SS第9話 祈り
私は人魚の国の女王、オーレンといいます。
私は今、王宮の離れに囚われています。人魚の国が魚人に敗北してしまってから幾日もたちました。その間に我が国民である人魚達が魚人達に連れさられ人間に売られていきます。見た目も美しい若い人魚は人間達の間で非常に高値で取引されると聞いています。
私に食事を持ってくる魚人が今週は10人ほど売り払っていいものが手に入ったと私に話しかけてきます。人魚様々だよといやらしく笑い、去って行きました。
悔しさと自分自身の情けなさに思わず、涙がこぼれてしまいます。しかし、本当に泣きたいのは国民達です。そして売り払われてしまった同胞達です。売り払われた同胞達に待つ悲惨な未来を想うと涙が止まりません。
私がここに幽閉されて以降、大臣だったバッサは現れません。すでにこの国にはいないのでしょう。彼はいったい何が目的で私たちを、人魚の国を裏切ったのでしょうか。私にはその理由がわかりません。いつもまじめに人魚の国のために働いてくれていたのに。
そしてピンキーは無事に生きているでしょうか。海に愛されし子なので、海の中であればあの子は大抵の事を切り抜けられるはずです。海の中では常に幸運があの子を助けてくれるはずだから。
私には国民と娘の無事を祈ることしかできません。
そんな日々を過ごす中、幽閉されている部屋に慌てた様子で魚人の将軍とその部下達が駆け込んできました。いったい何があったのでしょうか。こんなことは初めてです。
魚人の将軍は私に問いかけてきます。
「シーサーペントと魚人の中隊30名ほどが正体不明の敵にやられた。お前に何か心当たりはないか?」
この魚人の将軍は何を言っているのでしょうか。シーサーペントと魚人の兵士を倒す? 魚人の兵士だけならうまくすれば倒せるでしょうが、シーサーペントは倒せるものではありません。からかっているのでしょうか。私は一言だけ答えます。
「私に心当たりはありません」
魚人の将軍は納得した様子ではありません。私が何かを隠しているのではないかと疑っているようです。
「本当にお前は知らないのか!?」
声を荒げて問いかけてきます。しかし、知らないものは知らないのです。再び同じ事を一言だけ答えます。
「私に心当たりはありません」
チッと舌打ちをし、魚人の将軍は私をにらみつけてきます。この様子だと本当にシーサーペントがやられてしまったのかもしれません。もしも本当にシーサーペントを倒せる者達がこの近くにいるのであれば、私たちは助かるかもしれない。でも、魚人たちだけでなく、私たち人魚も敵視している相手かもしれません。正体不明の相手に期待するのは辞めた方がいいとすぐに考えを変えました。
「それはどのくらいの人数でやってきたのでしょう。大軍でやってきたのですか?」
私のその言葉を聞いて魚人の将軍は私が本当に知らないと判断したようでした。
「本当に知らないのだな。人かどうかもわからん。キラキラとした1メルほどの人形だったらしい」
「その人形はどのくらいいたのです。シーサーペントを倒すためには数が必要でしょう?」
「シーサーペントを倒すためには少なくとも100名以上の兵士が必要。それが常識だ。だが、それは1体だったそうだ。そして、たったの一撃でシーサーペントを仕留めたらしい」
魚人の将軍は動揺しているのか、素直に私の質問に答えてくれます。将軍とその部下達は先ほどと同じように慌てた様子で駆けだして行きました。
一撃でシーサーペントを仕留める人形。そんなものがもし本当にいるのであれば、人魚や魚人だけでなく世界的な危機に発展していってしまうかもしれない。
今の私に出来ることはその人形が人魚の国に入り込まないように、結界を維持することに全力を傾けることしかありません。
海神様、どうか我らに御慈悲を。