第27話 悩み
我はゴーレムなり。
我には最近悩みがある。どうもこの体に転生してから、人間だった頃の感覚と多くの点で違いが出てきた気がするのだ。その一番違うと思う点は魚人達をあっさり殺してしまったこと。軽ーい感じでやっちゃった。
人間だった頃の我はゴキブリやムカデを殺すのでさえ、びくびくしながら殺したものだ。殺した後も片付けないといけないからね。イヤなことづくしだった。
それなのに、魚人はあっさり殺した。
シーサーペントは大蛇みたいな感じだったので罪悪感が無くても、割り切れているのだろうと思っていた。だが、魚人を殺した時も似たような感じであまり罪悪感を覚えなかった。人型の知能を持った生物を抵抗なく殺せる人間だったろうか、我は? 無理だな。人間の頃の我は食用の鶏だって殺すことはできないだろう。
もしかすると我は体だけで無く、心までもゴーレムのようになっていっているのかもしれない。このまま進んでいくと我が我でなくなってしまうのだろうか。なんとも困ったものだ。どうすればいいのだろう。
{ログ:【悟りしモノ】の効果により、苦悩状態が解消しました}
まぁ、生きていればなんとかなる。きっとなんとかできる。今は目の前の事に集中だ。
我が人魚達を助けたのは、ピンキーがかわいかったからとか、人魚を見たかったからという理由だけでは無い。それも心の片隅にはあったが、我にはもっとしたたかな考えを張り巡らせている。
我はあのまま進んでいたら、暗き海というこの世界の海の中でもっとも深い海へと潜ることになっていたらしい。そこには深海に住む未知の魔物がうじゃうじゃしており、暗き海にもぐり生きて帰った者はいないという。あぶないあぶない。知っているということはそれだけで価値がある。
ピンキーを、人魚達を助けることで、人魚の国を目指し、そこでこの世界の情報を手に入れたかったのだ。人魚の国にあるかもしれない地図を見せてもらったり、陸地の方向を教えてもらったり。我は文字は読めないけど相手の言っていることはわかるからね。ただ我が聞きたいことをどう伝えるのかが問題だ。
魚人達の支配下から脱した人魚の国は復興に力を入れている。結界は今も張られている。前回のような事がないように、緊急時にはすべての者、もちろん魚人も含む、の出入りをできないように改良されたそうだ。
人魚達は荒れた国を元に戻すために活動をしている。中には魚人の国に攻め込むべきだという者もいたけれど、女王が抑えていた。今は国を元通りにするのが優先だと。それでも戦いを主張する者は、人形様がいれば魚人達など敵では無い、と我の力を当てにしてきた。そこで我に協力を求められてもね。我はその意見を首を横に振って断った。なんと厚かましいヤツなのだとちょっといらっとした。
その後はピンキーにつれられて、その場から下がったのでどうなったのかは知らない。
我はピンキーの後についていき、色々と人魚の国を見て回った。小さな人魚のピンキーにはできることはあまりない。しかし傷ついた国民を労ったり慰めたりすることは出来るからとがんばっている。色々な所を回っているのだが、地図を見つけることは出来なかった。はー。
そんな中、人魚の国の治療院にも訪れた。なんでも魚人達との戦いで傷ついた者や、支配下で大きな傷を負った者達が治療を受けているらしい。ピンキーはそんな人魚達一人一人を熱心に励まして回っている。ふー、痛々しい。我はゴーレムになってからケガらしいケガをしたことがないけど、見るからに痛々しい。
我が珍しいのか、一番近くにいた幼い人魚の男の子が我に手を伸ばしてくる。我はその手を優しく握る。男の子はそれがうれしかったのかテンションが上がる。おいおい、安静にしていたほうがいいぞ。
このままここにいては男の子の体調にさわりそうだったので、ピンキーと共にその場を後にした。男の子が心なしか元気になったように見えた。




