウが前足を我の手にタッチしてくる。ハイタッチみたいな感じになった。


ジロウは、はっはっはっ舌を出して実にうれしそうだ。

そんなジロウを横目にイチロウがちょっと悔しそう。


かわいそうになった我は左手も挙げる。するとすぐさまイチロウが前足を我の手にタッチしてくる。イチロウも、はっはっはっと舌を出してうれしそう顔になる。イチロウともハイタッチのような感じになった。我とイチロウとジロウは手と足を合わせて満足げに頷き合う。


新たな芸を仕込んでしまった。自分が怖いぜ。朝からほんわかした雰囲気に浸る我。ペットっていい。癒やしになるよ。


そんな中ようやく獣人の奴隷が「うぅん」とうめき声をあげ、獣人が目を覚ました。


「ガガウ!」

(ご主人! 大丈夫ですか!)


「ガガガウ!」

(ご主人! 我らのことがわかりますか!?)


イチロウとジロウは心配そうに獣人の周りをうろうろとする。


「お、お前達。無事だったのか・・・・・・俺も生きている、のか?」


獣人はなんとか半身を起こして、自分の身体を確認する。


「手当がされている? いったい誰が」


獣人は、あたりを見回し我を発見した。獣人の目と我の目があう。獣人はぴたっと動きを止めた。ケガをしていない右手を動かしているあたり、武器でも手探りで探しているのかもしれない。


そんな空気を壊すかのように、獣人に向かってイチロウとジロウが吠える!


「ガウ、ガ、ガガウ!」

(ご主人! こちらのダンナは恩人です)


「ガウガウガウ!」

(銀色のダンナがオークどもを追い払い、ご主人の手当もしてくださったのですぜ)


「なんだと。では、この銀色のが俺達を助けてくれたのか?」


「「ガウ!」」

(その通りでさ)


なんだと!? イチロウとジロウ、そして獣人の間にコミュニケーションが成り立っている。獣人も通訳スキルを持っているのか。鑑定スキルがないから調べることができないのが残念だ。


「ガウガウ!」

(銀色のダンナはすごいんですぜ!)


「ガガガウ! ガウ!」

(あの穴を見て下せぇ。ダンナのパンチ一発で開いた大穴でさ!)


「ガウガウガ!」

(それを見たオークどもはびびって逃げ帰ったのですぜ)


「ガウガウ」

(ほんとダンナはすごいぜ!)


イチロウとジロウが我を称える。ふっふっふ、もっと称えてくれていいんだよ。我は静かに頷く。すると獣人の男が我の方を向き、両手をついて頭を下げた。


「銀色の方、我らをお救いくださり、ありがとうございます。おかげで命を長らえることができました」


我は気にするなという風に頭を左右に振り、両手の平を獣人の男に向けて振った。そんな我の手にすかさずイチロウとジロウがハイタッチ。2匹ともハッハッハッとちょっとうれしそう。なんとも間抜けな絵面になった。頭をあげた獣人の男もその光景に言葉を無くしている。


この後どうするのかを獣人の男に身振り手振りで聞く。マブダチがいれば通訳をしてくれるだろうに。ないものねだりをしても仕方が無い、時間がかかっても今できることをしていこう。


思いの外、獣人の男は察しがよい。できる男はひと味違うね。もっと時間がかかるかと思ったが、かなり早く、我の思いが伝わったのか、獣人の男がしゃべり始めた。


「俺の名は、ルーフといいます。チャオオイに住む狼の一族の者です。我らの一族は成人の前に世界を旅する習慣があり、その最中に仲間の者を逃がすために、俺はケガを負ってしまいました。そして、運悪く、人族に捕まってしまい、奴隷とされてしまったのです。この2匹にもすまないことをしてしまいました」


ふむふむ、どこにでもありそうな不幸な話だ。我は頷きながら、先を促す。


「そんな中、俺たちは人間の冒険者に買われ、前衛として酷使されていたのです。今回はオークたちに囲まれて、囮とされたので命はないものと思っていました。銀色の方、本当にありがとうございます」


そう言って再び頭を下げる。我は気にするなと頭を振る。今度は手を前には上げないぜ。ハイタッチはさせない。我は空気の読めるゴーレムである。そこまではなんとなくわかっていた。問題はこれからどうするのさって事だ。我は先を促す。


「俺はこの首輪がある限り、奴隷のままです。逃げることもできません。俺は再び街に向かい、冒険者達を探すつもりです」


ふむふむ、やっぱりその首輪は隷属の首輪だったのか。あの冒険者たちと合流するだと。あんな風に奴隷を囮にする冒険者と一緒にいたら、また同じ目に遭わされるだろう。ああいうことをするヤツらは好きではない。逃げたいみたいだから、首輪を外してあげよう。我ならば簡単にブチって外せるからね。


ちょいちょいと手招きをし、ルーフを近くに呼び寄せる。何をするのかはわかってないが、ルーフは我のジェスチャー通りに近くにくる。そして、我が隷属の首輪に手をかけると、ルーフは慌てて我の手をどかそうとする。我は気にせずにブチッと首輪を引きちぎった。


「なっ!?」


ルーフは目の前の出来事が信じられないのか目を見開く。おそるおそる自分の首に手をやり、隷属の首輪が外れていることを確かめると、静かに涙を流した。その様子をじっと眺めるのも悪趣味だと思い、我はルーフに背を向けて視線を外した。


「ガウガウ!」

(なっ、首輪が外れたんですね! ご主人!)


