第28話 マブダチ
人魚の国の復興は進む。荒れた街並みも大分きれいになってきた。
このところ、ピンキーと行動することが多い。そのおかげでピンキーとの意思疎通がスムーズに行くようになった。
正直、もうそろそろ水の中から出ていきたい。
空気が恋しい。呼吸はしていないけど、空気が恋しい。
ピンキーと今日の予定のやりとりをしている際に、世界の声が響いた。
{ログ:小さな人魚ピンキーとの親睦度30を超えました}
{ログ:規定値を超えましたので、マブダチとして登録されました}
{ログ:称号【人魚のトモダチ】の効果が発動。小さな人魚ピンキーと念話が可能になりました}
!? なんと!? 念話が可能になっただと。称号はスキルが手に入るだけかと思っていたけど、他にも隠された効果があったのか! いいよ、すごくいいよ。称号!!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
ではさっそく念話を使ってみようではないか。マブダチとなったピンキーに。
ピンキーに視線を向け、使い方はわからないが、心の中で呼びかけてみた。
『こちらゴーレム。こちらゴーレム。ピンキー聞こえますか? 聞こえたら返事をしてください』
突然の呼びかけにびくりと体を震わせ、大きく目を開くピンキー。
「なに? 今のは。頭に直接声が聞こえました」
あたりを不安げにきょろきょろと見渡す。おぉ、伝わっている。我はうれしくなった。これがこの世界に転生して初めてのちゃんとしたコミュニケーションになるのだ。テンションがあがらぬ理由が無い!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}
ピンキーをとんとんとつっつき、自分を指さす。
『今の声は我だ。たった今、ピンキーと念話ができるようになったので、話しかけてみたのだ』
「まぁ! では今の声は人形様でしたか。驚いてしまい失礼しました」
『うむ。我はゴーレムなり。我はメタルゴーレムという種族で、ゴーレムというのが名前になる。だから、人形様ではなく、ゴーレムと呼んでくれ。我らはすでにマブダチだ』
「マブダチ? わ、わかりました。それではゴーレム様とお呼びさせていただきましゅ」
ふー、久しぶりの会話だ。意思が通じるというのは素晴らしい。ジェスチャーのようにどう伝えるのかを悩まなくてすむ。
「ゴーレム様。この度は私たち人魚の国をお救いくださり、本当にありがとうございましゅた!」
ピンキーは改めてお礼をいい、我に深く頭を下げる。いろんな人魚に何度もお礼を言われたので正直もうそんなにお礼をいってくれなくていいのだけどね。
『そんなに何度もお礼を言わずともいい。我も理由があってピンキーの頼みを聞いたのだ』
「頼み、でごじゃいますか? 私たちにできることならば、できる限りの事を致します」
ピンキーは我がどんな頼みをしてくるのか、不安そうだ。人魚の国を助けた見返りだ。どんな大きな頼み事なのかと心配しているのだろう。
『我の頼みというのはたいしたことでは無い。この世界のことを教えて欲しい。また地図があれば地図を見せて欲しい。我は陸の上に上がりたいのだ』
「世界のことと地図ですね。世界のことは私が知っている範囲でお教えします。ただ地図は我が国の場所が人間達に知られないように、国に1枚しかありません。それも王宮のどこかにあるそうなのですが、母上、いえ女王と限られた者達しか見れないのです。そのため、地図に関しては女王に頼んでみます」
ピンキーが噛まずに長い台詞をしゃべりきった。すこし驚いた。この子も我と同じでやれば出来る子なのかもしれない。
『そうか、無理をいうつもりはないので、地図を見ることが無理なら、陸がどこにあるのか教えて欲しい』
「はい。陸のある場所になら案内は可能でしゅ」
女王に地図を見せてもらえないか頼みに行く最中にピンキーから、この世界の事を聞いた。
この世界の名前はトリプスィーというらしい。
海には人魚族、魚人族といった種族が住み、陸の上には人族や獣人族、蜥蜴人族、植物人族、鳥人族、蟲人族、鬼人族、魔人族、妖精族などの種族が住んでいるそうだ。あとは不死族という者達もこの世界のどこかにいるとのこと。
それら以外にも、動物、植物、鳥、魚、虫といった生物はもちろん、シーサーペントなどがいたことからもわかるように魔物と呼ばれる非常に強い生物がこの世界にはいるらしい。その中でも一番強いのは竜だそうだ。やっぱり、竜はどこの世界でも強いのだね。シーサーペントも竜の一種らしい。
ちなみに我のようなゴーレムは海の中ではみたことがないそうだ。陸の上ならいるのかもしれないな。
次にこの世界でも神様という存在は信じられているとのこと。人魚たちは海神様とやらを信奉している。神話で語られている存在で、今を生きる者でその姿を実際に見た者はいない。それは人族や獣人族などが信奉している他の神々でも同じとのこと。時折、神の声を聞けるという者も現れるそうだが真偽不明らしい。
神の声って世界の声なのかもしれないと思ったが、黙っておいた。世界の声については我も詳しくない。トモダチではあるが、まだマブダチではないということなのだろう。
