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第30話 海賊船と商船

船とすれ違ったことにより、我の目指す陸地、いや、大陸といった方がいいな。大陸に近づけていることが実感できた。


ちなみに我の目指している大陸は、主に人族が住んでいるザイカルタ。当然、人族以外の種族も住んでいるけど、ザイカルタでブイブイいわせているのは人族らしい。


最初は獣人の住んでいるチャオオイという大陸を目指そうかとも考えた。


獣人といえば、うさ耳ガールに、ネコ耳ガール、犬耳ガールだっているだろう。ネコ耳ガールは語尾に「ニャ」とかつけちゃうんじゃないのとか、犬耳ガールだったらやっぱりうれしい時にはしっぽをブンブン振り回したりするのかなとか、胸のときめきが抑えきれなかった。


しかし、我は【悟りしモノ】なり。


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


いつもの世界の声が鳴り響く。我は如何なる時でもすぐさま冷静な落ち着いた賢者モードになれるのだ。悟りしモノだから覚者モードの方がいいか。ちなみに、覚者はかくしゃと読み、悟りは覚りとも書く。まぁ、どうでもいいか。


では、なぜ獣人が多く住んでいるチャオオイを目指さなかったのかといえば、ひとえに我の責任感ゆえである。


我はピンキーとの別れの際に、人魚を見つけたら助けてみるよって発言をしている。ゴーレムたる者、一度口にしたことは守らねばならない。少なくとも守ろうとする努力はした方がいい。人でなくなったが故に、人以上に誰かとの約束は守りたいと思うのだ! 我はできもしない公約を掲げる日本の政治家とは違うのだよ。


ということで、話を聞いた限り、人魚を買うとしたら人族が一番多いみたいだったので、人族が多く住まう大陸ザイカルタを目指しているというわけだ。


そんなことを考えつつ、今日も元気に背泳ぎだ。船にぶつかりそうになってからは、周りの音にも気をつけて泳いでいる。今のところ波の音しか聞こえない。



ちなみに一度だけ空からドラゴンっぽいヤツが近づいてきたことがある。プテラノドンみたいな外見でオスのライオンのように顔の周りにはたてがみがあり、2本の角も生えていた。体の大きさも結構でかい。久しぶりのイベント発生だ。


「ガウガウ、ガガガウ!」

(キラキラが泳いでおるぞ。あれはワシのものだぁあああああ!)


シーサーペントを彷彿とさせる鳴き声の通訳が聞こえてきた。無性にやる気が殺がれた。こんな時は逃げるが勝ちだ。我は海の中へと急潜行する。小型でメタルなので、潜ろうと思えばすぐさま海底付近まで潜れるのだ。


「ガ、ガガウ、ガガウ!」

(な、なんだと、待てぇえええい!)


待てといわれて待つ者はいないだろう。それにしてもドラゴンってのはキラキラしているものに異常な執着を示すのだな。我はその後、半日ほど海中で平泳ぎをして進むことになった。



波の音しか聞こえな・・・・・・ん、いや、聞こえた。何かの音が我の耳に届いたぞ!

我がゴーレムイヤーにとらえられぬ音などないわ!


{ログ:ゴーレムイヤーというスキルはありません}


・・・・・・。


我はすみやかに背泳ぎから立ち泳ぎに移行し、音が聞こえてきた方向を見てみる。

お、おぉ! ちょっと煙が上がっている。何かが起こっているのだ。これは近づかねばなるまい。


我がゴーレムボディのきらめきは止まらないし、止められない。光がある限りね。途中で発見されないためにも、トプンと水面下に沈み、煙が見えた方向を目指して海中を進んだ。



やってきました、問題の場所に。2隻の船がいた。1隻は商船で、もう1隻は海賊船のようだった。商船の外壁を見つからないように登り、状況を確認する。すでに商船側の敗北は決定しているみたい。戦闘の後を見れば、商船の護衛役が数多く死んでいる。海賊の方はケガをしている者は多いが、死んでいる者は少ない。


海賊が強いのか、護衛が弱いのかどっちだろう。全くわからない。


商船の乗組員や乗客が甲板に集められて並ばされている。周囲にはにやにやと笑う海賊達。乗客の中には女性も多い。あ、髪の毛が縦ロールをしているお嬢様みたいな子もいる。母親のような女性にしがみついて震えている。海賊に捕まった人間の末路といえば、殺されるか、どっかに奴隷として売り払われるくらいだろうからね。そりゃ、怖いよ。


海賊の船長らしき男が、商船の船長のような男に話しかける。


「おい、これで全員か? 隠れているヤツはいないんだろうな」

「ああ、これで全員だ。積み荷や金はすべて持って行っていいから、乗組員や乗客は見逃してくれ」


はっと鼻で笑う海賊。


「お前はバカか? そんな頼みを聞く必要があると思うか? 積み荷も金も全部もらう。そしてお前らは奴隷としてうっぱらう。女は処女以外はうっぱらう前に楽しませてもらうがな」


