第25話 さらば、不器用な自分
ボーマン将軍は目の前で行われていることが理解できなかった。
シーサーペントがあっけなく倒され、銀色の人形がシーサーペントの屍体を振り回し自分の部下達を葬っていく。
なんなのだ⁉︎ あの人形は! 昨日まではすべて順調に進んでいた。逆らう人魚がいても力でねじ伏せてきた。それなのに何故こんなことになっている。
ボーマン将軍は兵達を叱咤しながらも、自ら武器を手に取り、銀色の人形に向かっていく。それは現実を見たくないが故に、思考を止めて自ら死ににいくかのようであった。
フワァァ。トコ、ト、ト、ト……
{ログ:ゴーレムは魚人達に平均70のダメージを与えた}
{ログ:魚人達は息絶えた}
やばい、もうこれ以上手加減できない。これ以上力を抜くと鞭が地面についたままになり、動かすことが無理になる。
試しに鞭を手放し、一番近くにいた丸い魚人に優しくビンタしてみた。フグの魚人だろうか。
パシ
{ログ:ゴーレムは魚人に15のダメージを与えた}
おっ、いけた。丸い魚人は勢いよく飛んでいくが、息絶えたというログはない。あの魚人は死んではいないはずだ。
やはり我はできるのだ。手加減は可能なのだ。武器を使うと我の優しさが相手に伝わらないから、ダメなのかもしれない。まぁ、優しさというよりは、道具を使うとその道具の性能通りのダメージを最低限与えてしまうのではないだろうか。
例えるなら、鎌であれば特定の草だけを選んで刈りとることもできるが、草刈り機だとその回転する刃が通ったところは問答無用で刈り取ってしまい、刈る刈らないを選ぶようなことはできないって感じかな。
何にせよ、これからは道具を使う時は気をつけよう。基本は素手で十分だ。範囲攻撃がないとめんどくさいってだけだから、我がコツコツと頑張ればいいだけだ。
さらば、鞭よ。お前は封印する。そして、さらば、不器用な自分。我はできるゴーレムの道を歩んでいくよ。道具なんかに頼らずに。
ということで、思いを新たにして魚人達に向かっていく。おや、マンボー、いやボーマン将軍が真っ先に攻撃してくるではないか。指揮官が自ら出てくるようではダメだ。というか、とっとと退却して欲しい。すでに我は相手の兵士達を3割ほど削っている。普通の指揮官なら退却するよ。
いかにダメな相手であろうと手加減をする。出来る時には手加減をしてあげるのが我のポリシー。我はボーマン将軍を優しくはたく。やべ、足元にあった鞭(シーサーペントの亡骸)が足に引っかかった。姿勢を崩してしまった。
そのために、少し勢いを増した我の手がボーマン将軍を襲う。
パカ
{ログ:ゴーレムは魚人達に20のダメージを与えた}
ボーマン将軍が吹き飛んでいく。セーフ! 今までより与えたダメージが多かったけど、生きている。危なかった。どのくらいのHPがあるのかわからないから、ドキドキしたよ。将軍だけあって他の兵士よりも強かったのかもしれない。
ボーマン将軍が倒されたことにより、魚人達は怯む。誰もが、我に恐れを抱いているようだ。ふっふっふ。逃げていいんだぜ。
そんな我の思いが通じたのか、残った魚人達はボーマン将軍を担ぎ上げ、まだ生きているものを優先して回収し、結界の入り口から逃げて行こうとした。去る者は去れ。我は逃げる者は追わぬからな。
あれ? でも人魚の国には結界が張ってあるのに外に出れるのか。今、逃げようとしてるのは全て魚人で人魚がいないぞ? 結界に弾き返されるんじゃないのかな。
おお。普通に出て行った。外から中には通れないで、中から外には通れるのかもしれない。まぁ、魚人達が逃げてくれてよかった。逃げ道がなくて死兵となられても困るからね。窮鼠猫を噛む。そんな状況にまで追い詰めてはダメだ。
さて、と一息つきあたりを見回す。シーサーペントの亡骸が2つ、魚人の亡骸が多数。南無。我はそっと手を合わせ、冥福を祈った。その惨状を作り出したのは全部、我なんだけどね。
亡骸を無残に放置しておくのも、元日本人として抵抗がある。死んでしまえば敵も味方もないのだから。魚人達の亡骸を綺麗に並べていく。
そして、シーサーペント達の亡骸も綺麗に巻いておく。特に鞭として使ったシーサーペントには、ありがとうの意味を込めて撫でておいた。心なしか綺麗になった気がする。
最後にもう一度、南無と手を合わせて冥福を祈った。
ピンキーを呼び寄せ、並んで王宮を目指す。