人がつく種族はそれぞれの住んでいる場所が違うので、あまり大きな戦争は無いらしい。ただ人族は欲望が強いので結構好戦的とのこと。人族は数もすぐに増え、一定の規模以上になるとどんどん新しい土地を求めて繰り出すことで、周りの種族からはすこしだけ嫌われているらしい。
なるほど。好戦的というよりは、人間はこちらの世界でも欲望に忠実なのかもしれないな。人の世はいつも争いよ。
最後に、今の人魚の国はあまり他の種族と交流を持っていないので、陸の上の情勢は変わっているかもしれないと付け加えてくれた。
聞きたいことは大体聞けたなぁと思ったら、王の間にたどり着いた。扉を守っていた兵士たちが、ピンキーと我の姿を認め、扉を開けてくれる。どうやらちょうど民からの陳情などが終わったところらしい。ピンキーはもちろん我に対してもボディチェックなどは特になし。ちょっとしたVIP気分に浸りつつ部屋の中に入っていく。
我とピンキーが突然訪れたことに、すこし驚きつつ女王がピンキーに話しかけてきた。
「人形様にピンキー。二人そろって訪れるとは珍しいですね。何かありましたか?」
「はい、実はゴーレム様と私がお話しすることができまして、あるお願いをされたのです。あっ、人形様のお名前もわかりしゅて、ゴーレムというのがお名前です」
「まぁ! 人形様、いえ、ゴーレム様とお呼びすべきですね。それでお願いとはなんでございましょう」
女王とピンキーの視線が我を向くが、我はピンキーとしか話せない。
『すまぬが、ピンキーよ。我と念話ができるのはソナタだけだ。だから、我の代わりに女王に地図を見せてくれぬかと頼んでもらいたい』
「そうだったのですか。では代わりにお伝えしますね。お母様、実はゴーレム様は私としか念話で話ができないそうです。そこで代わりにお伝えさせていただくのですが、ゴーレム様は可能であれば地図を見せてもらいたいとのことです」
我は肯定を表すためにとうむと頷く。内心ではピンキーが噛まずに長い台詞をしゃべったので、短い台詞が苦手なのかもしれないと考えていた。女王は少し考えながら返答する。
「地図ですか。本来であれば、人魚の限られた者しか見ることはできないのですが・・・・・・。人魚の国をお救いくださったゴーレム様ならばいいでしょう。地図のある場所までご案内致します」
『女王様。ありがとう。感謝致します』
「お母様、ゴーレム様が感謝致しますとの事です」
女王はにこりとほほえむとおもむろに玉座を立ち上がった。
「今は区切りがついているので今からご案内しましょう。では私の後について来てください。ピンキーよ。あなたもついておいでなさい。あなたもそろそろ地図について把握しておいた方がいいでしょう。ゴーレム様との通訳も必要ですしね」
女王は我とピンキーを連れて王宮の奥に向かった。どんどんと王宮の奥に進んでいく。大きな像の前までやってきた。白くきれいな1つの石で作られた像だ。なんでも海神様を想像して彫られたものらしい。女王が海神様の像に向かって何かを唱えると海神様の像の前に地下へと続いている通路が開かれたのだった。
「さぁ、どうぞ。地図はこの先にあります」
女王は通路を下に下りていく。我とピンキーも後に続いて降りていく。全員が通路を下り始めると入り口が閉じられた。突如、入り口が閉じられたことで周囲は暗くなる。ピンキーはちょっとびっくりして我の体にしがみついてきた。
「光よ」と、女王が呪文を唱えると周囲が明るくなる。魔法って便利だ。
通路をそのまま下まで降りていくと広い部屋に出た。その部屋には中央には立方体の黒い大きな石があった。もしやと思いよく見ると魔法陣も刻まれている。あれって我が目覚めた場所にあった転移石では。
『触ったらダメだ!』と叫んだが、女王はそのまま立方体に触れる。あっ、そうだ。女王には我の声が聞こえないんだった。その叫びはピンキーには聞こえていたらしく、びくっとしていた。慌てた様子でピンキーが女王に伝える。
「お母様、ゴーレム様が触ったらダメだとおっしゃられています!」
おいおい、転移しちゃうぞ! やばいよ! やばいよ! 、と思っていたが、なんともない。立方体の魔法陣が淡く輝くと目の前の大きな壁にこの世界トリプスィーの地図が浮かび上がってきたのであった。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}
「大丈夫です。これは記録石です。決められた者の魔力を通すことで、この記録石から情報を引き出すことが出来るのです。この記録石に登録されているのが、この世界の地図にございます。ゴーレム様、どうぞご覧ください」
地図を見る。映画のワンシーンのようだ。この世界の技術力は低そうなので、たいした地図は期待していなかったのだが、ごめんなさい。なめてました。想像以上だ。すっげー精密な地図だ。しかもオールカラーだよ。
こうして我は、この世界の全貌を見ることが出来たのであった。できるだけ覚えといてやろうとじっくりと意識を集中して地図を見る。
{ログ:ゴーレムは心のシャッターを押した。世界の地図を記録した}
!? 初めてまともな記録が出来た。読み出し方法がわかっていないけど、我はやったぜ!
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}