ぎゃははと笑う周囲の海賊達、並ばされている乗組員や乗客は青ざめた顔になる。あぁ、縦ロールお嬢様は泣いてしまった。船の中を調べていたらしい海賊が慌てて甲板に上がってきた。何か見つけたのか。


「お頭! この船の積み荷の中に、人魚が3匹いましたぜ! 大当たりでさぁ!」

「ホントか、おい! 何人か一緒に行って人魚を連れてこい!」

「へい! かしこまりやした! 8人ほどついて来てくれ!」



商船の船長が口を挟む。


「おい、その人魚はプーセン帝国の貴族が買ったものだ。お前ら、それを持って行くとプーセン帝国の海軍が動くことになるぞ」


我は思った、そんな事を海賊に言ってもしかたないと思うのだけど。むしろ、口封じの為にみんな連れて行かれるか、殺されるかの確率が高まった気がする。


「バーカ。海軍が怖くて海賊なんてやってられっか。お前はもういいや」


海賊の船長が、商船の船長をバカにしたように笑い、手に持っていた剣で、商船の船長の胸を突き刺す。剣を刺された船長は目を見開き、口から血を流す。剣が引き抜かれるとゆっくりと後ろに倒れていくのだった。


「殺されないとでも思っていたのか。バカなヤツだ」


海賊に同意するのもなんだが、我もそう思うよ。海賊の船長は血にぬれた剣を、倒れた船長の服にこすりつけ血をぬぐった。そして並ばされている乗組員と乗客に向かって言い放つ。


「いいか、てめーらも長生きしたかったら逆らうんじゃねぇぞ! もったいないが、別にお前らを生かしておかなきゃいけない理由はないんだからな」


それを聞き、青ざめた顔をさらに青ざめさせる一同。そんな様子を見て、周りの海賊達は笑い声をあげ、楽しげにはやし立てる。



船内から3つの檻が運ばれてきた。それぞれに一人ずつ人魚が入れられている。


どの人魚も少しやせている。大事な商品だからか食べ物はもらえていたみたいだ。だけど、どの人魚も表情が暗い。その中の一人は赤色の髪をしており、どことなくピンキーやオーレン女王に似ている。もしかするとピンキーのお姉さんなのかもしれない。



OK。状況は確認できた。商船の方も、人魚の売買に関わっているようだから、あんまり助けたくはないけど、3人の人魚を助けるついでに助けよう。海賊達は殺しに躊躇がなく手慣れているから、こいつらは生かしておく必要はないだろう。ゴミ掃除だ。


海賊の船長がうれしそうに手をたたきながら、人魚達の檻の前に移動する。

「おお! ホントに人魚じゃねぇか! しかもどいつも若くてきれいな上玉だ! こいつは高く売れるぞ! ははははは、大当たりだな、オイ」


我はゆっくりと甲板に降り立ち、人魚たちに近づいていく。途中で背を向けた海賊がいるから殴る。生かしておくつもりは無いのでグーパンだ。


ドガ! グシャ。

{ログ:ゴーレムは人間に210のダメージを与えた}

{ログ:人間は息絶えた}


ドガ! グシャ。

{ログ:ゴーレムは人間に220のダメージを与えた}

{ログ:人間は息絶えた}


真っ赤な花が船の甲板に咲いてしまった。やばい見た目が悪いぞ。海賊達はもとより、商船の乗組員や乗客も、いきなりのことに思考がおいついていないようだ。我はそのまま人魚の檻の方に進む。途中にいる海賊にはグーパンを食らわすのも忘れない。


