表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/151

第31話 上陸

どんどんと浅くなる海。これは陸地が近いに違いない。

海底が近づいてくる。浅くなり自然と足がつく。もう泳ぐのは無理だな。


我はついに砂浜へと到着した。我は来たぞ! 陸地だ! 我はたった今、人が多く住むザイカルタに上陸したのだ!


ふっふっふ。陸地だから、ごろごろ前転することだって出来るんだぜ。

とぅ! ザク、バタン!


仰向けに倒れてしまった。砂浜に手をついて、そのまま華麗に丸まり、連続で前転していくことを思い描いていたが、我のメタルボディはそんなに柔な作りをしていなかった。柔軟性が無いからこそのメタルボディなのだ。


寝転んだまま空を見上げる。空が青い。なんていい天気なんだろう。我の上陸をこの空も喜んでいるかのようではないか。


我はうれしくなりころころと転がる。前転は無理でも、横に転がるくらいは出来るのだ。ごろごろごろごろと転がっていく。


足跡1つ無かったきれいな砂浜に我の転がった跡が刻み込まれていく。

我の初上陸記念だ! この砂浜には端から端まで我の体跡を刻みつけてやる。


少し早めに、ゴロゴロゴロゴロゴロ。

リズムにのって、ごろんごろんごろんごろん。

ゆっくりと、ごーろごろごーろごろ。


やばい、この砂浜は思ったより広いぞ。まだ4分の1くらいしか刻みつけれていない。ちょっとペースアップだ。


我は勢いを付けて回り始める。ゴロロンゴロロンゴロロンゴロロンゴロゴロゴロゴロ。ドガ。


おぅ。岩に当たった。ようやく片方の端に到達した。しかし、我が上陸した場所はちょうど砂浜の真ん中だ。反対側にも我の体跡を刻みつけねば! 上陸地点に早歩きで戻る。


おし! もう半分にも刻みつけてやる。我はすでに横に転がるスペシャリストのようなものだ。


変幻自在の緩急自在に転がることができる。

ゴロゴロごろんごろゴロゴロロンごーろごろゴロンゴロンゴーロゴロゴロゴロゴロごろろゴロ。ふぁさ。


あら、草の上だ。これでこの砂浜の一面に我の体跡が刻み込まれたわけだ。我はむくりと起き上がり、満足げに荒れた砂浜を見つめる。実にいい転がりだった!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


久しぶりの陸地で我はちょっとテンションがおかしくなっていたようだ。


我は別に転がる為に上陸をしたわけではない。かと言って何か目的があって上陸したわけでもない。今の我は計画無しのノープランだ。さて、どうしよう。とりあえず人の街に行ってみるか。今のところ人魚を見つけたら助けることしか目的が無いからね。


ということで、我は人の街を目指して海岸をあとにする。



とりあえずまっすぐ進む。道でも見つかるかと期待したのだけど見つからない。いつの間にか森の中に入ってしまった。道なんて全然ない。


落ちた木の枝を拾い、右手に持って、指揮者のように枝を振り回す。木が生い茂っているから正直歩きづらい。だが、我は虫にさされる心配もないし、木の葉が当たっても痛くないから、太い木の幹以外はよけずにまっすぐ歩いて行く。


ぐわ、蜘蛛の巣に引っかかった。



森では色々な魔物が出てくる。でかくて赤い熊。尾が2本ある黒い虎。それらを飲み込んでしまえるほど大きな蛇。魔物達は問答無用で我に襲いかかってくる。しかし、我がダメージを受けることは1度も無く、それぞれパシっと軽くはたいて追い払う。


まったく、もっと危機感を持って望んで欲しいものだ。自然界に住んでいるのだから、相手と自分の力量の差がわからなかったら、すぐに死んでしまうだろうに。


あれ? 我って結構いろんな魔物に襲われているよ。結果から見ると我の一方的な勝利ばかりなのに、襲ってくる魔物はあとを絶たない。もしかしてゴーレムだから、オーラ的なものがでていないのだろうか。体も小さいし、もしかしてなめられている? 


いやいやいや。そんなことはない。


このきらめくメタルボディからはきっと強者のオーラみたいなモノがあふれているはずだ。そんな事を考えながら進んでいると、いきなり蔓が足にまとわりついて来て、大きな花に飲み込まれた。


じゅわーと液体がにじみ出てくる。これって消化液? 我は捕食されたのか? じゅくじゅくと体全体が消化液に浸かっていく。錆びたり化学反応を起こしたりしないよね!? 我が身体よ!


身体全体を覆う消化液に浸かりながら、まったく変化のない身体に安心する。ちょっとべたべたした感じなので、洗い流したい。風呂に入りたいよ、我は。


!? 風呂。そうだよ! 風呂だ。


人間の街に行ったら風呂に入ろう! やはり、楽しみがないと旅は続けられない。地球のローマ時代の初めのころの浴場は混浴だったはずだ。現代日本にだって混浴の所はまだあったはずだし、この世界も混浴かもしれない! 我にはそれを確かめる義務があるだろう! 知的探求心がむくむくとあふれてくるよ!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


我は閉じ込められていた大きな花をベリッと破る。消化液が漏れ、しなしなと花がしおれていった。


{ログ:ゴーレムは植物に120のダメージを与えた}

{ログ:植物は息絶えた}

{ログ:ゴーレムはLv12に上がった}


おぉ、久しぶりにレベルが上がった。たまにはステータスを見てみよう。

ステータス!