「ガウガガ!」

(やった! やったじゃないですか! ご主人! これで自由ですぜ!)


イチロウとジロウは空気を読まずに非常にうれしそうにルーフの周りを走り回る。そして、次には我の周りをうれしそうに走り回りだした。


「ガウガウ!」

(ダンナはすげぇぜ! さすがだぜ!)


「ガウガガ!」

(さすがはダンナだ! すごすぎるぜ!)


ふっふっふ。褒めよ褒めよ。遠慮せずに褒めるがいい。



しばらくするとルーフも落ち着いたようだ。ルーフは先ほどと同じように我の方を向き、両手をついて先ほどよりも深く頭を下げた。


「銀色の方、重ね重ねありがとうございます。これで俺たちも自分の部族のもとに帰ることができます。このご恩は決して忘れません」


うむうむと我は頷く。どのくらい奴隷だったのかわからないけど、早く帰るといい。家族の者達も心配しているであろう。しかし、どうしたのだろうルーフは頭を下げたままだ。


「銀色の方に受けた恩に報いる術を俺は持っていません。どうかお許しください」


別にどうでもいいんだけどな、そんな事。我はそっとルーフの肩に手を置き、頭を上げさせる。我は首をふり、そんなものはいらないことを示す。そんな我を見て感動するルーフ。イチロウもジロウも我のそんな姿に「クゥーーン」と鳴いて感動している。


やばい、なんか今の我はイケてる。イケてることが出来ているよ!

イケメンだ! イケメンがここにいますよ! 皆さん!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


冷静に考えれば、イケメンじゃない。我はゴーレムだから、イケゴー? もしくはイケゴレとでも呼ぶべきだったな。


我はお礼として、ルーフとイチロウ、ジロウに街道まで案内してもらう。我は街に行きたいのだ。だから、道があるところまで案内してくれることが、君たちにできる恩返しだよ、と伝えるのに非常に苦労したのは言うまでも無い。



そして街道まで出て、我とルーフたちは別れる事になる。


「いつかチャオオイに来られる事があったら、風の狼の部族においでください。できる限りの歓待をさせていただきます」


「ガウガウ!」

(ありがとう、ダンナ!)


「ガガウ!」

(ダンナの事は決して忘れねぇぜ!)


思い、思いの別れの言葉を口にするルーフ達。我はうむと頷き右手を振る。そんな我の手にイチロウはすかさずハイタッチ。うぬーっとうなるジロウ。仕方がないので、左手も振る。ジロウもすかさずハイタッチ。タッチしたまま、手を左右に振る。ちょっと楽しくなってきた!


「「ガウ!」」

(ダンナ!)


ルーフは苦笑している。いつまでも終わりそうになかったが、我がそっと手を下ろし、頷くとルーフ達は街とは反対方向へと歩いていった。何度も振り返り、手を振ってくる。最後に大きくイチロウとジロウの遠吠えが聞こえて完全に見えなくなったのだった。



{称号【犬のトモダチ】を得ました}

{称号【犬のトモダチ】を得たことにより、スキル【遠吠え】を得ました}


!?


新しいスキルを覚えた! 遠吠えだ。これは我にもしゃべれる時代が到来したのではなかろうか!

届くかわからないが、ルーフ達に向かって大きく遠吠えをする!


!?


ダメだ。あたりは静寂に包まれている。静かなものだ。小鳥のさえずりが聞こえてくるくらいだ。しゃべれない我では遠吠えをすることができないらしい。


なんだこれ。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、がっかり状態が解消しました}

ーー

名前 ゴーレム

種族 メタルゴーレム

Lv 12

ステータス 

最大HP:578

最大MP:551

攻撃力:255(+0)

防御力:255(+0)

素早さ:213

頭 脳:209

運  :255


スキル

【ステータス固定】

【復元】

【覚醒】

【悪あがき】

【通訳】

【非接触】

【バカになる】

【水泳】

【遠吠え】

称号

【変わらぬモノ】

【悟りしモノ】

【諦めぬモノ】

【声のトモダチ】

【愛でるモノ】

【煽りしモノ】

【人魚のトモダチ】

【犬のトモダチ】

ーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブログを作りました。
『しょせつ』
↑クリックで飛べます
― 新着の感想 ―
[良い点] うおおおおおおおお!!! 犬が可愛すぎてwwww ルーフも礼儀正しいやつで、いつかまた再会できるといいですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