ドガ! グシャ。

{ログ:ゴーレムは人間に208のダメージを与えた}

{ログ:人間は息絶えた}


ドガ! グシャ。

{ログ:ゴーレムは人間に196のダメージを与えた}

{ログ:人間は息絶えた}


海賊の船長が正気に戻ったのか、我を怒鳴りつけてくる。


「て、てめぇはいったッ」


ドガ! グシャ。

{ログ:ゴーレムは人間に189のダメージを与えた}

{ログ:人間は息絶えた}


怒鳴るよりも我をその手に持っている剣で切りつけてくるべきだろう。もしくは逃げるべきだったな。海賊の船長よ。逃がさないけどな。


船長がやられたことにより、残りの海賊達は浮き足立つ。我に襲いかかってくる者も多いが、自分たちの船に逃げ帰る者も多い。中には魔法を我に向かって放ってくる者もいる。


襲いかかってくる者はグーパン一発で倒す。魔法を放ってくる者もグーパンを食らわせる。


ドガ! グシャ。ドガ! グシャ。ドガ! グシャ。ドガ! グシャ。ドガ! グシャ。ドガ! グシャ。ドガ! グシャ。ドガ! グシャ。

{ログ:ゴーレムは人間達に平均205のダメージを与えた}

{ログ:人間達は息絶えた}


ふー、赤い花を咲き誇らせてしまった。かなり血なまぐさい。我には嗅覚もちゃんとあるんだな、初めて知った。



赤い花が咲き誇る光景に海賊はどん引きしている。並ばされた乗組員も乗客もどん引きしている。3人の檻の中の人魚たちもどん引きしている。我もどん引きしている。みんながみんなどん引きしている。


あっ、海賊船に戻った海賊達が、商船から船を離して逃げだそうとしているよ。しかーし、我からは逃げられない。ゴーレムからは逃げられない! トゥ! 我は華麗なジャンプをして、海賊船に乗り込んだ。


ドガンと一発、海賊船の甲板にパンチを一発。甲板に大きな穴が開く。開いた穴から、我は下に降りる。さらにそこでもパンチを一発。大きな穴が開くので、さらに降りて、もう一発ドガン。おっ、ようやく最下層みたいだ。荷物を押しのけて、船の竜骨をあらわにさせる。最後に竜骨に向かってパンチをふるう。


バギっという豪快な音と共に、竜骨が折れ、船底に大きな穴が開いた。水が勢いよく流れ込んでくる。ふっふっふ。ついでに船の横っ腹にもパンチをして穴を開けた。我はその穴から外に出る。



商船の方も逃げだそうとしているが、まだ船は動き出していない。当然だ。我が海賊船に乗りうつってから、船底に穴を開けるまで1分もかかっていないからね。超早業さ! 我からは逃げられぬよ。


商船の壁を登り切り、甲板に降り立つ。並ばされていた乗客は呆然と先ほどと同じように立ちすくんでいたが、乗組員は船を出そうと動き出していた。


しかし、我が現れた事によりぴたっと止まる。我は人間達は無視をして人魚の檻に近づいた。人魚が後ずさる。だけど狭い檻の中なので逃げ道など無い。がくがくと震えている。


檻の全面にある鉄格子を両手に持ち、ぐいっと広げる。残りの2つも同じようにぐいっと鉄格子を広げる。そして檻を船の縁まで押していく。人魚はその状況に理解が追いついていないみたいだ。


我はまず人魚を指さし、その後、海を指さす。そしてバイバイをするように手を振る。伝わるかな。伝わるといいな。伝わってくれ。我の願いが届いたのか、赤髪の人魚がおずおずと声をかけてきた。


「あ、あの。もしかして逃げろと言うことでしょうか?」


我は肯定を表すように首を縦に振る。するとどうしたことだろう、人魚はぽろぽろと泣きながら、振る振ると首をふるった。


「ありがとうございます。でも、無理なのです。私たちの首にはめられた隷属の首輪がある限り、私たちは逃げることが出来ません」


な、なんと。隷属の首輪なんてモノがあるのか。確かに3人の人魚には首輪がされている。けしからん! とにもかくにもけしからんぞ!


{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}


まぁ、よくわからないけど、引きちぎればいいだろ。ちょいちょいと手招きをして赤髪の人魚に近づいておいでと伝える。びくびくと震えながら、近づいてくる人魚。そりゃ怖いよね。


首輪に手の届くところまで来てもらうと、我は首輪に手をかけ、ブチッと引きちぎった。やっぱり我なら引きちぎれたか。ちぎれた首輪はぽいっと海に捨てた。


「え!? ええ!? ち、ちぎれた! 何で!? それに私になんの影響も無いなんて・・・・・・」


赤髪の人魚は隷属の首輪がちぎれたことに驚いて、自分の首を何度も触っている。残りの2人の人魚の首輪も同じように引きちぎった。これでよかろう。


もう一度、海を指さした。人魚達は涙を浮かべて海に飛び込んでいった。そして海の中から上半身を出し手を振りながら、お礼を言ってくる。我も手を振りかえしながら大きく頷いて見せた。人魚達はその後すぐに海に潜って見えなくなった。まずは3人。あと何人の人魚が売り払われたのか知らないが、

がんばろう。


我は人間達の方を振り返り、見渡した。誰も彼もが震えている。当たり前か。


とっとと行こう。我は商船を後にし、海の中に飛び込んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴーレムさんは基本、情けはかけていくスタイルなのに海賊には無慈悲で草w 人魚からしたら、商船の人間も海賊もどちらも同じようなもんだろうけどなあ 人間たちとしては、合法か非合法かの違いがある…
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