ーー

名前 ゴーレム

種族 メタルゴーレム

Lv 12

ステータス 

最大HP:578

最大MP:551

攻撃力:255(+0)

防御力:255(+0)

素早さ:213

頭 脳:209

運  :255


スキル

【ステータス固定】

【復元】

【覚醒】

【悪あがき】

【通訳】

【非接触】

【バカになる】

【水泳】

称号

【変わらぬモノ】

【悟りしモノ】

【諦めぬモノ】

【声のトモダチ】

【愛でるモノ】

【煽りしモノ】

【人魚のトモダチ】

ーー


うむ、今まで通りだ。Lvが12に変わっているだけで、ステータスのパラメータに変動は無い。我のステータスが固定されているってのは確定だな。


しかし、レベルが上がって新しいスキルを覚えたことが無い。我ってばもしかして称号を得ないとスキルを得ることができないのではなかろうか。もしそうだとしたら辛い現実である。我は魔法を覚えられない可能性が高くなってくる。せっかくの異世界なのに、魔法が使えないとは残念なことこの上なし・・・・・・。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、憂鬱状態が解消しました}


気を取り直して、先へと進んでいく。ただ消化液でべたべたする。ちょっと生臭い。ただ、このにおいのおかげか、魔物から襲われることが減った。しかし、それと同じくらい我の元気も減っていく。これならば、まだ魔物に襲われていた方がよい。


魔物からも避けられるというぼっち街道まっしぐらな、我。


サラサラと水の流れる音が聞こえてくる。これは川でしょ! 行くっきゃ無いと、駆けだした。おぉ、小さいけど間違いなく川だ。小川だよ。ジャボと水の中に入る。やった! 腿くらいまでの深さがある。我は横に寝っ転がり、小川の中に沈み込んだ。


あー、いいわ。海の中にいた時は、陸上が恋しかったけど、たまに水中にいるのもいいわ。


消化液を洗い流すため、自分の身体を掌でこする。


ギキーーーィ!


!? 頭に響くイヤな音。水中だからまだ緩和されているけど、黒板をひっかいたようなイヤな音だ。ひょっとしなくても我が自分の身体をこすったからだよな。


なんてこった・・・・・・。これじゃ、落ち着いて洗い流せない。でも、べたべたするのも、生臭いのもイヤだ。どうしよう。



ーー2日後


我はゴーレムなり。


急ぐ旅でもないので、我は小川に沈み込んで以降、ずっと川の中でゴロゴロしている。やることがないからとか、面倒くさいからとかいったネガティブな思考でゴロゴロしているわけじゃない。これは消化液を洗い流すためのポジティブなゴロゴロなのである。


小さい川なので2回転もすれば川縁にぶつかってしまうが、我は何度も反復する。おかげでそのあたりだけ川底が深くなってしまった。正直、すまん!


そして丸2日かけて転がることで我の身体からはようやく消化液を洗い流すことが出来た。よくがんばった! 人間の街に着いたら、ブラシかタオルを買おう。そうすればこんな苦労をすることもない。


消化液を洗い流せた我は立ち上がる。川に入った直後は腿のあたりくらいの深さだったのに、今では我の頭がかろうじて出るくらいの深さになってしまっている。継続することの力は実にすごいものだな!


なんとなく達成感を覚えつつ、我は小川から出て、まっすぐ歩き始めた。




やはり小川でのゴロゴロは成功だ。


においが取れているらしい。我を襲ってくる魔物が再び現れ始めた。これで我もぼっち街道の住人ではなくなった。我を襲ってくる魔物たちは、強者のオーラを悟れないバカばかりなのかとも考えたが、それは違うことに気付いた。


きっと我の愛くるしいこのメタルボディを前にすると、興奮が抑えられないのだ。そして、我からは強者のオーラ以上に、ここは重要な点だから強調しておくけど、強者のオーラ以上に、にじみ出す優しさみたいなものがあるんじゃなかろうか。隠しても隠しきれぬ優しさが、魔物たちにはきっとわかるのだろう。


だから、じゃれついて来ているわけよ。魔物達は。そう考えれば納得である。そりゃ、我からは殺気も何も出ていないからね。【覚りしモノ】は伊達ではないのだよ。魔物からしたら、ちょっとちょっかい出して、気になるあの子の気をひきたい子供のようなかんじなのだろうさ、きっとね。


ほら、我の周りにまた魔物がよって来たよ。


これは狼だな。こんどは6匹くらいの群れだ。その中でもひときわ大きい狼が我に飛びかかってくる。よしよし。しかたないね。ぱしっとはたくと、キャンって鳴き声をあげて逃げていく。群れのボスだったのかな、他の狼は我にじゃれついてくること無く逃げていった。


ちなみに我は手加減することが、半端ないほど上手になっていると思う。武器を使わない素手での戦いだと相手を殺してしまうことがほぼなくなった。やさしくなでる感じで叩けば、大抵の相手はなんとか生き残る事がわかっている。


ふー、人気者は辛いね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブログを作りました。
『しょせつ』
↑クリックで飛べます
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